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And three months later‥ (そして三カ月後‥)

 照りつける日差しが青々とした芝生を夏色に輝かせる。目をすがめて見上げれば、空は青く、雲は白く、遠くから聞こえてくる蝉の声が、日本の夏を唄っている。

 七月も半ばを過ぎると、いよいよ夏本番。今年も暑くなりそうねと、いつもならうんざりするところだけど、ふっふっふ~、今年はちょっと違うんだな。後二週間でいよいよ語学研修が始まって、オーストラリアのメルボルン向けて旅立つのだ。南半球は今冬だから、ひょっとしたら日本より過ごしやすいかもね。

「‥でさー、あいつったらせっかく朝ご飯作ってあげたのに、目玉焼きは半熟がいいとか言い出すのよ。ねぇ、ちょっと花音、聞いてんの?」

「ちゃんと聞いてるわよ、って言うか、さっきからのろけてばっかりじゃん。もうお腹いっぱいよ」

 今日は三人とも講義があるからお昼は一緒にと言うことで、学食を食堂のテラスで食べてるんだけど、エリシャったらさっきからず~っとハルト君のことばかり。それにしても朝ご飯を作ってあげたってことは、昨日は泊っていったのか。

「大体さ、お前のことしか考えられないって泣きついてきたから、仕方なく付き合い始めたのに、あいつ最近生意気なのよね‥」

 チキンピラフを口に運びながら、エリシャはもう何回も言ってきたことを口にするが、あたしはほんのちょっとだけ胸が疼く。

「ま~いいじゃない。織田君、エリシャに一目惚れだったんでしょ。普通そんなの長く続かないよ?」

「そう?私の高校時代の友達はそれでうまくやってたよ。駅のホームで階段から落ちかけたら、隣のクラスの男子に助けられてさ。そしたらいつの間にか付き合い始めてて、今も上手くやってるらしいわ」

「へ~、いいじゃない、ロマンチックで。あたしの高校時代の彼ったら、絶対同じ大学行こうねって言ってたのに、受験失敗して熊本の大学に行っちゃったのよ」

 今となっては昔の話だけど、あたしにとっては苦い思い出。もっともそのおかげで新しい出会いもあったんだから、前に進む力に変えなきゃね。

「そういえば、姫はどうだったの。昨日の美術館デートは楽しかった?」

 麺ものを全く音を立てずに食する姫は、食べかけのお蕎麦を呑みこみ、口元を拭ってから返事をする。

「はい、とっても楽しかったですわ。家康さんと一緒にフランス近代絵画展を見て回ったのですが、彼、絵画の方はあまり詳しくないので、私の方が解説して参りましたのよ」

 あまり楽しそうなデートコースとは思えないけど、あの二人ならそれもありかな~、なんて思っていたら、姫はなんだか俯いてもじもじしてる。むむっ、さては何かあったかな。

「そ~れ~で~、他にも何があったんでしょ。隠さす話しちゃいなさいよ」

「‥ええ‥それがですね‥その、帰りが遅くなったので送って頂いたのですけど、わ、別れ際に‥抱きしめられまして、せせ‥せ‥接吻を‥」

 それ以上言えなくて、顔を真っ赤にした姫はかぶりを振ってしまう。も~、姫ったら本当に乙女だわ。なんて可愛いのかしら。

 に、しても殿村君って本当に奥手なのね。三か月かかってようやくキスか~。ま、恋愛のスピードは人それぞれ。無理して急げばいいってもんじゃないし、二人のペースでコツコツ愛を積み上げていけばいいんだわ。

 と、ここでピピピッと時計のアラームが約束の時間を思い出させる。

「あれ、もうそんな時間?お喋りしてるとあっという間ね。語学研修の買い出しに行くんだっけ」

「そ~なのよ、まだ買わなきゃいけないものがあるから、今日中に準備を終わらせたいのよ。二週間なんてすぐだし」

「では食器は私共の方で片付けておきますので、花音さんはもう行ってくださいな。お待たせすると悪いですわ」

「ありがと、じゃまた木曜日にね~」

 笑顔で見送ってくれる二人を残して、あたしはキャンパスの正門へと足を向ける。途中、今ではすっかり緑の葉をおい茂らせた桜の並木道を通っていると、ふと春に大騒ぎしたことを思い出す。そう言えば、ここで姫の恋バナを聞いたのが発端だったっけ。

 あれから、あたし達は上手くやっている。最初聞いた時はふざけてるのかと思ったけど、木下君の作戦は功を奏したのだ。問題の合コンから数日して、あたし達はお互いの友達の前で恋人宣言をした。姫は無条件に祝福してくれ、エリシャも良かったわねと笑顔で言ってくれた。その陰で彼女が涙をこらえていたことを思うと胸が痛んだ。

