第19話 大友包囲網
度重なる砲撃を受けて時折混乱状態に陥りながらも、勝頼さん率いる部隊は攻め寄せてきた大友軍をどうにか撃退することができました。距離を詰めてしまえば、大砲もさほど意味がありません。
とはいえ、こちらも大友が落とした毛利の城を獲るほどの余力は残っておらず……最終的にこの戦いは大友が毛利の城を落とすという結果に終わりました。
「これから先、大友と本格的に戦うに当たって、あの大砲に対してどう立ち向かうかが重要そうですね……」
「だが宵子よ、目には目を、というわけにもいかんのであろう」
「ええ。そもそも我々は大砲を製造することができませんから。ついでに言えば、鉄砲の扱いに関しても我々は大友軍に劣ります」
畿内をある程度押さえたわたしたちの資金力をもってすれば、鉄砲を集めるだけならじゅうぶん可能なのです。ただ、それを使いこなせる武将がいない! 滝川さんと佐々さんくらいなものです。そして彼ら程度の鉄砲技術を持つ武将が、大友軍にはゴロゴロいるのです。
「結局、大砲と鉄砲で遠距離から攻撃してくる大友軍に対しては、今回のようにひたすら全速力で突っ込んで戦うしかないのかもしれませんね」
「同感だな。幸い、わしらの配下には騎馬の扱いに長けたものが多い。速やかに近付くことができれば、それだけ被害を少なくすることもできようぞ」
「頭の悪い戦い方ですけどね……」
信玄公のお墨付きを得たとはいえ、わたしはどうも情けない気持ちになりました。しかし現実は現実。切り替えるしかありません。
さて、ここまでは戦術レベルのお話。戦略レベルでの大友対策も練らなければなりません。
「今後西へ進むに当たっては、中国と四国を同時に侵攻しようと思います。兵力を回復させる間を与えず一気に大友を叩かなければ、グダグダな長期戦になります」
「ほう。そんなことができるかのう」
信玄公は楽しそうです。
「わたしたちだけでは厳しいかもしれません。が、斎藤家と本願寺という味方がいますからね。彼らをうまく使えば一気呵成に攻めることもできると思います。つまり、中国地方においては山陰方面で斎藤に大友と戦ってもらい、わたしたちは山陽方面から進撃します。そして四国方面においては本願寺の力を借りて大友を追い出します」
「土佐に残る長宗我部とも同盟を結んだほうがいいかもしれんな」
「ああ、それもありですね。武田・斎藤・本願寺・長宗我部による大友包囲網ですよ。ウェヒヒヒヒ」
「宵子、笑い方が気持ち悪いぞ」
「ウェヒヒ、すいません!」
つい黒い笑いが漏れてしまいました。史実の足利義昭さんが信長包囲網を思いついたときもこんな気持ちだったのでしょうか……。
1577年の秋から冬にかけては、いくつもの勢力が滅亡していきました。
四国において、わずかに残っていた三好家と赤松家が大友により攻め滅ぼされました。さらには中国でも、毛利家と尼子家がついに大友に呑み込まれてしまいました。吉川さんや小早川さんといった旧毛利家臣までもが大友につくのは、ちょっと辛いかもしれません。
ですが、わたしたちも動いていました。駿河において信繁さん率いる軍により、やっと今川家を滅ぼしたのです。
本来ならゆっくり内政でもしたいところですが、そんな余裕はありません。山県さんや馬場さんを急いで中国地方へ戻します。そして榊原さんや井伊さんなど、史実では徳川家で活躍した武将たちの登用にも成功しました。彼らは史実通り、徳川家康さんの配下として活躍してもらいましょう。
そして1578年には取り急ぎ長宗我部元親さんに使者を送り、同盟を締結しました。これで大友包囲網完成です!
「あとは、大友領へ一気に侵攻するための体制作りですね。ちゃんと部隊を編成しなければ、膠着状態になってしまいそうですから」
「どう編成するのだ?」
「よくぞ聞いて下さいました。まず、寿命が近いと思われる信玄公には、このまま丹波亀山城にいてもらいます。次期当主である勝頼さんがもはや実質的な総大将と言っていいでしょう」
「うむ」
自分の死が近いと言われたにも関わらず、信玄公は気にしていないようでした。ゲームはゲームと割り切っているのでしょう。まあそれに、実際すでに死んでますからね。
「そして、武田傘下の武将の数も膨大になってきたので、この際ですから整理します。わたし自身がわかりやすいように」
「どういうことだ」
「つまりこういうことです!」
そう言って、わたしはあらかじめ準備していたフリップを取り出しました。
『武田譜代の武将を中心に編成された軍、大将は山県昌景! 略してチームY!』
『史実では徳川配下だった武将を中心に編成された軍、大将は徳川家康! 略してチームT!』
『旧織田家臣を中心に編成された軍、大将は羽柴秀吉! 略してチームH!』
『そのほか近畿侵攻の過程で登用された武将を中心に編成された軍、大将は真田昌幸! 略してチームS!』
「以上の通り軍を四つに分け、中国と四国をそれぞれ二軍ずつに担当させようと思いますが、いかがでしょうか」
「……いや、それは良い考えだと思うのだが」
「はい?」
「なんか、あいどるみたいじゃのう」
「信玄公、アイドルわかるんですか!?」
今宵はここまでにしようと思います。
次回「中国戦線異状あり」ご期待ください。