第31話 島津戦姫
本多忠勝さん。言わずと知れた、史実では戦場で一度も傷を負わなかったという名将です。別にロボットではないです。
武田家に登用された時点ではまだまだ能力が低かった忠勝さんですが(第17話「才と経験」を読んでね!)、数々の戦いで経験を積み、山県さんが亡くなって道雪さんも高齢のため能力が下がり続けている現在、紛れも無く武田家最強の武将であります。いえ、上杉謙信さんが亡くなっている今、ゲーム内でも最高の武勇を誇っていると思われます。まさに戦国最強!
「混乱させられるのを恐れて忠勝さんを後方に控えさせていましたが、もうリスク度外視で突撃させるしかありません」
「うむ。5日以内に風魔を倒して小田原城を落とせなければ、また攻め直しになってしまうからな」
「行きます! ニンジャ殺すべし!」
鉄砲隊の援護射撃を受けつつ、忠勝さんが風魔小太郎さんのこもる本丸に特攻をかけます。風魔さんはもはやまともに応戦せず、忠勝さんに混乱を仕掛けてきました……が、失敗!
「よーし! あとは突撃あるのみ!」
本多隊の突撃の威力は凄まじく、わずかな回数の攻撃で風魔隊を壊滅させ、本丸を落とすことに成功しました。残り日数は2日と表示されています。やれやれ、危なかった……。こうして、わたしたちの小田原攻めは苦戦しながらも勝利に終わったのでした。
さてさて、戦後処理です。捕らえた武将はとりあえず登用を試み、断られたら解放してあげます。これが基本方針なのですが、
「う、風魔小太郎さんを登用しようとしたら断られちゃいましたよ」
「どうするのだ。ここで風魔を逃がすとまた苦しめられるぞ」
「ですよね……。よし、斬りましょう。すまんな、本当にすまん」
かわいそうですが、これで北条の戦力はある程度落ちたでしょう。とはいえ、関東の大部分はまだまだ北条のもの。当面は北条を攻め続ける必要があります。わたしたちに盛んに同盟の使者を送ってきていた氏政さんも、さすがにわたしたちとの戦いに本腰を入れてくるでしょう……。
そう思っていた1596年春、またまた氏政さんから使者がやってきました。
「信玄公、氏政さんたら小田原で血みどろの戦いをしたばっかりなのに、同盟を申し込んできましたよ。あははははは」
もう笑うしかありません。
「どういう神経をしておるのかのう。北条は伊達とも接しておるから、わしらとの戦いを避けたいのか」
「うーん。小田原近辺の城は奪りましたし、北条の力はそれなりに削ぎました。ここで北条と結んで上杉との戦いに専念するというのも一つの手ではあるかも……。どう思われます、信玄公」
ちょっと悩んだわたしがたずねると、信玄公は即答しました。
「同盟を結ぶ意味など無いな」
「あら。なぜですか」
「武田の勢力がもっと小さければ、それもありかもしれぬ。だが、今の武田はすでに強大じゃ。北条と上杉を同時に相手にすることもじゅうぶん可能であろう」
「確かに……」
「それに、もう史実では秀吉がとっくに天下を統一しておる年なのだぞ。家臣たちも次々と老いて死んでゆく。のんびりしておる暇はなかろう」
「そうか……そうですね」
信玄公のお言葉通り、有能な家臣の高齢化は深刻な問題です。あの立花道雪さんもこの年に亡くなってしまいました。急ぐ必要がありそうです。
「よし、この同盟は断ります。そして、北条と上杉の攻略を同時並行的に進めていきましょう!」
そんなわけで、わたしたちはこの年から北条と上杉の同時攻略に乗り出しました。北条氏政さんは同盟が断られたと見るや、今度は友好度を上げるために贈り物をどんどん持ってくるという土下座外交を展開してきました。まあ、いただくだけいただいておきましょう。
