第13話 畿内バトル・ロワイアル
史実での三好長慶さんは畿内を我が物とした事実上の天下人と言っても良い存在でしょう。本人も一族の皆さんも優秀な人物が多く、揃いも揃って早死にさえしなければ、後の織田信長さんの台頭もそううまくはいかなかったかもしれません。その辺りはゲームにも反映されています。
1560年のゲーム開始時、最大勢力を誇っていたのは三好長慶さんです。その勢力圏は畿内に加えて四国の東半分にまたがっていました。
ただ、支配する地域が広いということは、それだけ敵が多いということでもあります。畿内では足利将軍家や本願寺、四国では長宗我部や河野と、複数の敵を同時に相手にすることに苦労しているようでした。諸勢力と一進一退の戦いを繰り広げつつ、ゲーム開始時よりわずかに支配地域を広げています。
ですが、その状況は西からやってくる2大勢力によって変わることになります。南近江まで侵攻したわたしたち武田家と、北近江の浅井家を飲み込んだ斎藤家です。
1569年に織田家を滅ぼした後、わたしは信玄公と一緒に畿内へ攻め入る軍の編成を考えていました。
「武田システムによるメンバーチェンジを行って、信濃に戻っている家康さんたちと交代しましょうか」
「いや、織田を攻めた義信や勝頼の軍はまだ余力がある。このまま三好と戦っても大丈夫ではないか。それに……」
「それに、なんです?」
「わしが死んだ後のことも考えねばなるまい。無論げーむの中の話だぞ」
「ああ……」
確かに、史実で信玄公が亡くなったのは1573年。史実通りの年にゲームでも亡くなるとは限りませんが、寿命が近いとは思われます。信玄公が無くなれば、やはり息子である義信さんや勝頼さんが武田家を継ぐのが妥当でしょう。しかし、2人とも能力的には信玄公には遠く及ばないというのが正直なところ。
「つまり、義信さんたちになるべく多く実戦経験を積ませて、鍛えようというお考えですか」
「うむ」
「そういうことなら、織田を攻撃した軍でそのまま三好を攻めましょうかね」
信玄公は義信さんと勝頼さんのどちらを後継者と考えているのか少し気になりましたが、あえて触れませんでした。
さて、本格的な畿内侵攻に向けて準備をしていた矢先、わたしたちより早く斎藤家が動きます。足利義輝さんを追い出して三好家が押さえていた二条城……つまり京を攻めたのです。
「あーっ!」
「先手を取られてしまったか」
戦は斎藤家の勝利に終わりました。斎藤龍興さんが上洛を果たしたのです。
斎藤家はいつの間にか義龍さんから代替わりしていたようです。義龍さんが早逝したのは史実通りですね。史実では息子の龍興さんは信長さんに家を滅ぼされたこともあり暗愚な人物だと評されることもありますが、まだ若かったことも考えると同情してしまいます。むしろ斎藤家が滅んだ後も各地を奔走して信長打倒を目指したことから、意外と有能だったという描き方をしている作品もありますね。
「うぐぐ、やられました。やっぱりなめちゃいけないんですよ龍興さんは」
「無念じゃな。流石に斎藤との同盟を切ってまで京を手に入れようとは思わん。目標を切り替えるしかあるまい」
「仕方ないですね……。となれば、狙うは堺でしょうか」
「それが妥当であろうな。当面は三好を追い出すことに専念し、堺まで進出する。畿内に確実な地盤を築くのだ」
商業都市、堺。手に入れれば莫大な収入を得られます。天下統一も近付くでしょう。
そんなわけで、上洛を果たせなかったわたしはしぶしぶ堺奪りを決意しました(ライトノベルみたいですね)。
1570年夏、わたしは義信さんを総大将とした軍を動かし、一気に多聞山城をはじめとする4つの城を三好から奪いました。この戦いで勲功を積んだ義信さんは、家臣としての最高位である宿老にまで昇りつめます。
「これで義信さんは信玄公と同じ、1万の兵を率いることができるようになりましたよ!」
「そうか」
信玄公は言葉は少ないですが、口元は緩んでいます。やっぱり息子さんが活躍するのは嬉しいのかもしれませんね。勝頼さんはまだ1ランク下の家老ですし、後継者は義信さんのほうがいいかもしれません。
そしてここでようやく武田システムにのっとりメンバーチェンジ。義信さんたちをいったん三河に戻し、信濃から家康さんたちを多聞山城へ移動させます。次の戦いで堺を狙えそうです。
しかしわたしたちが体勢を整えている間にも、畿内、そして四国では争いが続いています。いったん本願寺が堺を三好から奪って淡路島まで取り、四国まで進出。四国では河野と長宗我部の波状攻撃で三好の城がいくつか落とされていきます。
「あらら、これは三好家危ないんじゃないですか。ボロボロですよ。まあ、わたしたちも一枚噛んでるんですけど」
「いや、まだわからんぞ」
信玄公の言う通りでした。三好さんはすぐさま本願寺へ反撃し、堺を奪回したのです。しかし淡路島までのルートまで取り返すにはいたらず、四国とは分断されたままという、中途半端な状態に。
「荒れていますねー、情勢が」
「ふん。だからこそ付け入る隙があるというものだ」
「ですね。そしてこの混沌とした畿内に舞い降りる鋼の救世主がわたしたちですよ!」
1571年に入り、信玄公以下家康さん・秀吉さん・真田昌幸さんを中心とした軍で三好を攻めます。三好勢も決して弱くは無く、籠城している自分の城に火をつけてきたりしてなかなか大変でしたが、どうにか堺まで奪うことに成功しました。
「やれやれ、なんとか畿内の大部分を切り取りましたね」
「うむ。三好長慶は健在じゃが支配地域は散り散りとなった。力を失ったと言っていいであろうな」
「三好の残存勢力はこの後で叩くとして……本願寺への接し方を考える必要がありそうですね」
本願寺はゲーム開始時の本拠地であった石山本願寺は失ったものの、紀伊全域から岸和田城、さらに淡路島と四国の一部を支配しています。つまり、畿内から四国に渡るためのルートを完全に本願寺が押さえているのです。
「うーん、どうしましょうかね本願寺。一向一揆を扇動してくることもあって、敵に回すと厄介そうなんですよね」
「む……おい、宵子」
「なんです?」
「毛利家から使者が来ておるぞ」
「毛利から?」
中国地方の毛利家とはまだまだ距離があります。いったい何の用件なのでしょう。と、わたしは使者の名前を見て驚きました。
毛利元就その人だったのです。
今宵はここまでにしようと思います。
次回「大乱戦足利ブラザーズ」ご期待ください。