第一話「死亡・誕生」
目が覚めた。意識が朦朧としている。もの凄いダルい。どうなっているんだったか?
あぁ、そうか、絶賛餓死チャレンジ中だった。切腹なんかも考えていたっけか?今はそんな気分じゃないなぁ。目を閉じてからどれくらいだったのだろう?ここで意識をはっきりさせたらまた悩むな、よし、寝よう。
目が覚めた。どれくらい経ったのだろう。意識が朦朧としている。目を開いてる筈なんだがぼやけて良く見えない。力が入らず動けない。これはマジで餓死できるんじゃないだろうか?
意識がはっきりして「いぎだい゛」とか言い出す前に寝るべきだな。寝るのが大好きでいくらでも寝れるのもこういう時に役に立つな、いや、どう言う時だよ?餓死する時か?おいおい。
はっ!?いかんいかん、セルフボケセルフつっこみなんてしていたら意識が覚醒してしまう。寝よう。
目が覚めた。まだ死なないか。実は餓死チャレンジから数時間しか経ってないんじゃなかろうか?いや、でも、もう目も開かないし、体の感覚も無い。真っ暗な世界で、なんか温もりに包まれているような感覚もある。あれだ「おい犬っころ、俺はもう疲れたよ」ってな感じで光に包まれてるイメージ、視覚的にも真っ暗だし、その他いろんな意味でも真っ暗だがな!!安らかな死のイメージ。うぅん?なんか違うな、こう、懐かしさを感じる温もり?
悪くない感じだ、餓死を選んで正解だったのかもしれん。つか、相変わらず意識は朦朧としてるんだが、前回目が覚めたときよりもはっきりしているような気がする。死ぬ前の最後の輝き?どうでも良いからさっさと死んで虚無の海に帰りたい。
おっ、ナイス厨二!いや、ナイス厨二ってなんだよ。あぁ、寝よう。もう目が覚めないと良いなぁ。
目が覚めた。いい加減死ねよ俺、もうね、アボガド、バナナかと。と言うか、相変わらず目は開かないし、真っ暗なんだけが、体の感覚がうっすらと戻ってる気がする。気のせいか?あれか?発見されて保護されて今は病院のベッドです落ちか?俺を勘当して家から追い出した母が連絡を受けてベッドの横で泣いてる落ちか?それだけは勘弁して欲しいんだが。
愛想尽かして勘当して俺を家から追い出した母だが、こんな駄目息子でも俺を愛していない訳では無い。むしろ滅茶苦茶愛されてる。「あんたこんな駄目息子を良く愛せるね?」ってくらい愛されてる。今時虐待なんかもある時代に無償の愛なんじゃないかってくらい愛されてる。いや、「家にいるなら生活費入れろ」とか「お願いだから、真面目になって」とかは言うから完全な無償って訳でもないが、それにしたって母カワイソスとか泣かせてる馬鹿息子本人が思っちゃうくらい愛されてる。勘当して家を追い出したのもそれで俺が心根を入れ替えるんじゃないかって言う愛からくる行動だ。天の邪鬼な俺はそれが分かってて「絶対に思い通りの行動は取らねえ」ってな感じでこんな状況だが。やっぱり俺ってば超ハイレベルのクズだね。うん、分かってんだけどね。分かってて変わらないからこそのクズなんだけどね。あぁ、流石に憂鬱になってきた。寝よう。
目が覚めた。相変わらず目は開かないし視界は真っ暗だが、体に微妙に感覚がある。うん、ゆっくりとなれ動かせるな。うーん?久しぶりの体の感覚だからか?やけに鈍いが……。聴覚も戻ってる気がしなくもない。はっきりとした音は分からないが、なんか、音がしてるような気がする。これはあれだな、病院のベッド説がかなり有力だな。温かいのは暖房か?空腹を感じないのは麻痺してるからだとして、でも栄養は体を巡っているような?あれか、点滴か、血管に直で栄養をお届けか。餓死チャレンジ中のダルさなんかも感じないし、快復して目が覚めるのも近いんじゃないだろうか?相変わらず意識は朦朧としてるし、目も開かないが、微かでも体を動かせる感覚があるって事は、回復してるんだろう。うわぁ、憂鬱だ、マジで憂鬱だ。覚醒したら母が横にいましたとか勘弁して欲しい。白衣の天使でお願いしますよ、マジで!
