第11話 信長死すべし
清州に攻めてきた織田軍は織田信長さん以下、柴田勝家さん、羽柴秀吉さん、丹羽長秀さん、前田利家さん等、まさに織田の主力と言うべき面々でした。
「全面戦争ですね、これは」
「清州から莫大な収入が入ってきておるからのう。もとの持ち主としては、何としても取り返したいのであろうよ」
対するわたしたち武田軍は、信玄公以下、家康さんや岡部元信さん、それに前回の清洲防衛戦後に加わった滝川一益さん、佐々成政さんたち旧織田家臣の鉄砲部隊が出撃しました。総兵力はほぼ互角ですから、今回も籠城ではなく野戦を選択します。信玄公と信長さんが真っ向からぶつかるというこのシチュエーションには、ピンチではありますが燃えてしまいます!
「今回も、相手が橋を渡ってきたところを包囲して叩きましょうか」
以前絶大な効果を発揮した『誘い受け』です。
「うむ、基本はそれで良かろう」
信玄公の同意を受け、わたしは部隊を配置していきます。戦が始まり、織田軍も動き出しました。前回同様、橋に向かって押し寄せてきます。
「フフフ……兵力こそほぼ同じですが、これは前回の二の舞を演じさせることもできますかね」
「いや、そううまくは行かぬ様だぞ」
「え?」
「見るがいい。織田軍のうち、一隊だけが川を渡ってきておる」
信玄公の言う通りでした。移動力が大幅に落ちるはずの川を、船でスイスイと渡っている部隊が1つだけあります。わたしはあわててチェックしました。
「九鬼嘉隆さんでしたか。なるほど、水軍の技能がダントツの高さですから、川の上を難なく移動できるのも納得です」
「納得している場合ではないぞ。一隊だけとはいえ、橋を無視して直接清洲城に攻めてくる。誰かを向かわせるしかあるまい」
「そうですね。騎馬隊は……信玄公だけですか。よし、信玄公自ら九鬼さんを叩いてもらいましょうか」
「良かろう。カッパが陸に上がったところで叩いてやる」
こうして、戦闘は橋周辺と清洲城周辺の2ヶ所で展開されることになりました。
橋周辺の戦いで活躍したのは、滝川さんと佐々さんの鉄砲隊でした。攻撃力こそ高くは無いものの、隣接していない敵にも攻撃できるのはやはり強みです。騎馬でつっこんでくる勝家さんは強力でしたが、家康さんたち足軽部隊が囲い込んで一斉攻撃、鉄砲隊は遠距離から銃撃という連携によりどうにか撃破しました。
一方、川から上陸して清洲城を狙ってきた九鬼さんは、待ち構えていた信玄公の騎馬隊が散々に叩きのめし、こちらも壊滅させました。いかに水軍の技能が強くとも、陸に上がってしかも信玄公が相手では、さすがゴッグだ、なんともないぜ!というわけにはいかないのです。
「よし、すぐに家康たちと合流せい。信長がやってくる」
「はい!」
急ぎ信玄公の騎馬隊を走らせます。なんせ大名である信長さんの部隊は1万。他の武田家武将たちの隊はせいぜい5000程度。いくら複数の部隊で囲んでもなかなか厳しいのです。信長さんと同じだけの兵力を持つ信玄公の部隊でないと、正面から受けて立つのは難しいでしょう。
心配通り、信長さんが攻め寄せてくると橋周辺の戦況は一変。岡部さんの部隊が倒され、捕らえられてしまいました。
「うぐー。謙信さん程ではないですが、強いですね、やはり」
「だが、それもここまでだ。わしが到着したからな」
信玄公のおっしゃる通りでした。信長さんには信玄公を当て、家康さんたちや鉄砲部隊は信長さんを無視し、それ以外の武将たちへの攻撃に専念します。やがて秀吉さん、丹羽さん、利家さんたちをことごとく生け捕りにすると、やっと家康さんたちで信長さんを取り囲みます。
信玄公と信長さんは互角の戦いを繰り広げていましたが、これで勝敗は決しました。
「勝ったな」
「ええ」
なんだかネルフの偉い人たちのような会話だな、と思いながらわたしは叫びました。
「鉄砲隊、一斉射撃! 続けて全軍突撃!」
謙信さんのように全軍の攻撃をはね返すほどの力は、さすがに信長さんにもありません。信長隊は壊滅、織田信長さんを捕らえることにも成功しました。
わたしはふうっ、と大きく息をつき、
「良かった……。どうにか乗り切りました」
「うむ。ここで敗れておれば天下への道は閉ざされていたかもしれん。よくやった」
信玄公も満足そうです。
戦後処理は、順調そのものでした。秀吉さんや勝家さんなど、捕らえた織田家臣はみんなこちらに降ってくれましたし、捕らえられた岡部さんはシステム上、大名である信長さんを捕らえたため必然的に解放されることとなりました。誰も失うことなく、織田家の主力武将をまるっと手に入れることができたわけです。上杉戦で有能な武将たちを失った今、新戦力の追加はありがたいところです。
「最後に、信長さんをどうするか、ですね……」
「うむ」
大名を捕らえた場合、解放するか斬首するかの2択になります。大半の戦力を失ったとはいえ、織田家は健在です。つまり、ここで解放すれば信長さんは伊勢へ戻り、再起を図ることになるでしょう。わたしたち武田家はといえば、戦が続いたおかげですぐに織田を攻め滅ぼすほどの余裕はありません。となると……
「信長さんを家臣にしたい気持ちもありますが、ここで解放するともう一度信長さんと戦うことになりますね。それはちょっと避けたい。天下取りにまた時間がかかってしまいます」
「つまり……」
「ええ、ここで信長さんを斬ります。信長さんさえいなければ、自動的に織田家も弱体化するでしょうし」
「お主も非情な決断ができるようになったな」
「いえいえ」
褒められているのかよくわかりません。
なんにせよ、わたしは信長さんを斬首し、織田家は弟の織田有楽斎さんが継承しました。文化人として名高い方ですが、武将としての能力はさすがに信長さんに大きく劣ります。これで後の織田攻略の難易度は大きく下がったでしょう。
「やっぱり三英傑を全員家臣にしたかったような気もしますね……」
「ふん。信長は人の下につくような男ではないと思うがな。そもそもわしの方から願い下げじゃ」
信玄公が言いました。信玄公は自らの死後、武田家が織田に滅ぼされたという歴史をご存知です。思うところはいろいろとあるのでしょう。
「さて、これからどうするのだ、宵子」
「そうですねえ。戦が続きましたから、しばらくはおとなしくするしかないですよ。兵士を集めて訓練するだけでも相当な時間がかかります」
「して、その後は?」
「……よく考えます」
上洛を目指すのか、上杉対策をどうするのか。長期的な戦略をじゅうぶんに練る必要がありました。
今宵はここまでにしようと思います。
次回「武田騎馬隊西へ」ご期待ください。