表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/42

第39話 みちのくを炎にそめて

 1611年になり、わたしたち武田家はまず関東から伊達家を一掃することに専念しました。

 千葉城の戦いと新発田城の戦いで打撃を与えたからか、もはや兵力の差は歴然。戦況は正直一方的なものです。関東の各城は次々と武田家の手に落ちて行きました。

 そして1613年、わたしたちは伊達政宗さんの居城である水戸城へ攻め込みました。もはや関東に唯一残された伊達家の拠点です。

「政宗さんや片倉さん、最上さんといった面子は揃っていますが、どの隊も人数や訓練度がMAXに至っていません。こうなると、もう敵ではありませんね。もちろん、わたしたちがその間を与えていないわけですが」

「うむ。わしらの勝ちは揺るがん。だが、万全を期して臨めよ」

 姿が見えなくなってしまった信玄公の声に、わたしはうなずきました。寡兵には寡兵なりの戦い方があることは承知していますので。

 かくして始まった水戸城の戦いは、やはりわたしたちの優勢でした。四方から攻め込む大軍の前に、伊達家はひたすら守りを固めるばかり……ではありませんでした。

「ぎゃーっ! 宇喜多秀家さんが暗殺されました! 最上義光さんの仕業ですよ!」

「最上か。やりおるのう……また茶を飲んでおるぞ」

「うう、宇喜多さんはお父さんの直家さんが暗殺技能持ちで、けっこうお世話になりましたが……息子さんが暗殺でやられてしまうとは」

「暗殺を防ぐ手は無いのか?」

「無いんですよ、このゲーム。地位や能力を上げることで失敗する確率を下げることはできても、確実に防ぐことはできない仕様なんです。シビアです」

 とはいうものの、暗殺が一度成功すると同じ戦の中でもう二度と実行できないシステムにはなっています。そうじゃないと、さすがにゲームバランスが崩れちゃいますもんね。

 

 手痛い被害は受けたものの、圧倒的兵力差は変わらず、わたしたちは水戸城を落とすことに成功しました。

「おお、最上義光を捕らえたか。登用するのか」

「まあ、とりあえずはね……。あら、あっさり配下になってくれましたね」

 森蘭丸さんと宇喜多さんの命を奪った憎いあんちくしょうではありますが、それはそれ、これはこれ。ゲームですからね。味方になってくれるものを断る理由はありません。

 さらに、

「あれ……伊達政宗さんも捕らえることに成功しちゃいましたよ!?」

「……どうするのだ」

 大名を捕らえた場合、登用するという選択肢はありません。逃がすか、斬るかの二択を迫られます。

「そりゃまあ、斬ったほうが楽になるのでしょうけど……さすがに気が乗りません。ここで政宗さんを斬って、他の武将が大名になっても、なんかこう……盛り下がるじゃないですか。ここは逃がしてあげます」

「政宗を最後の敵としておきたいのだな」

「ええ」

 そんなわけで政宗さんを解放し、関東はすべて武田家の支配下となりました。残るは東北地方のみです。


「せっかく政宗さんを逃がしてあげたわけですし、無益な戦いを避ける意味でも、一度は降伏勧告してみようと思います。なんたって、こっちの雪ちゃんは征夷大将軍ですからね。余裕を見せてあげないと」

「伊達政宗だぞ。無駄だと思うがな」

「わたしもそう思います……。でもまあ、やるだけやってみましょう」

 政治が高い方が確率が上がるということで、超大物・家康さんを使者に立ててみました。だがしかし、失敗。政宗さんににべもなく拒否されてしまいました。やっぱりねえ。

「と、なれば……攻めるしかありませんね。結果は見えていますけども」

「うむ」

 戊辰戦争のときの新政府軍もこんな気持ちだったのでしょうか……などと思いつつ、わたしは兵を進めます。

 そしてこの東北攻めがゲーム最後の戦いになります。その間、わたしと信玄公の会話は淡々としたものになりました。


 1614年夏、羽前、羽後、岩代攻略。

 同年冬、磐城、陸前、陸中攻略。

 

 戦いは一方的で、わたしたちが東北を蹂躙しているだけと表現してもいい状況です。政宗さんも何度も捕まえましたが、そのたびに逃がしてあげました。気分は孟獲を七度破って七度放したという諸葛孔明です。

「政宗さんの能力値なら総合的に見て雪ちゃんよりずっと上なんですけどね。なんだか可哀そうになってきます」

「……宵子よ。当然だが、戦というものは大名一人でやるものではないのだぞ」

「え? ええ」

「それも重要ではあるものの、勝敗は様々な要素が絡み合って決するのだ。強者が常に勝者になるとは限らん。忘れてはいかんぞ」

「……はい」

 信玄公からの最後になるかもしれないアドバイスを心に刻み、ゲームを進めていきます。


 1615年春には陸奥を攻略完了。とうとうゲーム内最北端である蝦夷の徳山館を残すのみとなりました。

 わたしは大きく深呼吸をして、

「行きます」

 とだけ口に出し、雪ちゃん自ら率いる軍で攻め入りました。信玄公の言葉は聞こえませんでしたが、きっとうなずいてくれたのではないかと思います。

 度重なる敗走により伊達軍の兵力はごくわずか。勝敗は短時間で決しました。雪ちゃん率いる騎馬隊による一斉攻撃の前に、本丸に籠る政宗さんの部隊の兵士数がすぐにゼロになります。侵掠すること火の如く、です。

「終わった……」

 最後の戦いは、呆気なさすぎるものでした。しかし、これこそが歴史SLG。ラスボスが最強なRPGとは違うのです。


 捕らえた政宗さんを解放して戦後処置が終わると、すぐにゲーム画面が見たことの無いものに切り替わりました。エンディングの始まりです。


 今宵はここまでにしようと思います。

次回、最終話「宵子の風林火山」ご期待ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