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買い物

 「……鶴、智鶴。起きなよ。もう朝だよ」

「……?」

智鶴の視界に最初に入ってきたのは、佐介の顔だった。

それも、目の部分がとても拡大されたように映っている。

「って! 何故、お主は妾の目の前にいるのじゃっ!!?」

「おはよ。智鶴。目、覚めた?」

「う、うむ。目は覚めたが、どうした? 昨日は妾を起こす事などせんかったと言うのに」

「買い物、行かない?」

「買い物……! うむ! いく」

「そうなら、早く顔洗ってきな」

「うむ!!」

飛び跳ねるようにして智鶴は井戸へと向かった。

その様子をまるで妹を見るかのような目をして佐介は見ていた。


 「佐介、これはなんじゃ?」

野菜屋の前でキョトンとした顔で智鶴は聞いた。

「なんだって……。そりゃ、大根だろ」

「だ、大根!? 大根とはあれだろ? 円を四分の一にしたような形をしたあれであろう? 一緒なのは色だけではないか」

「そりゃ、お漬物で、しかも切った後の大根だ。元はこんな形だっつーの」

「これすら、妾にとっては初めてじゃ……」

驚いたような声を出しながら智鶴は呟いた。

「大きいのじゃのぉ……大根とは」

「お嬢ちゃん、持っていくかい?」

「いやいや、ちゃんと買ってゆくぞ? 金を払わぬわけにはいかぬ。佐介、今日は何を買うのじゃ?」

智鶴は勢いよく後ろに振り返った。

「大根も買っていくよ。あと人参な」

ニコニコ笑う佐介。一瞬にして智鶴は顔がゆがんだ。

「わ、妾は人参が嫌いじゃ……。食べとうない」

「我儘言わないの。農家の人に失礼だろ?」

「農家の人とは?」

「野菜を作っている人だよ。大変なんだぞ。作るの」

「何故じゃ?」

「年によっては雨が多すぎて腐ったり、逆に雨が少なすぎて枯れたり……天候は一般の奴には操れないから、うまくできないんだよ」

「大変なのだな……。うむ! 妾、人参を食べてみるぞ!」

「智鶴、偉い! ってなわけで、おっちゃん! 大根と人参一本ずつね」

「おうよ! 毎度あり」

威勢よく声をあげ、野菜を手渡す野菜屋のおじさん。そーいやぁといった感じでおつりを数えながら聞いてきた。

「ところで、お嬢ちゃん。どこぞの金持ちの家なのか?」

「な、何故そう思うのじゃ?」

顔がひきつっている智鶴。佐介は何もしゃべらない。

「喋り方がね。いいとこのお嬢さんの喋り方みてぇだなっと思っただけだ」

おじさんはニカッと笑いかけた。

「そうなのか……妾、あまりきにしたことなかったわ」

「で、実際のとこどうなんだ? 服装や髪形としては農民の娘みたいだが、会話聞いてる限りじゃ、そうじゃないようだし」

困ったような顔をしたのちに、思いついたような顔をして智鶴は小さな声で喋った。

「誰にもゆうでないぞ?」

「お、おうよ」

「妾は上級武士の娘じゃ。今、妾の住んでおる場所の近くで合戦があり、変装してここまで逃げてきたのじゃ」

「ほう。大変なんだなぁ。ま、確かに今は不安定な時代だ。そう言うことも全くねぇともいえねぇ。分かったよ。お嬢ちゃんも大変なんだな」

「分かってもらえて何よりじゃ。では、また来るぞ! 野菜、頂くぞ」

智鶴は微笑みながら、野菜屋を後にした。

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