目が覚めた。これで何度目だろうか?病院のベッド説が俺の中で確定してからもう何度も起きて、眠るを繰り返してる気がする。意識は曖昧に、朦朧として、目は開かず、視界は真っ暗だ。聴覚も音がしている気がするって状態から良くはならない。体の感覚は、曖昧だが、しかし確実に、違和感はあるものの、少しずつ良くなっている気がする。気がするだけなのだろうか?体を動かしている感覚は曖昧だが、しかし、しっかりと感じる。温もりも、栄養?……生きる力?の様な物も感じる。これらは全て気のせいで、俺は植物人間状態なのだろうか?餓死する過程で植物人間になる要因なんてあるのか?と言うより、ここが病院のベッドの上で、治療されてるとして、栄養失調程度で回復にここまで時間がかかるのか?
もしかして、俺、死んでる?餓死チャレンジ成功!?俺ってば今、魂?いや、でも、俺一応宗教は神道なんだけど、そこはまぁ日本人、無宗教、無信仰に近い感じだ。そして俺は天国、地獄、魂、とか言うものを信じていない。そんなもんは無いと思っている。いや、無いと願っていたのかもしれない。疲れ果てて死んだ後に、魂があって、意識があるとかどんな罰ゲームだよ、何も考える必要のない無に還らしてくれよってな考え方だ。もし今俺がもう死んでいて、魂的な存在になっているとしたら、テンション下がる。めっちゃテンション下がる。餓死チャレンジの後は罰ゲーム開始ですか。俺頑張ったのに……餓死チャレンジ。まぁ、罰ゲームを受ける様な事は多々行ってますけどね、親不孝に始まり、嫁を泣かせ、娘も将来父親が居ないことで泣くのかね?うぅん、自覚はあったつもりだが、本当に俺ってばクズね、罰を受けたり地獄に落ちたりが当たり前な生き方、死に方しといてまず最初に思うのは「罰ゲームかよ」か。ちょ、無性にいろんな事に土下座したくなってきた。体動かないかな、五体投地ばりに土下座するよ、うん、土下座するだけで反省も後悔も改善もあんまりする気はないけど。………クズだな。
目が覚めた。この感覚も何回目だろうか。最近は病院のベッド説がだいぶ薄れて、もう死んでて魂説が有力だ。まぁ、その割には生きてる感覚、体の感覚があるんだが。覚醒する事は無いだろうと思っている。ただ、どこか温かく、満たされているような感覚がある。魂はあっても天国、地獄とかは無く、これが死後の世界って奴なのだろうか?こうやって思考出来るのは、嫌な事なんかも考えることがあって煩わしいが、まぁ、悪くないんじゃないかと思う。
目が覚めた。最近、何かがおかしい。状況に特別な変わりは無いが、ここのところ「ここから出なくちゃ!!」と言う強迫観念を感じる。はっきりとしない、朦朧としてるはずの頭の奥底から、強く、本能の叫びのような感覚が支配する。いったい何だというのか。もうそろそろこの状況にも慣れ、この心地の良い温かさに包まれている感覚を楽しんでいるのに、ここに居ることを望んでいる筈なのに。何故、俺はここを出たがっているのだろう。『ここ』ってどこだ?出たがるって『どこに』だ?俺は地獄に行かなくちゃいけないのか?それとも輪廻転生か?俺の魂は新しい命になるのか?このまま思考生命体のような魂のまま存在し続けるのも確かにごめんだが、『ここ』は居心地が良いし、無理に出て行きたいとは思わないのだが。
本能が叫ぶ、魂に本能?訳が分からない。なんなんだ、これは。
目が覚めた。と言うか、なんだ、叩き起こされた?本能が叫ぶ「出て行かなくちゃ!!」と。訳が分からない。なんなんだ!?どうしても『ここ』から出て行かなくちゃなのか!?『どこに』だ!?温もりが薄れて行く感覚がある。逆に熱さすら感じる。しかし、予感がある。今俺は『ここ』から出て行こうとしてる。温もりに包まれた『ここ』より、寒く厳しい『どこか』に。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ!!俺の思考は拒絶するが、本能は喜び勇んで『どこか』に出て行こうとしている。嫌だってんだろうが!!何で魂に本能があるんだよ!?本能ってのは生き物が持つものだろ!?俺は死んでんだよ!!確定!!俺、魂!!だから『ここ』にいるんだ!!頼むから本能、お前少し黙れよ!!嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!
温もりが
薄れる
寒い
視界が
真っ暗だった視界が白くなる
俺は叫ぶ
あの温かい場所に居たいんだと
こんな寒いところは嫌だと
口を開き、声の限りに叫ぶ
嫌だ!!!
と
「おぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
…………えっ?
同時進行で設定の書き出しと、プロットの構成。
どんだけ見切り発車なの私。