第15話 龍と虎
どうも皆さんご無沙汰しています。新田宵子です。
「さて、何事も無かったかのようにゲーム再開と行きましょう、信玄公!」
「かなり久しぶりな気がするのう」
「いろいろと創造していたもので……」
「それ以上余計なことを口にするでないぞ、宵子」
「わかっております!」
さてさて、前回の流れを簡単におさらいしますと、畿内の大部分を手にしたわたしたち武田家は毛利家および本願寺と同盟を結び、足利家を滅ぼしました。そして中国地方へ進出するため、播磨・但馬・因幡を支配している赤松家を攻める準備を始める必要がありました。
年が明けて1573年春。史実では信玄公が亡くなった年でもあります。ゲームでも史実通り信玄公が死んでしまうかも……と心配していましたが、どうやら杞憂に終わったようです。
「良かったー。寿命が全く史実通りと言うわけではないようですね」
「うむ……む!?」
信玄公が妙な声を出したので、わたしは画面を見ました。なんと、山本勘助さんが病死したとの表示が!
「ああ……まあ、70歳過ぎてましたからねえ」
「本来なら川中島の戦で失われた命であるからな。むしろここまで生きてこられたことを喜ぶべきかもしれん」
信玄公の言葉を聞きながら、わたしは考えていました。信玄公をはじめ、武田家譜代の有能な武将たちは皆けっこうなお歳です。天下統一まで生きながらえそうな人はほとんどいません。となると、次世代の若い武将たちを育てていくことを頭に入れておく必要もありそうです。
信玄公もわたしと似たようなことを考えているようでした。
「宵子よ、げーむの中のわしも、そう何年も生きられるとは思えぬ」
「ええ、まあ……」
「そこでだ。これまではわし自ら西へ攻め上がっておったが、今後はわしを丹波亀山城あたりへ留めておくわけにはいかぬか」
「じゃあ、義信さんと勝頼さんが最前線へ攻める総大将ということでいいですか? ダブルリーダーみたいな感じで」
「うむ。その方が良いであろう。戦の最中にわしが死んでも、前線に影響が無い体制を整えておきたい」
「なるほど、わかりました」
史実で信玄公が亡くなった状況に思いを馳せると、お気持ちはわかるところです。
そんなわけで、じっくり赤松攻めの準備を整えるわたしたちです。合間に三好の残存勢力を追い出したり、朝廷へ献金をしたりする中で、新戦力も加わりました。浪人としてふらふらしていた百地三太夫さんです。
百地さんは伊賀流忍者の祖とも言われる凄い人です。なんで浪人なんてしてるんだかよくわかりませんが、これは嬉しい!
「やった! 忍者ですよ忍者! 暗殺や焼討がバンバンできますよ、これで!」
「年若い女子の発言としてどうなのだ、それは」
信玄公に呆れられてしまいました。
外交面では、わたしたちから行動することは無かったのですが……やたらと朝倉義景さんからの使者が来るのに閉口しました。
「どうやら、斎藤龍興さんに追いつめられてるから助けてほしいようですね」
「斎藤は重要な味方だ。裏切るわけにはいかぬな。だいたい、朝倉と手を組む理由が無い」
「ですよねー。断りましょう」
と、朝倉さんの申し出を拒絶したのですが……その次のターンも、またその次のターンも、一年以上に渡って朝倉家の使者は訪れてきたのでした。さすがのわたしも最後には「あーさーくーらー!」と怒り出さずにはいられませんでしたね。
一年以上入念に準備をして、1574年冬。ついにわたしたちは赤松家への攻撃を開始しました。時を同じくして、斎藤龍興さんも赤松家を攻め始めます。わたしたちは播磨を、斎藤さんたちはその北に当たる但馬・因幡方面を。
「ふふふ、武田と斎藤を同時に相手にすることは不可能であろう」
「ですね。龍虎相搏つというよりも、仲良くいっしょに進撃してる感じでしょうか」
信玄公のおっしゃる通り、赤松さんに成す術はありませんでした。武田家からは義信さんと勝頼さん、斎藤家からは松永久秀さんを総大将とした二方面からの大攻勢に、次々と城が落ちて行きます。1575年にはわたしたち武田家は播磨を越え、岡山城と高松城を落とすことに成功しました。これで四国への足掛かりを得たことになります。
「ここからどうしましょう。四国に攻め込むことも検討したほうがいいのでしょうかね。大友・赤松・三好・長曾我部・本願寺が入り乱れるカオスな状況ですが」
「いや、しばらくは待った方が良かろう。まずは赤松の息の根を止めるのだ」
「了解です! ……お、赤松配下だった宇喜多直家さんの登用に成功しましたよ。おお、さらに誰かが加わりましたね。武田信豊さんって……信繁さんの息子さんですか!」
「はっはっは、充実の一途ではないか」
わたしも信玄公も、このときは全く予想もしていませんでした。ある人物の死と、それがきっかけとなって悲劇が始まることを……。
今宵はここまでにしようと思います。
次回「悲劇は遅れてやってくる」ご期待ください。