さて、勝頼さん以下の主力は北条を攻め続けるとして、上杉に誰を当たらせるか決めなければいけません。
「ここは次世代育成の意味も込めて、信勝さんと雪ちゃんの兄妹に任せようと思います。島津一族の皆さんをサポートにつければ大丈夫でしょう」
「うむ。謙信亡き後の上杉なら問題なかろう」
上杉家はゲーム開始時から北陸の大部分を有しており、その版図は三好家に次いで広大でしたが、その後まったく増えていません。むしろ信繁さんの活躍で武田家が春日山城を奪いましたから少し減っているほどです。
謙信さんがいた頃から、なぜかほとんど戦争していませんでしたからね。謙信さんが本気を出していればもっと勢力が広がり、武将の能力も上昇して手がつけられなくなったのではないかと思うんですが、これはわたしたちにとって幸運でした。
そして1597年から、本格的に北条と上杉への二正面作戦を展開していきました。二正面作戦とは言いつつ、どっちかといえば対上杉のほうが中心になってしまいましたが。
なんといってもエースは雪ちゃんです。じゃっかん19歳の女の子なのに武勇はすでに100オーバー。大河ドラマだとほとんど蛮族扱いされていた島津の猛将たちを引き連れて、ずんずん上杉の城を落としていきます。
夏には琵琶島城と雑太城を攻略、冬には坂戸城を攻略。越後をほぼ手中に収めてしまいました。
「雪ちゃんも強いし、島津の皆さんも強いですねえ。島津豊久さんこと妖怪首おいてけもいますよ」
「……逆ではないのか?」
「そうかもしれません。もうこれだけ一緒に行動してるし、雪ちゃんを豊久さんのお嫁に入れようかとも思いましたが、システム的に姫武将は婚姻できないんですね。残念!」
1598年に入ると、これまで静観してきた斎藤家がここぞとばかりに動き、弱った上杉家を攻め始めました。
「越中の城を3つも斎藤家に取られちゃいましたよ!」
「さすがに抜け目がないのう」
斎藤家の拡大を抑えるためにも、雪ちゃんと島津の皆さんに頑張ってもらい、沼田城ほか上野の上杉軍を一掃しました。これで上杉の城は残すところあと4つ。風前の灯火と言っていいでしょう。
また、北条を放置していたわけでもなく、この年には北条から房総半島の各城を奪いました。
ふっふっふ、そろそろ天下が見えてきましたよ。この辺りで、全国の状況を整理してみましょう。
1598年現在、残っている勢力は5つ。
わたしたち武田家、同盟勢力である斎藤家、もはや虫の息の上杉家、いまだ関東に多数の城を有している北条家、そしてこの年に南部家を滅ぼし完全に東北を制した伊達家です。
「この様子だと、ラスボスは伊達家になりそうですね。ゲーム開始時は南部に押されていたんですが、政宗さんが大名になって以後は一気に伸びてきました。さすがに政宗さんと言うべきでしょう」
「だが、伊達より前に斎藤をなんとかせねばならんな。いつ同盟を切るか、だ」
「そうなんですよね……。できれば北条と上杉を完全に滅ぼしてから、腰をすえて戦いたいところです」
しかし状況はそんなに思い通りには動かないものです。
年が明けて1599年、斎藤家の当主である龍興さんが亡くなってしまいました。
「あら。龍興さんは史実だと早くに亡くなっていますから、たぶん息子さんはいないと思うんですよね。跡を継ぐのは誰なんでしょう」
跡を継いだのは……九戸実親さんでした。
「……誰っ!?」
「南部の一族だな。秀吉に対し乱を起こした九戸政実の弟じゃ」
「ほうほう」
信玄公に解説してもらいましたが、不勉強な私は東北の戦国武将について全然知識がありませんでした。ちょっと反省。
この実親さんの登場により、事態が急変することになるのですが……今宵はここまでにしようと思います。
次回「九戸実親という男」ご期待ください。