住居
「佐介……。ココにこれから住むのか?」
焦ったような声を出して、智鶴は聞いた。
街外れ。しかも人なんて殆ど来ないような山奥の少し拓けた所にそれはあり、ボロボロの山小屋であった。
「うん。あんま、目立つこと出来ん訳だし」
「そりゃそうじゃが……」
「それに、見てみなよ!」
後ろを指差して元気のいい声で佐介は言った。
「なんじゃ?」
後ろを振り向くと、そこには自分の住んでいた街が小さく見えていた。
「おおー! 凄い、凄いぞ、佐介!! 妾、こんなもの初めて見たぞ!!」
「街を見たことないって言ってたけど、これなら小屋からでも見れるよ」
「それは誠かっ!?」
智鶴は目を輝かせていた。希望にあふれた目であった。
「気に入ってくれた?」
「とっても気に入ったわ! 佐介、お主は神かっ!?」
「んな大層な物じゃないし。じゃぁさっそく家に入ろうか」
「うむ」
智鶴の顔は輝いていた。
夕暮れ、買い物から佐介が帰ってきた。
「智鶴、髪を切ろうか?」
「何故じゃ? 妾は外には出れぬのであろう?」
「出れるなら、そっちの方がいいでしょ?」
「髪を短くするのは初めてじゃ」
一応、智鶴は良家のお嬢様だから生涯髪を切ると言う事は本来ならないから、
ばれないようにする為には髪を切るというのが一番だと佐介は考えたようだ。
暫く考えた末、智鶴は
「うむ。了承した。では早速髪を切ろうではないか」
と了承した。
これと同時に本格的に自分の元いた家との縁を切る事を心の中で智鶴は決意していた。