第9話 軍神
箕輪城に攻め寄せてきた上杉軍は、上杉謙信はじめ宇佐美定満、鬼小島弥太郎などなど、まさに主力と言うべき強力な武将たちで構成されていました。
そしてその中には他にも、
「村上義清……砥石崩れ……うっ、頭が」
「信玄公、しっかりしてください!」
かつて信玄公を散々苦しめた村上義清さんがいます。ですが、トラウマを発動させている場合ではありません。
箕輪城を守る信繁さんたちと、上杉軍の兵力はほぼ互角。となれば、武将の能力がものを言うでしょう。 信繁さんや真田さん親子、高坂さんが一流の武将なのは間違いありません。が、相手は上杉謙信です。苦しい戦いになることは想像に難くありません。
「まずは野戦にするか、籠城するか決めねばならんな」
「うーん。兵力はほぼ互角ですし、籠城するのは後からでもできます。まずは野戦で迎え撃ちましょう」
「うむ。妥当であろう」
信玄公の同意を得て、わたしは武将を配置していきます。
「清州城のときみたいに、待ち伏せに適したポイントなんかは無いんでしょうか」
「無い。そうそう都合よくそのような場所があるわけなかろう」
「うう、現実は非情だ」
「とにかく、やれることはなんでもやるしかあるまい。勝つか負けるか、わしにも見当がつかぬ」
「なんでもって言われましてもねえ……」
上杉軍も初期位置に着陣し、戦が始まりました。わたしは全軍を少しずつ前進させていきます。
そして、服部半蔵さんを動かそうとしたときでした。
「!? ……信玄公、見て下さい、これ。『暗殺』というコマンドがあります」
「なに? 流石は忍者と言ったところかのう」
どうやら半蔵さんは、デフォルトで暗殺の特殊技能を持っているようです。
「敵武将を誰か一人暗殺できるみたいですね。もちろん失敗する可能性もありますが。そして一度成功すると、その戦の間もう暗殺はできない、と」
「ほう」
「よし、せっかくですし暗殺してみましょう。誰を狙いm」
「村上義清を殺るのだ」
「また食い気味に! 私怨混じりで!」
ですが実際、高い戦闘力を誇る村上さんが消えれば大きく相手の戦力はダウンすることになります。
「よし、では村上さんを狙ってみます。あまり期待はしませんが……」
わたしは暗殺コマンドを実行しました。
すると、村上さんの「うん? これはいったい……ぐはあッ!?」みたいなメッセージが表示され、あっさりと暗殺は成功しました。
「殺った! 半蔵さんすごい!」
「村上の隊が丸ごと消えたとなれば、戦も有利に進むな」
「はい」
信玄公と一緒になってどす黒い笑みを浮かべながら、わたしは戦に戻りました。
村上さんを失いながらも、上杉軍は謙信さんを先頭にまっすぐ突っ込んできます。
謙信さんの能力を改めて確認してみることにしました。古代ローマ人みたいな濃い顔にヒゲを生やしたグラフィックとともに、驚異的な能力値が表示されます。
「この戦闘力は恐ろしいですね……。150越えですよ」
ちなみに高坂さんや真田さん、前田慶次さんの戦闘力ですら90前後です。文字通り桁違いの強さと言わざるをえません。実際に戦えば、どれだけの被害が出ることか。
「謙信だけを集中して討ち取れば、勝てるのではないのか」
信玄公がたずねてきました。
「いえ、システム的には大名の部隊を倒しただけでは勝利とは言えないようです。それだけでは戦は続行になるみたいですね。全部隊を倒すか、退却させるかしないと……」
「ううむ、厳しいのう」
村上隊がいなくなったことで数的にはやや優位に立ったものの、乱戦になれば謙信さんが大暴れして取り返しのつかないことになる恐れがあります。わたしと信玄公は頭を悩ませつつ、以下のような作戦を立てました。
まず、信繁さんと真田昌幸さんは謙信さんを相手することに集中します。できれば他の上杉軍とは引き離して、時間を稼ぎます。その間に残りの部隊は謙信さんを除く上杉軍を倒す。そして最後に謙信さんへ総攻撃を仕掛ける……。
「そううまく行くでしょうか」
「わからん」
きっぱりと言います、信玄公。
「だが、謙信の強さだけは確実であろう。謙信の攻撃で弱ったところを他の上杉軍に突かれたのでは目も当てられん。これが最上の策だとわしは考える」
「……わかりました」
もうわたしとしては、信玄公を信じるしかありません。
戦況はある程度こちらの予想通りに進みました。
騎馬隊で突出してくる謙信さんにはこちらも信繁さんと真田昌幸さんを突出して差し向け、遅れて攻めてくる他の武将たちには、高坂さんを中心とした部隊をぶつける。離れた位置で二つの戦場が形成されたのです。
宇佐美さんや鬼小島さんも手強いですが、数で勝る高坂さんたちはけっこうな被害を出しつつも彼らを倒すことに成功しました。
計算外だったのは、
「つ、強い……!」
神がかり的としか言いようがない謙信さんの強さです。信繁さんと昌幸さんが攻撃することで、謙信さんの兵力はそこそこ減るのですが、それを遥かに上回るペースでこちらの兵が削られるのです。「溶ける」という表現がしっくりきます。
「なんなのだ、これは……」
信玄公も開いた口が塞がらないようでした。
信繁さんと昌幸さんの部隊はみるみる兵士が減っていきます。このままずるずる戦闘を続ければ、捕らえられる恐れがあるでしょう。
「け、謙信さんの兵力はある程度削りましたし、もうこの2人は城に引っ込めますよ!」
動揺を抑えつつ、わたしは信繁さんたちを退却させました。
「やむをえんな。残った部隊で謙信を囲んで叩くのだ」
言われるまでもありません。高坂さん、真田幸隆さん、半蔵さん、前田慶次さんといった面子で謙信さんを取り囲みました。数の上でも勝っています。
これだけの猛者が一斉にかかれば、いくら謙信さんといえど!
……すぐにわたしは謙信さんの恐ろしさを嫌と言うほど思い知ることになります。
今宵はここまでにしようと思います。
次回「たったひとつの冴えた戦略」ご期待ください。