第九話 彼女の過去
どうしても書きたかった話です。
私は小さな頃いじめられていた。 あれは確か小学校4年生くらいのころだったかな。
「あんたムカつくのよ!」
「そーよそーよ!」
「3組の拓海君があんたのことを好きだって言ってたのに無視して!」
「いっつも私は綺麗です、みたいな雰囲気だして!」
「このブリっこ!」
私のいた小学校では3組の細川拓海という男の子がいた。そのころは知らなかったけど女の子にはその拓海君が大人気だった。かっこいいし、運動もできるし、なにより優しかった。その頃は意味的にも分かってなかったことがあった。
「神凪!俺お前のことが好きなんだ!」
「そうなの?」
「ああ、好きなんだ!」
「私は普通ね。」
私はいきなり告白された。そのころは拓海君が私に告白してきていたなんて知らなかった。ただ友達として好きだ、そう言ってきたと思っていたので私は普通だったので普通だと答えておいた。それからだ。女子から無視や陰口などのいじめが始まったのは・・・
最初は無視や陰口ですんでいた。でも段々とエスカレートしてきて今では内履きを隠されたり、筆箱のえんぴつの芯を折られたり、教科書を隠されたり。
そして今日とうとういじめの主力の5人組の女子に囲まれていた。
「ふん、これからあんたを醜くしてあげるわ。」
そういって5人の中で二人がハサミやらカッターを持ち出してきた。何をするのかと思っていると・・・
「これで髪の毛を綺麗にしてあげる!大丈夫よ。私は優しいから坊主頭程度には髪の毛を残してあげる!」
「ふふふ、まあ初心者だからうっかり間違えるかもしれないけどその時は初心者だからってことでよろしくね?」
「「「キャハハハハハ!!」」」
こいつらは何を言ってるんだろう。うっかり?絶対わざと間違える気だ・・・私のお母さん譲りの綺麗な黒髪が密かな自慢でお母さんみたいに鮮やかで長い髪を目指してたのに・・・これじゃあ必死に伸ばしてる髪の毛がなくなっちゃう!
「や・・・やめて・・・」
そう懇願してみたけど・・・
「はぁ!?それが人にものを頼む態度~?」
「ちゃんと誠意を示してもらわないとね~!」
「あ!土下座させようよ!」
「いいねぇ~。」
「でも普通の土下座じゃつまらないからそこの泥の水たまりでやってもらおうよ!」
「「「「さんせ~」」」」
私は必死だった。どうすればお母さん譲りの綺麗な黒髪を保てるのか。短くさせないように必死だったのだ。そして私はお気に入りの服が泥だらけになってしまうのも厭わず地面に頭を擦りつけた・・・
「ゆ・・・許してください・・・」
「うわ~、本当にやったよこいつ!」
「汚~い」
「で?どうする~?かわいそうだし許しちゃう~?」
「う~ん、誠意が足りないからダメね!」
「はい、渚ちゃん坊主けって~!」
「そ・・・そんな!だって泥の水たまりで土下座したら許してくれるって!」
「言ってないけど~?」
私は目の前が真っ暗になるのを感じていた。なんなのよ・・・拓海君を素っ気なく返しただけでどうしてこんなことになってるの?私はどこで間違えたの?
ねぇ。教えてよ・・・ 誰か・・・
もう終わりだ。綺麗で長く、鮮やか黒髪っていう夢は完全に尽きた・・・
そう思っていた時だった。
「なあ。お前たち何してるの?」
私が好きになる人がそこには現れた。
「なんだよ帯刀!邪魔すんなよ!」
「何見てるのよ!」
「あっ、もしかして帯刀も制裁に加わりたい?」
「いいよいいよ~!一緒にやろうよ!」
「ああ。そうだな。確かに俺も制裁をしたいね。」
そうなのか・・・結局この男の子も私をいじめるのに加わりたいのか・・・そう思って男の子を非難がましい目で見ていると・・・
パンッ!
乾いた音が鳴り響いた。
いきなりいじめの主格の女の子を叩いたのだ。
「痛ったいなぁ!何するんだよ!」
「お前ら寄って集って一人の女の子をいじめるとか恥ずかしくないのか?」
「なんなのよ!女の子に手をあげるなんてサイッテー!!」
「はん、言ってろ。俺の中では女の子に手を上げるより多人数でなにもしてないやつに手を上げる方が最低な行為と認識してるんだよ。」
私は涙が溢れていた。これは悲しみの涙なのか、それとも喜びの涙なのか。それは分からなかったけど、それでもすごく嬉しかったことを覚えている。
「最低ね!先生に言ってやるから!」
「「「「そーよそーよ!」」」」
「勝手にしろ。俺は俺で自分の見たとおりに先生に話すよ。この神凪の服を見せたらどっちを信じるんだろうね。」
「・・・っ!」
「「「「「覚えてなさいよー!!!!!」」」」」
「大丈夫か?神凪。」
「あっ・・・」
そう言って差し出された手の温度を、私は一生忘れないだろう。
「そうそう、お前の黒髪だけどな?」
「うっ・・・」
またからかわれるのだろうか?この人も・・・・
「すっげー綺麗だな!」
「あっ・・・」
そして私の中で帯刀刃という人は近所の同い年の子供という認識から好きな人という認識に変わった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
私は刃の部屋へ行って刃を起こしてあげようと思った。日本にいた時からの週間だ。刃のご両親は忙しく、いつも家を空けることが多いため大体私がご飯を作ってあげたり洗濯したり掃除をしたり。刃は朝起きるのが苦手だ。まったく・・・あいつは私がいないとダメなんだから♪
「刃!朝よ。早く起きなさい!」
「・・・・・・」
おかしいわね。この世界に来てから気配などを読む技術を手に入れた。そのおかげで部屋に人がいるかどうかも分かるようになっている。だが刃の部屋から人の気配がしないのだ。
「刃?刃~?」
不審に思って部屋のドアノブを回すと・・・
「あれ?開いてる。」
あっさり開いた。部屋には誰もいなかった。今日は起きてもう事務所の方へ行ってしまったのだろうか。
「もう、久しぶりに休みが出来たから二人きりで街に出かけようと思ったのに・・・」
そう思って踵を返して事務所の方へ向かおうとした時にテーブルの上にあった一枚の紙に目が行った。
「何か書いてある?」
そう思ってその紙に目を落とした。
「まさか刃へのラブレターかしら?まあそれはないかな。なになに・・・?」
そう思って目を文字に走らせていく・・・
「・・・・え?嘘・・・刃が旅に出た?一人で?」
彼がこの世界で生きられる訳がない。自分たちでさえ魔獣などに手を焼いているのだ・・・そんな中彼がこの世界に旅に出た・・・?
「れ・・・蓮夜達に相談しないと!!」
自分では急いで向かっているつもりだった。
しかし城内の従者たちからは顔を青くして足取りがフラフラしていたように見えていた。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
さて、今回の話に関してですが前書きにも記したようにどうしても作者はこの話を書きたかったのです。新ヒロインを期待していた読者様には弁解しようもございません。
誠に申し訳ありませんでした。
次回こそ新ヒロインを登場させようと思います。
誤字脱字がありましたらお手数ですが報告よろしくお願いします。
応援や感想、お待ちしております。