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女王の住む塔へ

「お祭りをしてはどうだろう。どちらかの女王が気になって、顔を出してくれるかもしれない」

「旅の準備にお困りなのかも。おれたちで旅の準備を整えて差しあげれば、国を発たれるかもしれないぞ」

 王様がお触れを出してから一週間。人々は口々に、冬の女王様と春の女王様を交替させる方法を話し合っていますが、「これだ!」というような名案はまだ誰も出していませんでした。

 十五になり働きはじめた少年エディは、仕事柄街を走り回ることが多かったので、そんな人々の様子をよく見掛けていたのですが、みんながあれこれ話すのを聞いていて、だんだん腹が立ってきました。大人たちはみんな話し合うだけ、行動しようとする人が誰一人いないのです。ずっとこんな調子では、名案が浮かんで誰かが行動し始める頃には、国は雪の下に埋もれていることでしょう。

 とうとうしびれを切らしたエディは、大人たちと違って、自分でやれることをやってみようと決めました。

 でも、困ったことに、エディ自身も大人たちと一緒で、女王様を交替させる良い案があったわけではありません。というのも、女王様が引きこもっている理由が分からないので、何をすれば良いのか判断できなかったのです。

「だったら、直接女王様に訊けばいいんだ」

 早速エディは、一つの季節の間に女王様が滞在する塔へと向かいました。

 塔は国を囲む森の中に建っています。下の方は白い円柱で、屋根は黒の円錐形の、それはそれは高い塔でして、国中のどこからでもその塔の天辺を見ることができました。なので、森の中を歩いていても、迷わず塔に辿り着くことができます。

 意気揚々と雪を掻き分け、森を掻き分けて来ましたが、いざ塔を前にすると、エディは緊張してきました。もしいきなり訪ねたりして、女王様が機嫌を悪くしたらどうしましょう。そして、エディの首を跳ねたり、本当に国を雪の下に埋めてしまったら? 嫌な想像ばかりが頭の中を駆け巡りましたが、ここまで来てしまってはもう引き返せません。覚悟を決めて、塔の中に通じる扉を叩きました。

「すみませーん、冬の女王様はいらっしゃいませんかー!?」

 ドンドンと重い樫の扉を叩きますが、蝶番がガチャガチャとなるばかりで、塔の中から返事は有りません。

 聞こえなかったのかな、ともう一度扉をノックしかけたとき、キィ、と音を立てて扉が開きました。

 中から出てきたのは、エディと同じくらいの年齢の少女でした。薄い金色の髪。青い瞳。白い身体は薄くて白いワンピースだけを着ていて、とても寒そうです。

 少女の青い瞳がエディを映しました。

「どなた?」

 か細い声が尋ねます。

「えっと、あの……」

 予想外の展開に、エディは口ごもってしまいました。この塔には女王様が住んでいるはずなのですが、他に人がいるなんて、今まで聴いたことがありません。エディは前に冬の女王様を見たことがありましたので、実はこの少女が冬の女王様でした、ということもありません。

 少し躊躇いましたが、意を決して、エディは少女に尋ねました。

「冬の女王様に会いに来ました。女王様はいらっしゃいませんか?」

 少女は、表情を変えずにじっとエディを見つめます。

「貴方が捜している女王様は、今ここにはいません」

 え、とこれもまた意外な答えでした。

「それなら、冬の女王様はこの国をもう出ていかれたのですか?」

「いいえ。冬の女王はまだこの国を出てはいません」

 どこかに出かけているのか、とエディは少しがっかりしました。あまりに酷い言い方ではありますが、冬の女王様には早くこの国を出ていってもらいたかったのです。

「女王様はいつ戻ってこられますか?」

「さあ、私にはわかりません」

 どうしようかな、とエディは悩みます。一度帰って出直すのか。それとも、ここで女王様が帰ってくるのを待つのか。一度帰ってしまうと決意が鈍りそうなので、できればここで待ちたいのですが、この寒くて雪の降る中で、いつ帰ってくるのか分からない女王様をいつまでも待ち続けていたりしたら、身体が凍りついてしまいます。少女にお願いをして中に入れてもらうこともできますが、この国の人は今まで誰一人は入ったことのない塔の中。果たして入れてもらえるのかどうか。

 それに、女王様のお出かけが今日一日で終わるものとも限りません。もしかしたら、数日間返ってこない可能性だってあるのです。それをのんびり待ち続けることはできません。

 だったら、女王様を捜しに行こう、とエディは決意しました。どうして塔の中にいるのかは分かりませんが、この少女だったら、行き先を知っている可能性があります。

「確かに、私は女王がどこへ行ったのか知っています」

 エディの顔が、一瞬期待に満ちた表情で輝きました。

「でも、女王を捜しに行く前に、私の話を聴いていきませんか?」

 期待一転、そんな場合ではない、とエディは苛立ちました。こんな時におしゃべりをするなんて、悠長なことは言っていられません。そう断ろうとすると、

「もし聴いてくれたら、冬の女王のことを教えてあげます」

 こう言われては仕方ありません。エディは少女の話を聴くことにしました。

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