第1話 よいこの風林火山
以前連載していた某作品を削除のうえ改稿し、再投稿するものです。打ち切りエンドは回避して続けていく予定です。
時は2007年。当時10歳であったわたし新田宵子はNHK大河ドラマ「風林火山」にハマっておりました。
「なんだい、宵子は武田信玄公が好きなのかい」
熱心にドラマを見ているわたしに、お父さんが声をかけてきました。
「別にそういうわけではないけど、なんだか面白いなって。戦国時代にも興味が出てきました」
わたしがそう言うと、お父さんは嬉しそうでした。
「ほほう。宵子が戦国時代に興味を持つきっかけが信玄公のドラマだと、運命を感じちゃうね」
「主人公は山本勘助ですけど」
「あ、そうなの?」
「それより『運命』ってどういうことですか、お父さん」
わたしの質問に対し、お父さんはどう答えようか少し考えているようでしたが、
「うーん、どうしよう。まあ宵子もそろそろ分別がつく年頃だし、もういいか。実はね。我が新田家と武田信玄公との間には、奇妙で深い縁があるんだよ」
「深い縁?」
「そう」
それからお父さんが語ってくれた話は、すぐには信じ難いものでした。
時は流れて2013年、夏休みに突入して何日か経ったある日。わたしはリビングでゴロゴロしながらスマートフォンをいじって適当にネットを見ていました。ダメな女子高生です、我ながら。
と、気になるニュースが目に入りました。『大戦国シリーズ、最新作発売』。
『大戦国』。歴史ある歴史シミュレーションゲーム(ややこしいですね)として、その名前は知っていました。わたしも「風林火山」にハマって以来、歴史もの……特に日本の戦国時代を舞台にした漫画やドラマ、小説に現在進行形で手を出していますから。
ただ、ゲームはどうにも苦手なのです。友人の家へ遊びに行った時に某戦国アクションゲームを一緒にプレイしましたが、自分のアクション下手には愕然とするしかありませんでした。どうにも反射神経が鈍いようです、わたしは。
そんなですから、大戦国みたいなシミュレーションゲームならトロいわたしでも比較的にまともに遊べるかも……とときどき思っていました。夏休みだから時間はあるし、ニュースを見たのも何かの縁かもしれません。よし、やってみましょう! わたしは決意しました。
そこでふと、幼い頃にお父さんから聞いた話を思い出したのです。……これは、もしかしたらとてつもなく贅沢な遊び方ができるかもしれません。
わたしのお願いを聞いたお父さんは呆れ顔になりました。
「そんなことに我が家の家宝を使うのかい。あれを使えるのは一生に一度なんだよ、宵子」
「まあまあ、いいじゃないですか。他の誰にもできない遊び方なんですから」
「仕方ないな……。じゃあ蔵へあれを取りに行くよ。一緒についてきなさい」
お父さんはそう言うと立ち上がりました。結局、一人娘には甘いのです。
そして今、わたしの手元には一本の刀があります。その名も「信玄」。我が家に伝わる家宝です。シンプルな装飾が施された鞘に納まったそれを両手で握り、わたしは座敷の中央で正座していました。背後にはお父さんも正座しています。さすがに緊張。
「では、行きます」
「ああ」
お父さんの相槌の後、わたしは深呼吸をしました。そして一思いに「信玄」を鞘から抜きました。
その直後です。
「ほう、次の当主は娘か」
低い声が正面から聞こえました。いつの間にか、着物を着た中年男性がわたしの目の前で胡坐をかいて座っています。ですが、その姿は色が無く、半透明であり、この世のものではないと直感できます。
お父さんから聞いてわかってはいても、やはり緊張します。……目の前に武田信玄公の幽霊がいるのですから。
今宵はここまでにしようと思います。
次回「その時歴史が動いた」ご期待ください。