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第4話 速攻斬首! 野獣と化した信玄公

 徳川攻めを決めたわたしと信玄公ですが、さっそく出撃! というわけにはいきません。

「軍備を整えないとだめですね」

 ゲーム開始時には、各武将は中途半端な兵力しか持っていません。徴兵して兵士数を増やす必要があります。

 しかし徴兵にもお金がかかります。お金は毎年春にしか入ってきません。お米を売ってお金を増やす手もありますが、米は秋にしか入ってきません。そしてお金やお米の収入を増やすには、お金をかけて内政を行うしかないのでした。

「春に金の収入があるまでは、内政を中心に行動するしかないのではないか」

「そうですね」

 内政を行うにも、政治の能力が高い方が効果も上がります。武田家中で政治が高い人となると……。

「やはり信玄公、真田幸隆さん、内藤昌豊ないとうまさとよさん、それから信玄公の弟である信繁のぶしげさんといったところですね。彼らを中心に内政を行いましょう」

「うむ」

 真田幸隆さんは真田幸村さなだゆきむらさんのおじいさんに当たる人物。息子さんやお孫さんと同じく智謀に長けた方です。ゲーム的にチート3世代の祖、なんて評する人もいらっしゃいます。

 内藤昌豊さんは武田四名臣のお1人。武田の副将として活躍した方で、地味ながら武田家に欠かせない存在であったようです。

「他の皆さんは戦闘は高いけどバ……政治や智謀はそうでもない人が多いですよね。政治が高い人材は貴重です」

「何か言いかけなかったか、今」

「いえ、何も。そうそう、これまで黙っていましたがわたし、信繁さんが大好きなんですよ!」

「そうなのか?」

 強引に話を逸らしてみました。

 

 武田信繁さんは先ほども言いましたが信玄公の弟です。なんでもお二人の父親である信虎さんは兄の信玄公を疎み、信繁さんを後継者にしようと考えていたとも言われています。先手を打って信玄公は信虎さんを追放するわけですが、一説には信繁さんもそのクーデターを承知していた節があるとも。とりあえずわたしの好きな大河ドラマ「風林火山」ではそのような描かれ方でした。その後も信繁さんは武田の副将として、信玄公に尽くして戦い続けます。

 兄弟の争いが日常茶飯事な戦国時代に、自分がトップに立てる機会があったにも関わらず、影として兄を支える道を選ぶ弟……献身的な兄への愛……じゅるっ。

 

「宵子、よだれが出ておるぞ」

「……はっ!? すいません、ハスハスしていました」

「はすはす?」

「おっ、春になって収入がありましたよ信玄公! これで兵士を集めましょう!」

 集めた兵士を編成し、訓練で鍛えます。徴兵により下がった民忠は米を施してフォロー。うん、万全です。

「後は、どんなメンバーで攻めるか。逆に言えば誰を残すか、ですね」

 上杉・斎藤と隣り合っている以上、あまり多くの兵力を徳川攻めに割くわけにもいかないのが辛い所なのです。

「うむ。とりあえず、わしは出してくれ」

「信玄公自ら?」

「別にこの戦いだけの話ではない。徳川を討った後は織田、三好と潰していき……上洛したい」

 静かですがその声には迫力がありました。史実では上洛を目指した途上で亡くなった信玄公が、ゲームの中でリベンジしようとしています。ならば、わたしもそれに応えましょう。

「わかりました。では、躑躅ヶ崎館には信繁さんを残そうと思います」

「おお。信繁なら安心して任せられる」

 つまり、信玄公を中心とした軍は西へ攻め上がり、上洛を目指す。信繁さんを中心とした軍は残り、上杉・斎藤に対して備える。

 ここに当面の基本方針が定まりました。


 そして1561年夏、武田軍は長篠城への侵攻を開始しました。メンバーは信玄公を筆頭に、嫡男の武田義信たけだよしのぶさん、飯富昌景おぶまさかげさん、馬場信房ばばのぶふささん、山本勘助さんといった面々です。守る徳川軍は酒井忠次さかいただつぐさん、岡部元信おかべもとのぶさん、そしてご存知、服部半蔵はっとりはんぞうさんなどなど。相手にとって不足は無いでしょう。史実では三方ヶ原の戦いが1573年ですから、12年早く徳川家とぶつかることになります。長篠で、というのが何とも言えませんね。

 さて、このゲームでは、例えば長篠城を攻めた場合に戦場となるのは長篠城だけではありません。周囲の城も戦争に巻き込まれるシステムになっています。つまり、多くの城から同時に大軍で1つの城を攻めたり、逆に複数の城を1回の戦でまとめて攻め落としたり、あるいは3つ以上の勢力が入り乱れたり……と様々な状況が生まれるわけです。

