第30話 東方風魔大戦録
九州を統一したわたしたち武田家。次は一気に反転して関東の北条家を叩かなければなりません。ですがその前に、西日本の領地に関する人事を考える必要がありました。関東での戦に集中するため、西日本の安全地帯を信頼できる武将に委任するのです。
この後で北条と戦うわけですから、戦闘力が高い武将に任せるのはもったいない。かと言ってあまりに無能な武将に広大な領地を与えるのもいかがななものか……。そんなことをいろいろ考えた挙句、以下の通りに編成を行いました。
近畿方面軍:細川藤考さん
中国方面軍:小早川隆景さん
四国方面軍:丹羽長秀さん
九州方面軍:九鬼嘉隆さん
「いかがでしょう、これ。みなさんご高齢なのが気になりますが、その分能力は高いです」
「良いのではないか。もっとも方面軍とは言いながら、四国と九州は他勢力と面しておらぬから兵力を配置する意味は無いな」
「ええ。しかし中国と近畿はやや状況が違います。中国地方でわたしたちが手にしているのは、約半分にあたる山陽だけですし、近畿地方も同様に南半分しか有していません」
「どちらも、北半分は斎藤が押さえておるのだな……」
信玄公が苦々しげにおっしゃいました。そう、わたしたちと同盟関係にある斎藤龍興さんが美濃から近江、越前、京、さらに山陰まで有しているのです。わたしたちが九州で戦っている間は、傍観を決め込んでいるようでした。どうせなら上杉を叩いてほしいのですが、そう都合よく動いてはくれません。
「わたしたちも斎藤家も、同盟が強固であったからこそ一方向への侵攻に集中できて躍進できたという面がありますが、ここからは判断が難しいですね……」
「うむ。当面の敵は北条だが、天下統一を狙う以上いずれは戦わねばならん。それは斎藤もわかっておるだろう。かつての長宗我部のように同盟を切って攻めてくる可能性もある。一定の戦力は中国と近畿に残しておくべきであろうな」
「はい」
そんなわけで、四国・九州は思い切って兵力ほぼゼロとし、その分の余剰兵力を中国・近畿に回すこととしました。これが斎藤家への牽制として機能すればいいんですけどね……。
そして1595年に入り勝頼さんをはじめとした主力を懐かしの甲斐・駿河方面に戻し、着々と北条との戦の準備を整えていたところ、
「ん? 北条からの使者が来ましたよ? ……同盟を結んでくれですって」
「……宵子、一応聞いておくが、どうするつもりだ」
「結ぶわけないじゃないですかー」
そもそも同盟を切ってきたのは北条のほうからなのに、手のひらクルーされても困ります。だいたい、天下統一が見えてきたこの状況で、領地が面している北条と結ぶ意味がありません。
「で、あろうな」
「史実では信玄公の駿河侵攻がきっかけで同盟が破綻しているんですけどね」
「……さあ、戦の準備を整えるのだ」
「華麗にスルーした!」
まあ、信玄公の娘さんが不幸になったこともあるし、あまり触れたくないんでしょうがね。そんなわけで北条の申し出を断ったのですが……
「信玄公! 毎ターン毎ターン氏政さんから同盟の使者がやってきますよ!」
「何度来ても同じだということがわからんのかのう」
「空気が読めないというか……さすがご飯にかける味噌汁の量がわからない人というか……だんだんうざったくなってきました」
そろそろ、頃合いでしょうか。
1595年冬、準備万端整えたわたしは、高らかに宣言しました。
「さあ、小田原攻めですっ!」
一門からは仁科盛信さんと雪ちゃんを出陣させ、重臣からはやっぱり史実もあって家康さんと秀吉さんを中心とした大軍を編成し、関東攻略を開始しました。史実より随分遅れてしまいましたが、気分は秀吉さんです。
小田原攻めと言いつつ、実際は周囲の城も落としていくことになります。
雪ちゃんが攻略を担当した滝山城では、島津の鉄砲隊が大活躍してくれました。九州攻めの際は彼らを用いませんでしたから、ここで初めて味方として本格的に使うことになります。
「うわああ、強すぎますね義弘さん。歳久さんも家久さんも……。驚きの戦闘民族っぷりですよ」
「こやつらを味方にひきこむことができて良かったのう……」
信玄公もため息です。
雪ちゃんが騎馬で先陣を切り、足軽隊の義弘さんが追撃、さらに歳久さん家久さんの鉄砲隊で殲滅。凄まじい勢いで北条軍を攻め、難なく滝山城を落としてしまいました。
そして韮山城も九州で配下に加わった鍋島直茂さんの活躍により落とし、次はいよいよ小田原城です。
こちらは仁科盛信さん以下、家康さん秀吉さんといった歴戦の強者を送り込んでいます。いかに堅牢な小田原城といえど落とせるはず……。
ですが、それは甘い考えでした。小田原を守るのがあの風魔小太郎さんだったからです。
城門の守備は固かったものの、大軍で攻めたおかげで本丸までは比較的容易に進むことができました。あとは本丸に籠る風魔小太郎さんを討つのみ、というところまでは追い込んだのですが……
「うげえっ! 盛信さんと秀吉さんの軍が大混乱して同士討ちしています!」
「風魔の仕業か」
「ええ、智謀の高い秀吉さんまで混乱させられるなんて……脳筋の盛信さんはともかく」
「おい。……まあ良い。それどころではないぞ。さらに火までかけられておる」
「ええー!」
画面を見ると、風魔小太郎さんは次々と本丸周辺に火を放ち、混乱で動けない盛信さんと秀吉さんの部隊はどんどん数が減っていきます。
「うぐぐ、風魔小太郎さんの部隊の人数は減っていないのに……忍者恐るべし」
雨が降ったおかげで火が消えた一瞬の隙を見て、盛信さんの隊はほうほうのていで後退しました。当初は1万いた軍勢が、1000足らずにまで減っています。しかしまだ混乱が続いている秀吉さんの隊は動けない状態です。
「風魔を倒すだけでなく、秀吉さんを助ける必要もありますね……」
「どうするのだ」
「接近したら混乱させられます。ならば、近付かずに敵を減らすまで! 鉄砲隊の出番です!」
島津の人たちは滝山城にいますから間に合いませんが、こちらには鈴木佐太夫さんや種子島久時さんもいます。鉄砲技能が高い彼らなら、風魔さんの混乱の射程外からの射撃が可能なのです。
雨が降ると射撃できないので多少は手間取りつつも、連射に次ぐ連射で風魔小太郎隊はじわじわと数を減らしていきます。そうこうするうちに秀吉隊もなんとか後退に成功しました。
「やれやれ、まずは一安心です」
「わしらの勝利は間違いないな。だが宵子よ、小田原を落とせるとは限らんぞ」
「え? なんでですか。敵の数も減ったし、あとは時間をかければ……」
「その時間が無いのだ」
「えっ!?」
わたしは画面を見ました。……「あと5日」と表示されています。そうでした! これまでは大して問題にならなかったのですが、このゲームの合戦では時間制限があったのです。
あと5日以内に小田原を落とさなければ、強制的に武田軍は退却し、小田原を守りきられたということになってしまいます。他の城は落としたと言えど、また風魔がいる小田原攻めをやり直すというのは真っ平ごめんです!
「……ここは、あれを出すしかないようですね」
「あれとは?」
信玄公の問いに、わたしはノリノリで答えました。
「出でよ、汎用人型決戦兵器、本多忠勝!」
今宵はここまでにしようと思います。
次回「島津戦姫」ご期待ください。