Several minutes later more (更に数分後‥)
え~っと、何杯飲んだんだっけ?
最初の乾杯でビール、殿村君と乾杯してビールでしょ。それからカルピスサワーを一杯呑んで、ハルト君がカクテル系を頼んでたから、あたしも一緒にギムレット、ジントニック、次のオレンジ味のあれはカシスオレンジだったかスクリュードライバーだったか‥。で、脈なしと判断した後、やけ酒にモスコミュール行って、ソルティドッグを木下君に止められたから‥、あらら、八杯目だったのね。道理で頭がふらふらするわけだわ。
もっとも気分が落ち着かないのは、お酒のせいじゃない。木下君の言葉が心にずっしりのしかかる。
‥そりゃあ、あたしだって女の子ですから、
‥‥男の子から好意を寄せられたら嬉しいわよ。
‥‥‥例えそれが意中の相手じゃないにしてもね。
でも、殿村君は姫の惚れた初めての男性。あたしより姫を見てもらわないと色々困るわ。大体、言いたかないけど普通に見たら姫の方が全然綺麗だし、性格だってお淑やかだし、おまけに胸まで大きいのよ。その姫に惚れられてるのに、何であたしを選ぶかな?
彼の気持ちは嬉しいけど、自分の気持ちには正直でいたい。だからたとえエリシャの方が好きで、今のところ眼中にないにしても、やっぱりあたしはハルト君が好き。うん、これが今の正直な気持ち。
‥とりあえず、戻ろっかな。
少し休んだら気分もいくらか落ち着いたし、あまり長く中座して心配掛けるのもなんだしね。まぁ、これ以上呑んだら本当に吐きそうだから、しばらくはウーロン茶で大人しくしていよ。
メイクが崩れてないか鏡で確認して戻ると、ちょうどさっきのバンダナの似合わないお兄さんが、注文のドリンクを置いてお座敷の襖を開けるところだった。そこであたしは、はたと足を止めた。
‥‥エリシャ?
そこには今まで見たことのない彼女の姿があった。空のジョッキやお料理の皿が乗った座卓の向こうで、エリシャは嬉しげに、そして実に楽しげに笑っていた。
もちろん笑うだけならあたし達の前でも笑うけど、いつものような豪快な笑い方ではなく、なんだか素直で屈託のない、少女のような笑顔を浮かべていた。ほろ酔い加減に頬を染め、襖の陰になって見えない誰かとの会話を弾ませている。
そしてあたしは気付いた。目だ、目が違う。あれは恋する乙女の目だ!優しげで、どこか穏やかな視線は、誰かを慕う乙女の瞳。
ガ~ン、やっぱりあの二人は結ばれる運命だったのかしら。
‥そうよね、二人とも美男美女だし、客観的に見たらお似合いよね。でも、エリシャがハルト君と仲良くなっちゃったら、あたしの入り込む余地なんてないじゃない。それにいくらあたしだって、友達の彼氏に手を出す様なやらしい真似はしたくない。
心のどこかでイイ男嫌いのエリシャがハルト君を振っちゃうんじゃないかって期待してたけど、わざわざ合コンをセッティングしてくるくらいだから、さすがにそれはなかったか。内心のショックを隠せないまま、とぼとぼとお座敷に入ろうとすると、あたしはさらなる驚きを目の当たりにした。
あれ?‥ハルト君じゃない?
ライダーズジャケットのハルト君は、座敷の隅で今川さんと話していた。いささか憮然とした面持ちで、明らかに会話が上の空であると見て取れる。そしてエリシャの話し相手はテイラードジャケットの男性で、それは‥
‥木下君?
そしてあたしは気付いてしまった。あたし達の関係が非常に問題であることを‥