 今回の戦いで言えば、長篠城だけでなくさらに南にある吉田城も戦場になりましたから、余裕があればそちらを落とすことも狙えそうです。さらに言うと、今川家も巻き込む形になりました。これは予想外です。

「今川はこちらに味方してくれるようですよ。まあ、同盟してますからね」

「ならば、できる限り今川に徳川を攻めさせれば良かろう。徳川の兵力を減らしてもらったところで我々が攻めれば、余計な兵を失わずに済む」

「こ、狡猾!」

「ふふふふ、褒めるでない」

「褒めているわけじゃないですが」

 兵力はこちらが上ですが大きな差は無いため徳川軍は籠城せず、野戦となりました。戦いが始まると、わたしはよくわからないなりに部隊を動かします。

「こちらは騎馬隊が中心なのに対し、敵は足軽ばかりですね。やはり機動力が違う……」

「その差を利用しない手はあるまい」

「よし、一気に突っ込みます。……えぇ!? 強い!」

 わたしは驚きました。相手ではなく、こちらの強さに。信玄公と飯富昌景さんの攻撃で、敵の兵力が見る見る減っていきます。他の武将が攻撃をかけたときよりも明らかに違います。戦闘と騎馬能力の高さ故でしょう。

「敵だってかなり能力高いはずなんですが、なんというか、格の違いを感じますよ!」

「うははは、流石わしと昌景だ。これは今川の力を借りるまでも無さそうだな」

「ええ、うっかりしたら今川が城を獲ってしまうこともありますからね。あ、敵が城の中に退却しました。こちらも一気に突入します」

 野戦で敵兵力を減らしていたことも効いたのか、武田軍は長篠城を落とし、勢いに乗って吉田城も奪取することに成功。合戦は終わりました。一定の損害は出したものの、完全勝利と言えるでしょう。


「やりましたよ、信玄公!」

「当然だな。初陣としては上出来ではないか?」

「ありがとうございます。ん? 何か始まりました。ああ、捕虜にした武将の処遇を決めるんですね」

 敵武将の何人かは徳川の本拠地である岡崎城へ退却しましたが、岡部さんや半蔵さん、酒井さんを捕らえることに成功していたのです。

「自軍に登用するか、解放するか、斬首するかの三択なんですね。これは当然、登用するしかないですよね?」

「無論」

 岡部さんと半蔵さんはスカウトに成功しました。半蔵さんは言わずもがな忍者として便利な存在でしょうし、岡部さんも漫画「センゴク外伝 桶狭間戦記」で渋い活躍をしていて個人的に好きな武将です。これは期待しちゃいます。後で褒美をあげて忠誠度を上げておきましょう。

「あとは酒井さん……あれ、登用を拒否されてしまいました。何度やってもダメですね。となると、二択ですね。解放すr」

「首を刎ねるべきだな」

「食い気味に非道なことを言われた!」

 信玄公が鬼に見えました。

「あのう、殺すことはないのでは?」

 酒井忠次さんといえば、徳川四天王の一人。家康公第一の功臣とも評される方です。やはりわたしも徳川家臣の末裔なわけで、気が進みません。

「ここで酒井を解放すれば岡崎城に戻り、また敵として戦うことになるぞ」

「次に攻めた時にもう一度捕らえれば酒井さんの気も変わるのでは?」

「酒井がそこまでして手に入れたい将かどうか、だ。ここで徳川の力を削いでおく方が優先だとわしは思うがな。徳川攻めは通過点に過ぎない。余計な手間をかけるところではなかろう」

「うーん……」

 ちょっと、悩んでしまいます。

「悩むがいい。わしは助言しかできん。最後に決めるのは宵子だ」

「……よし、決めました。酒井さんを斬ります」

「ほう」

 わたしは斬首を選択しました。酒井さんの最期のセリフを見ると、ゲームとはいえ心が痛みます。ごめんなさい。一方で信玄公の言う通り、武田家の人材の豊富さを考えれば絶対に欲しいというわけではないな……とドライに考えているわたしもいます。

 わたしの判断の是非はわたしにもわかりません。ただ、この決定を信玄公のせいにしたくはないと思うところです。決めたのはわたしである、という自覚はしっかり持っておきたいと思います。


 捕虜の処遇が決まると、通常の画面に戻りました。

「ふう……。そうそう、一気に2つの城を落としたので、まずは城下にいる浪人さんもチェックする必要あるかもですね」

「そういうものなのか」

 わたしは人事コマンドを選択しました。おお、浪人さんがいたみたいですね。名前が表示されます……「武田信虎」と。

「ファッ!?」


 今宵はここまでにしようと思います。

次回「父帰る」ご期待ください。

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