第27話 最近、妹のようすがちょっと姫武将なんだが。
1588年夏、ついにわたしたちは九州への侵攻を開始しました。まずは四国から、山県さんや内藤さん、立花道雪さんといった歴戦の猛将たちが豊後方面へ攻め入ります。
どうも島津軍は中国での戦いで多くの武将を失ったせいで人手不足なのか、九州の全ての城にじゅうぶんな戦力を配置できていないようでした。豊後方面の城はけっこうスカスカ状態。かなり楽に落としていくことができました。
それでいて捕虜にした武将の中には黒田官兵衛さんや鍋島直茂さんといった優秀な人材がいたものですから、ものすごく得した気分。もちろんスカウトし、武田軍に迎え入れましたよ。
「おお、智謀の高さからか官兵衛さんがさっそく軍師になりました! これまでは秀吉さんが軍師だったんですけど、それを上回る智謀ということですね。まあ史実で秀吉さんの軍師だったんだから当然ですかね」
「勝頼の右腕になってくれそうじゃな」
一方、勝頼さん以下の本隊は本州から豊前方面へと攻め込んだわけですが……こちらは苦戦を強いられていました。
「大名である島津義久さんを中心に、豊後とは比べ物にならない兵力が集まっていますね」
「九州全域を中途半端に守るのではなく、豊前に結集させておるのじゃな。敵ながら賢明な判断と言えよう」
「けっこうな大軍で籠城したうえで、どんどこ砲撃してきますよ。これはなかなかきつい……。流石は戦国最強のひきこもり」
こちらも大砲の購入が可能になったので城壁の外側からの攻撃が可能にはなりましたが、島津軍のように全部隊に配備させている余裕はありません。夏の間ずっと大軍で攻め続けて門司城を落とすのがやっとでした。
「つ、疲れる……」
「しっかりせい宵子。今が踏ん張りどころであろう。島津が主力を豊前に集めているということは、ここで打撃を与えれば九州を獲ったも同然ということじゃ」
「……わかりました。戦力を回復させる間を与えず攻めまくります!」
門司城攻略で消耗した部隊を後退させ、本州から仁科盛信さんたちを呼び寄せ、島津義久が退却した城井谷城へ攻め込みます。
壮絶な死闘となりました。
相変わらずの籠城からの砲撃の嵐。フルボッコにされながらも戦力を投入し続け、結局はひたすら攻めるしかありません。
「何度も戦った結果として、義久さんの武勇が限界まで成長してるんですよね。そのせいで砲撃の破壊力が尋常ではないんです」
「おまけに戦闘中にどんどん士気も上がっていくしのう」
このゲームでは3か月の間に城を落とせなかった場合は守備側の勝利となり、どれだけ城内の奥深くまで攻め入っていてもいったん退却させられます。盛信さんたちが本丸に突入したはいいものの、期限まであと1日になっていました。もうここまでくると、頭を使うどころではありません。
「あとは天守閣にこもる義久さんのみ! 突撃突撃アンド突撃ィ!」
長宗我部信親さんの突撃が、ついに義久さんに止めを刺しました。
「やった! ああ、どうにかギリギリで城を奪りましたよ……」
「それだけではないぞ宵子。島津義久を捕らえることにも成功したようじゃ」
「よし! 斬りましょうっ!」
「決断が早いな!」
もう砲撃はこりごりなのです。ここで義久さんを斬っておかないと、九州攻略の間ずっと苦しめられることになるんですよね。
弟の義弘さんたちは武田の配下となり信濃の守りについています。島津家は存続しますから、安らかにお眠り下さい……と脳内で謝りつつ、わたしは島津義久さんを斬首しました。
「しかしこうなると、跡を誰が継ぐのか気になるな。もう他の島津一門は皆武田についておるし、黒田や鍋島といった有能な者も同様じゃ」
「ええ、誰かいましたっけ……?」
やがて、ゲーム画面にメッセージが表示されました。島津家を継ぐのは、まさかの安国寺恵瓊さん。これは予想外!
「安国寺さん、政治や智謀は高いですが武勇はてんで低いようですね」
「うむ。これなら九州攻略もはかどるのではないか」
予想通り、翌1589年の進撃は非常にスムーズに進みました。二方面からの侵攻は連戦連勝。豊前・豊後・筑前・筑後・肥前と、1年で九州北部をゲットです。
「やれやれ。もう安国寺軍にはまともにわたしたちと戦う力は残っていなさそうですね」
「あとは南部の敵を掃討しつつ、若い武将を育てるがよかろう」
「ええ……」
そんなことを話していると1590年に入ったところで、悲しい報せが舞い込んできました。……武田信繁さんの訃報です。
「……信繁さんは死んだんだ。いくら呼んでも帰ってはこないんだ。もうあの時間は終わって、君も人生と向き合う時なんだ……」
「しっかりせい宵子。……わしが死んだときよりも落ち込んでおらぬか」
「だってー! だってー!」
「本来なら川中島で命を失うところが、わしよりも長生きしたのだ。それで良いではないか」
「うう……」
「……しかし、信繁がこのげーむのように長生きしておれば、武田の命運も変わっておったであろうなぁ」
信玄公は遠い目をしておっしゃいました。
さて、信繁さんが逝った直後、すぐにまた別のメッセージが表示されました。
「……ん? 勝頼さんの娘さんにあたる姫が出てきて、何か言い出しましたよ」
「ほう」
「『父上、わたくしを配下の将と思ってお使いください。男に勝るとも劣らない働きをお見せいたします』ですって」
画面には、ごんぶと眉毛がかわいらしい姫の顔グラフィックが表示されていました。名前は『雪』だそうです。
「これは……噂に聞く姫武将と言う奴でしょうか」
急いで攻略サイトの情報を調べるわたしです。
「ええと、どうやら娘を登用すると、父親とそう変わらない能力を持つ武将になるようですね。もちろん姫の申し出を拒否して武将にせず、ごく普通の姫として扱うことも可能です」
「ふふ、面白いではないか」
「あら、ノリノリですね信玄公」
「つまりは、勝頼と同等の能力を持つ一門衆を加えることができるのであろう。良いことではないか。現実であれば娘を戦場に立たせることなどせぬが、げーむだからのう。宵子の好きにするがいい」
わたしは考えました。勝頼さんの息子……つまり雪ちゃんのお兄さんにあたる信勝さんはすでに武将として加わっていますが、能力は正直言って物足りません。決して無能ではないのですが。
で、あれば……この子を次代の武田のエースとして育てるのも楽しいでのはないでしょうか?
それよりなにより信玄公のおっしゃる通り、女の子を武将にするって面白い! ベルばら的浪漫ですよ!
「よし、決めました! おまえは男だ! おまえの名はオスカル! 私の息子だ! ……ああ、今のはベルばらに出てくるセリフのマネですから気にしないでください信玄公」
「わかるか、そんなもの!」
こうして、武田雪ちゃん12歳が一門の武将として加わることになったのです。
今宵はここまでにしようと思います。
次回「武装少女育成計画」ご期待ください。