第35話 伊達パーティー終わらない
伊達政宗さんとの戦いが近いことを悟ったわたしたちではありますが、今はまだ政宗さんは同盟相手です。いつ同盟を切られても(あるいはこちらから切っても)良いように備えつつ、当面は北条と九戸を削ることに専念することにしました。
1604年夏には仁科盛信さんと家康さんで江戸城を、秋には勝頼さんで坂本城を落とすことに成功。
その間政宗さんはおとなしくしていましたが、続く1605年になると再び南下して北条さんを攻め立て始めます。わたしはといえば、信勝さんと雪ちゃんの兄妹で九戸家の富山城を攻略していました。当然、政宗さんの動きからは目を離しませんでしたがね。
「現在の伊達家の面々は東北&関東オールスターズといった感じですね。伊達成実さんや片倉景綱さんといった本来の伊達家臣に加え、最上義光さん、佐竹義重さんまでいます」
「そこに北条家まで取りこまれてしまうと、厄介になるのう」
「ええ、ですから北条家はどうにかしてわたしたちが併呑したいところです。……タイミングをはかるのが難しそうですね」
んが、事態はかなりわたしたちに都合がよく動きました。
1606年夏、伊達家がさらに攻撃を加えた結果、北条家の城は氏政さんのいる松山城のみとなったのです。
「よし、これは願っても無いチャンスですよ! わたしたちで北条さんに引導を渡しましょう」
「そう焦るな宵子」
気合を入れたわたしに、信玄公が待ったをかけました。
「攻めたところで、わしらが勝つのは目に見えておろう」
「ええ、それはまあ、もはや北条の兵力はわずかなものですしね」
「ならば、戦わずして勝つのが上策であろう」
「……降伏勧告ということですか」
北条氏政さんは、かつてわたしたち武田家との同盟を切ってきた人物です。一方で、その後は手の平をくるっと返して土下座外交を展開してきたりもしました。
そしていまや武田と北条の力の差は明らかですし、なにより勝頼さんは征夷大将軍に就任しました。その威光は有効かもしれません。
「よし、では勧告してみましょうか。失敗したら攻めればいいだけの話ですしね」
使者は智謀が高いほうが効果が高いということなので、ここは黒田官兵衛さんに任せることにしました。偶然ですが史実に近いと言えるかもです。
さて、その結果は……。
「おおー、成功です!」
官兵衛さん、以前は安国寺さん相手の勧告に失敗していますから、面目躍如といったところです。
「良かったではないか。これで無駄に消耗せずに済んだ」
「おまけに、大名である氏政さんを含めてそっくりそのまま北条家の戦力が加わりました。彼らが伊達につかなかっただけでも助かりますよ」
北条家が滅んだことにより、ついに残る勢力はわたしたち武田家と九戸家、そして伊達家のみとなりました。九戸家ははっきり言って落ち目ですから、武田家とまともに対抗しうるのは伊達家のみという状況です。
「こうなると、政宗さんとの対決はもうすぐですね。いつ同盟破棄されてもいいように準備をしておきましょう」
「こちらから切ることも考えねばな」
ですが政宗さんの行動は迅速でした。北条が降伏した次のターンに当たる秋、政宗さん直々に勝頼さんのもとへやってきたのです。
当然、要件は同盟を切るということでした。ゲーム画面では勝頼さんと政宗さんが「次は戦場で相まみえようぞ」などと話しています。
くっ、不覚にも萌えてしまう……! 政宗さんの相手は片倉さんか真田幸村さんしかいないと思っていたのに、勝頼さんもありじゃないですか……(申し訳程度の腐女子アピール)!
「はっはっは、豪胆じゃのう」
信玄公も笑っています。
「ええ、じゅるっ、ラスボスにふさわしい方ですよ政宗さんは……じゅるるっ」
「とりあえず涎を拭け、宵子」
兎に角、武田と伊達の全面戦争開始です。奇蹟のカーニバル開幕です。
「北陸から関東まで、思いっきり広範囲で伊達家と面していますからね。連戦になることは間違いないでしょう」
「こちらのほうが兵の数はかなり上ではあるな。だが九戸に対してある程度は兵を割かねばならぬ。伊達と面した全ての城に充分な兵を配するのは難しかろう」
「うーん……よく考えて攻めなければいけませんね」
大雑把に北陸と関東に分けて考えると、北陸では勝頼さん、信勝さんに雪ちゃんといった武田家本隊が最上義光さんたちとぶつかることになりそうです。関東では仁科盛信さんや真田さん、家康さん、秀吉さんたちが政宗さん本隊と睨み合っています。
「よし、なにはなくとも先手必勝。まずは最上さんの守る新発田城を奪ります!」
最上義光さんは伊達政宗さんのおじさんにあたる戦国大名。謀略家だったり善政を敷く仁君だったり、戦場では勇将だったり多くの歌を詠む文化人だったりシスコンだったり鮭大好きだったりシスコンだったり、いろんな面を持つ面白い人物です。
わたしはこの最上さんがけっこう好きなんですが、今はそんなことを言っていられません。比較的守りが手薄だった新発田城へ、勝頼さんを進めます。兵力の差もあり、戦はこちらの優勢に進みました。
「これなら初戦は難なく勝てそうですね」
「うむ」
……が、わたしは敵を甘く見ていました。かつてわたしがよく使っていた手段を、最上さんも用いてきたのです。
「ん? 森蘭丸さんが……ぎゃーっ! 暗殺されました!」
「なにぃ!?」
「も、最上さんの仕業です。『暗殺の後の茶もまた格別……』じゃないですよぉぉー!」
森蘭丸さん、史実では若くして本能寺で死んじゃいましたから、浪人していたところ登用して以来わりと重用してきたんですが……。ぐぐぐ、残念。
「勝てぬ戦でも、少しでもわしらの力を削って来るか。やりおるのう、羽州の狐」
信玄公が感心しています。
「忍者以外でも暗殺技能を持つ、数少ない武将の一人だったんですね最上さん……もう、バカ! このシスコン!」
一応新発田城を落とすことには成功しましたが、最上さんには逃げられてしまいました。今後も厄介な敵になりそうです、最上義光さん。
こうして伊達家との初戦に勝利したわたしたちですが、明けて1607年、予想だにしなかった出来事が起きてしまいました。
「ん……あれ……し、信玄公」
「どうした?」
わたしはしばらく口をパクパクさせながら、なんとか言葉を吐き出しました。
「か、勝頼さんが病死しちゃいました」
今宵はここまでにしようと思います。
次回「新妹覇王の軍配者」ご期待ください。




