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第7話 高坂、誘い受け

 清州城と犬山城を落として年が明け、1565年春。全国の様子をじっくり見渡して一息つこうとした時でした。

「げっ。織田軍が清州城へ攻めてきましたよ、信玄公」

「ふん、奪われた拠点を取り返そうとしてくるのは当然であろう。まして、わしらは信長が伊勢を攻めた隙を突いて城を掠め取ったに過ぎん。織田の主力はまだまだ健在じゃからのう」

「冷静ですね……。今までは攻めるばかりだったから、いざ逆の立場になると心の準備が……」

「焦ることは無いぞ、宵子。それなりの兵力さえあれば、守るのは意外と楽なものだ」

「本当ですかぁ?」

 動揺しているわたしに比べ、信玄公はまったく動じていません。さすがは百戦錬磨というかなんというか。なんにせよ、初の防衛線です。緊張せずにはいられません。

 

 攻めてきた織田軍の主な武将は、滝川一益たきがわかずますさん、佐々成政さっさなりまささん、そして前田慶次まえだけいじさんなどなど。なかなかの面子と言えましょう。

 さて、こちらは誰を出陣させましょうか……。

「やはりエースの飯富さんたち騎馬隊を出して万全の態勢で迎え撃ちますか」

 わたしの問いかけに対して、信玄公はしばらく黙って画面を見ていましたが、やがて口を開きました。

「……いや、待て。高坂や家康など、足軽隊を中心にするのだ。騎馬はわしの隊だけで良い」

「えっ、そうですか」

 これまで常に騎馬隊が中心だったのですが……。


 戦が始まりました。兵力はほぼ互角。織田軍はまっすぐ清州城に向かってきます。

「ど、どうしましょう。同じぐらいの兵力だから籠城する意味はあまり無いですよね、やっぱり」

「当然だ。野戦で織田を倒す。宵子、地図をよく見るがよい。敵が清州城まで攻め寄せようと思えば、川を渡らねばならんであろう」

「ええ」

「木曽川であろうな。そして、最短距離で川を越えようと思えば、まず間違いなくここを通る」

 信玄公が指差した先には、橋がありました。

「敵が橋を渡った先に足軽隊を配置せよ」

「……わたしにもわかってきましたよ、信玄公」

 どんな大軍で攻めてきても、橋を渡るときは1部隊ずつ通らざるを得ません。

「橋を渡ってきた1部隊を複数の隊で取り囲んで討っていく、ということですか。いわゆる各個撃破……?」

 信玄公はニヤリと笑いました。

「こうもおあつらえの舞台があるとは思わなんだがな」

「足軽隊を選択したのは、一斉攻撃を行うためですか!」

「左様」

 このゲームでは、騎馬の機動力と攻撃力に足軽は遠く及びません。しかし足軽の場合、複数の隊で敵を取り囲んだ際に、複数で同時に1部隊を攻撃する「一斉攻撃」を行うことができるのです。

 

 信玄公の指示通り、橋の近辺へ高坂さんを中心に部隊を配置し、ひたすら待機します。やがて、予想通り敵軍は橋の向こう側で渋滞を起こし、1部隊ずつ橋を渡ってきます。まさに思う壺です。

「かかれい!」

「はい!」

 高坂さんと家康さん、岡部元信さんで取り囲み一斉攻撃です。たちまち相手は大損害。い、一斉攻撃の効果がこれほどとは……。

 橋を渡った先で包囲されることがわかっていても、清州城へのルートがここしかない限り敵は力押ししかありません。押し寄せる敵を包囲!殲滅! 包囲!殲滅!(織田軍の)SAN値!ピンチ! SAN値!ピンチ! 

 敵の数が面白いように減っていきます。

「どうじゃ、宵子」

 信玄公が誇らしげです。

「うん、すごいです! 戦場全体では互角の兵力だったのに、一局面において数的優位を作るだけでこうも情勢が変わるものなんですね……」

 この戦術に何か名前を付けたいな、と思いました。

 守戦の時ならではで、攻める時には使えない。つまり攻めの反対、受け……。

 そして相手を特定地点に誘い込んで撃滅する。誘い込む、誘い……。

「これを『誘い受け』と呼びましょう。高坂さんの誘い受けです。フフフ……」

「『誘い受け』のう。『釣り野伏せ』と響きが似ておるのう」

 信玄公、本当の意味をわかっていません。まあ別にいいですけど。


 やがて誘い受けにより織田軍はほぼ壊滅、逃げようとする部隊は信玄公が騎馬で追撃して止めを刺していきます。その結果、

「うわああ、ほぼ同数の兵力だったはずなのに、大した損害を出さずに全滅させちゃいましたよ!」

 絵に描いたような完全勝利でした。

「こんな大勝利はめったにないぞ」

 信玄公もご自分の戦術がドハマりしたからか、満足そうです。

 そして捕虜にした滝川さんたちを登用することにも成功しました。前田慶次さんはもちろんですが、滝川さんと佐々さんは武田家にはこれまで全くいなかった鉄砲使いです。今後の活躍が期待できるでしょう。


「今回の戦いで、織田にかなりの打撃を与えたと言っていいのではないでしょうか」

「うむ」

「信玄公、この後はやはり上洛に向けて軍を動かすべきなのでしょうが……その前にやっておきたいことがあります」

「なんじゃ?」

 わたしはかねてから考えていたことを告げました。

「そろそろ上杉謙信を叩いておきたいのです」

 信玄公の目が光った気がしました。


 今宵はここまでにしようと思います。

次回「風雲! 箕輪城」ご期待ください。

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