 それから木下君にたきつけられたハルト君が、失意のエリシャに熱烈なアタックを試み始めた。彼が一途なのは本当で、その熱意はちゃんと実を結び、渋々ながらにエリシャがハルト君と付き合い始めたのは五月の終わり頃だったかな。結果的にあたしはエリシャの好きな人をとっちゃった形になるけど、エリシャもあたしの好きな人をとっちゃったわけだから痛み分けってことにしておいてほしいわ。

 殿村君はと言うと、あたしが自分の友人である木下君を選んだと言うことで、潔く想いを断ち切ってくれたみたい。あたしにも木下君にも不快な思いをさせたくないと言う彼の態度は、立派と言う他はないわね。あ~あ、これでイケメンだったら間違いなく惚れてたのに。もっとも木下君もさすがに良心が咎めるなんて言ってたけど、それも献身的な姫と殿村君が付き合い始めるまでだった。まぁ、向こうもお互い想い人をとられた形になるわけだから、引き分け(ドロー)よね。

 そして、あたしと木下君はと言うと‥

そ~いちろ~(総一郎)

 正門でスマホを弄りながら待っていた彼が、あたしを見て片手を上げる。

「ごめ~ん、待たせちゃった?」

「いや、そんなことね~ぞ」

 なんて言ってるけど、それが嘘なことはわかっている。律儀な彼はいつも約束の時間の十分前には、待ち合わせ場所に現れているのだ。あたしは彼に腕を絡めながら、とびっきりの笑顔を向ける。

「ねぇねぇ、買い物終わったらさ、トレッキング用品とか見に行こうよ」

「それはいいけど、本当に御岳山みたけさんに来る気か。あそこは初心者向けの山だが、オーストラリア行くまであまり日がないんだろ?」

「だからよ。向こうへ行くまでに、一度総一郎と一緒に山を登ってみたいの」

 有無を言わせぬ調子で、あたしは胸を押しあてながら、彼の腕を引っ張っていく。春先にはこんな事になるなんて夢にも思わなかったけど、今はこの関係を楽しんでいる。

 ぎこちなく始まったあたし達の関係は、意外なほど上手く行った。彼はあたし好みのイケメンでこそないけど、わりと気があうって言うのかな。言いたいことずけずけ言っても本気で怒ったりしないし、要所要所ではちゃんと男性らしい優しさを見せてくれたりもする。

 もっとも、全然不満がないとは言わないわ。まず、多分死んでも治らないのが彼の巨乳好きで、今でもあたしより胸が大きい子を見ると目がそっちに行っちゃうのよね。まぁ、あたしだってイケメンを見ると、そっちに目が行っちゃうから、多少は大目に見てるけど。そうそう初エッチの時、こっちはドキドキしながら胸をさらしたって言うのに、なんだかがっかりしたような表情されてムカついたのは覚えてる。しかもあのバカ、胸を揉んだら大きくなると信じてるのか、いっつもエッチの後に揉んでくるのよね。

 でもそういう性癖を覗けば、総一郎は恋人としてなかなか理想的だと言ってもいいわ。少なくとも一緒にいて楽しいと思えるし、全然気をつかわなくてもいいから疲れることもないし、いざという時には男性としての頼りがいもあるし、そうそうアッチの方もなかなか‥

 顔がにやけそうになるのを堪えながら、あたしはバス停の方へと彼を引っ張っていく。それにしても東京に出たら絶対素敵な彼氏を見つけてやるって思ってたけど、まさか同じ地元の彼と付き合うことになるとは思っていなかったわ。 

「さぁ、今日は買うものいっぱいあるから、荷物持ち頑張ってね」

「おいおい、お手柔らかに頼むぜ、お前の買い物に付き合うとホント疲れるんだから‥」

「ほらほら、男の子が文句言わない。しっかり仕事した後の方が、夜が楽しみでしょ」

 ‥あっ、鼻の下伸ばしてる。もうっ、いやらしいんだから。

 ‥な~んて言いながら、あたしも顔が笑ってるから同じか。

 幸せな気分を噛みしめながら、あたしはちょっと考える。結局恋の方程式は解けなかったけど、皆が幸せになれたならそれでいいのだ。恋なんて数字や法則で当てはめれるものじゃないし、論理的には説明のつかないこともある。だけど人を好きになるって気持ちに素直になれたら、きっと素晴らしい恋が待ってるわ。

 眩しい夏の日差しを受けながら、あたしは彼と一緒に歩いていく。これからも、ずっと一緒に。

 この作品は最初から短編の構想だったんだけど、途中から色々設定が増えてきちゃって大変でした(・o・;)アセアセ

 短編に六人も登場人物出しちゃったから、一人一人を上手く表現できたか全然自信ないし、ハルト君なんてほとんどセリフなかったもん。

 ‥えっ、登場人物の名前が戦国武将ばかり?それは‥‥気のせいかな~‥<(^ー^ι)

 nameless権兵衛 兵藤詩織


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