第8話 風雲! 箕輪城
「宵子よ、何故今上杉と戦おうと考えるのだ」
わたしの言葉を聞いた信玄公がたずねてきました。
「本隊が上洛に向かっている中で、背後を突かれるのは怖いじゃないですか。だったらいっそ、戦ってその力を削いでおいた方がいいかなって。攻撃は最大の防御とも言いますし」
「上杉は強いぞ」
なんという説得力。実感がこもっています。
「でも、こちらだって徳川と織田の武将を吸収したんです。余力はあるのではないかと」
「……お主がそう思うのであれば、わしはそれに従うだけじゃ」
「あまり乗り気では無さそうですね」
「厳しい戦いになることは目に見えておるからのう」
とかなんとか口では言ってますが、信玄公はウキウキしているように見えました。何を隠そう、わたしもウッキウキですよ!
やっぱり、武田と上杉の戦いとなると燃えるじゃないですか。ねえ。
そしてわたしは1565年秋、上杉の有する城の中でも箕輪城を狙うことにしました。ここを落とせば、上杉の勢力を分断することになるからです。そうするとシステム上、本拠地と繋がっていない城からの収入は上杉家に入りませんから、間接的に力を削ぐことにもなります。
「いやらしいことを考えるのう」
「そんなに褒めないでください」
「別に褒めてはおらんが。しかし、箕輪城は落とすのに苦労するぞ。わしが保証しよう」
「信玄公ご自身が苦労されましたもんね……」
「ふん、昔の話じゃ。おお、げーむでも長野業正が守っておるのだな」
信玄公がニヤリとしました。長野業正さんは箕輪城を攻める信玄公を幾度も撃退したと伝えられる名将。業正さんが生きている間、信玄公はついに箕輪城を落とすことができませんでした。史実では1565年にはすでにお亡くなりになっているんですが、このゲームではまだご存命です。寿命がある程度ランダムに変化する仕様なんでしょうね。
「面白い。宵子よ、落としてみせい」
「はい!」
出撃するメンバーは、信繁さん、真田幸隆さん、飯富虎昌さんなど上杉に備えて甲斐に残していた軍の主力から選びました。
「うーん、せっかく真田幸隆さんが出るんですから、息子さんたちも一緒に出しましょう。真田ファミリー総進撃ですよ」
ってことで、幸隆さんの子である信綱さん、昌輝さん、そして昌幸さんも出撃させることにしました。
「皆、まだ能力が低いな」
「若いですからねえ。実戦や教育によって経験を積ませることで、成長させる必要がありますね。特に昌幸さんは才能が高いですから、ゆくゆくは武田の中核を担う存在になるはずですよ」
「今回の戦もその一環ということじゃな」
信玄公は相手の兵力をチェックすると、
「む、こちらとは少ないとはいえけっこうな数がおるな。力攻めで行くのか」
「力攻めでイク? なんだか卑猥な響きですね」
「念のため言っておくが力攻めというのは、策略を用いずに武力に任せて攻めるということだぞ」
「わかってますって! ……苦しい戦いも予想されますが、今回は真正面から攻めようと思います」
戦いが始まると、やはり戦局はなかなか厳しいものになりました。数のうえではこちらが多少上回っているものの、全体的に上杉の武将は戦闘が強い! 箕輪城の中に攻め入ることには成功しましたが、城内でも激しい抵抗に遭います。
「ぐわー、真田3兄弟が全員捕らえられてしまいました!」
「捕まったものは仕方が無い。こちらはこちらで、本丸を落とすことに集中せい」
「はい……」
彼らは後で解放されるかもしれませんし、今はそれどころではありません。信繁さん・真田さん・飯富さんの3部隊でどうにかこうにか相手の守りを切り崩していきます。そして、
「やったー! やっと落としました……!」
ついに長野さんの部隊を倒し真田さんが本丸を落とすことに成功しました。しかしどの部隊も残り兵力はごくわずか。ギリギリの勝利と言えるでしょう。
「やはり苦しかったのう」
「はい……。大損害を受けましたし、上杉の逆襲に備えて急いで戦力を整えないといけませんね」
とはいえ、まずは戦後処理です。長野さんをはじめ、捕らえた諸将は皆こちらの登用に応じてくれました。気になるのは捕まった真田3兄弟ですが……。
「ちょ、全員あっさり上杉に登用されてますよー!!!」
「世知辛いのう」
「だって、父親の幸隆さんはこっちにいるんですよ。誘いを断ってくれても……」
「自分の命が惜しいのだろうて。それに、親子が敵味方に分かれることなど珍しくもない」
「うう……」
「どうするのだ、宵子」
わたしは考えます。3兄弟へ調略をかけ、再びこちらに引き入れるよう試みるのもアリでしょう。しかし、すぐに上杉が箕輪城を取り返しに来ることが予想されます。そんな暇があるかどうか……。
わたしは決断しました。
「上杉に備えなければいけませんが、将来を考えて昌幸さんだけでも急いでこちらへ誘いましょう」
「なるほど。……誰を使者にするのだ」
「それはやっぱり、父親の幸隆さんでしょう」
幸隆さんにたんまりと資金を持たせて昌幸さんの元へ向かわせると、「わかりました、父上がそうおっしゃるなら」という2人が親子であることによる特殊メッセージが表示され、無事昌幸さんが応じてくれました。ホッと一息です。
「休んでいる暇はないぞ宵子。清洲城の本隊から、箕輪城へいくらか兵力を割かねばなるまい。上杉は間違いなくやってくるぞ」
「わかっています!」
わたしは急ぎ、高坂さんと服部半蔵さん、前田慶次さんといった猛者を箕輪城に移動させました。隊の兵数が減っている信繁さんや真田さんにも兵を補充します。
やがて次のターンである1565年冬に入ると、
「げっ、さっそく上杉が攻めてきました。行動が早い!」
「やはりのう。して、誰が率いておるのだ」
信玄公の問いに答えるため心を落ち着かせるのに、少し時間がかかりました。
「……上杉謙信です。謙信自ら大軍を指揮しています!」
今宵はここまでにしようと思います。
次回「軍神」ご期待ください。