第37話 馬と鉄砲と独眼竜
騎馬鉄砲隊。
通常の騎馬隊のさらに前に、鉄砲を装備させた騎馬隊を配置するという画期的な戦術です。なんかもうノリとしては全部乗せラーメンというかV2アサルトバスターというか、な発想ですね。
史実でも伊達政宗さんが大坂夏の陣で用いたそうです。そこからゲームでも伊達さんや片倉さん固有の部隊として採用されているのでしょう。
「いろいろ調べてみましたが、西洋でいう竜騎兵に近いものみたいです」
ドラグーンって、もんのすごい中二ワードですよね。政宗さんらしいです。
「して、げーむの中ではどのような能力なのだ」
信玄公の疑問に答えるためわたしは急いで調べ、
「ええと……まあ名前通り、騎馬隊の機動力と鉄砲隊の射撃というそれぞれの特性を併せ持っているみたいですね」
「ふむう」
「反則気味ですよねえ。これは苦戦しそう……」
「そうかのう」
「え?」
信玄公が意外にものほほんとした口調でおっしゃるので、わたしは少し驚きました。
「だって信玄公、騎馬隊にも鉄砲隊にもなるんですよ。相手にすると手強そうですよ」
「逆じゃ、逆」
信玄公は楽しそうに、
「もし味方に騎馬鉄砲隊がいたならば、確かに便利であろう。騎馬隊としても鉄砲隊としても使えるのだからな。かなり有用なはずじゃ」
「ええ……」
「だが、敵として相対する際にどうかと言えば、そんなことはない。騎馬鉄砲隊ならではの強みというものが無いのだからな。騎馬隊あるいは鉄砲隊を相手にする場合となんら変わらん」
「まあ、そう言われればそうかも……」
「付け加えれば、今回は籠城戦じゃ。騎馬の機動力はほとんど関係ない。ただの鉄砲隊を相手にすると考えればよかろう」
「つまり……騎馬鉄砲隊は見かけ倒しと?」
「そういうことじゃな」
信玄公は大きくうなずきました。
「だが、伊達政宗と片倉の能力が高いことには変わりない。油断はするなよ」
戦が始まると、信玄公のおっしゃったことはその通りであるということがわかりました。
確かに政宗さんも片倉さんも強かったです。射撃による被害はそれなりに出ました。が、限界まで武勇が高まった戦国最強・本多さんを相手にするとさすがに分が悪い。
当初想定したよりもずっと簡単に千葉城を落とすことに成功しました。政宗さんたちは水戸方面へと退却していきます。
「はー、良かった。なんだか拍子抜けですよ。……政宗さんとの直接対決すらこの調子なら、もう後は苦戦することはないんじゃないでしょうか」
「それはどうかな。兎に角、最後まで気は抜かんことだ」
やや脱力してしまったわたしに信玄公が釘を刺してきます。わかってはいますが、もう流れとしてはわたしたちの天下統一は揺るぎないわけで……。
この手のゲームをプレイしたことのある方ならおわかりいただけるかと思いますが、終盤まで来るとプレイヤーとしてはモチベーションの維持が大変になってきます。
どうしても、ある種の消化試合感との戦いになってくるのです。ここまで来たのだからエンディングを迎えるのだという気持ちを奮い立たせることが必要になってきます。
1608年から1609年にかけては、多くの功労者が病死しました。
仁科盛信さん、羽柴秀吉さん、黒田官兵衛さんなどなど。特に秀吉さんは織田家との戦い後、常に第一線で戦い続けてくれました。史実の天下人なわけですし、天下統一を見せてあげたかったものです。
そして山陰では、島津義弘さんの軍団が完全に九戸軍を駆逐することに成功しました。これで九戸家は越前にわずかな城を残すのみ。
そこからはわたしの直轄軍の出番です。宇喜多秀家さん率いる部隊でまずは一乗谷城、続けて北ノ庄城を落とし、ついに九戸家は滅亡しました。
「九戸実親さんも捕らえましたよ」
「処遇はいかがする」
「うーん……」
わたしはちょっと悩みました。九戸さんは、斎藤さんから家を引き継ぐやいなや同盟を切ってきて苦しめてくれた厄介者です。
これまでも捕らえた大名や武将を何度も斬りましたし、別に斬っても問題ないんですが……。
「解放してあげましょう。もう九戸さんを逃がしたところで、再起することは不可能ですし。ゲームの中とは言え、無駄に命を奪うのはやめておきます」
「ふ、優しくなったものだな」
「天下統一が見えてきましたからね。罪滅ぼしというのは変ですが、ちょっと悪行は控えようかと、なんとなく」
一方、メインとなる伊達家との戦いは、関東は一定敵を叩くことに成功したので、北陸攻略を進めて行きました。
雪ちゃん自ら先頭に立ち、加賀や越後を順調に制覇。雪ちゃんは出羽の尾浦城まで攻め上がったので、ついに東北進出を果たしたと言って良いでしょう。
こうなると、今度は関東から伊達軍を追い出さないと……と考えていた矢先でした。
1610年夏、北陸の拠点だった新発田城が伊達家の攻撃を受けたのです。
「くっ、さっきまで城にいた兵力が加賀や出羽に向かったおかげで、残存兵力は少ないですね……。わずかな隙を見逃さない辺り、さすが政宗さんです」
こちらは蒲生氏郷さんが守っているとはいえ、敵は多数のうえに佐竹義重さん、最上義光さんが率いています。この戦いに勝つのは厳しいでしょう。
「政宗さんも、黙って滅亡を受け入れるはずはありませんよね。ここで総力戦を仕掛けてきたということでしょうか。どうしましょうか、信玄公」
……あれ?
「……信玄公?」
……返事がありません。と、言うか。
信玄公の姿が……消えた……?
今宵はここまでにしようと思います。
次回「救出戦」ご期待ください。