決定
「今、なんて……?」
「え? だから、そんなに今の生活が嫌なら逃げようよって」
「そんなこと、出来はずがないであろう」
「どうして?」
キョトンとした顔で、少年は聞いてくる。
「妾が消えたら、この家の配下の者が総出で捜しに来る。その中を見つからずに逃げ切れるはずではないであろうが」
(逃げたい。でも、どうせ逃げた先で自由など手に入らぬのじゃ……)
諦め、その言葉が智鶴の心を支配していた。
「ねぇ、お姫さん。君、本当にそう思ってる?」
「思っておるわ」
「そうかな? 今のお姫さんの顔。輝いて見えるんだけど」
智鶴は思わず驚いた。確かに、一度も出た事のない外へ出れることへの興味は大きかった。
でも、ムリだという想いが勝っていたような感覚だったからだ。
「もう一度聞くよ。一緒に逃げよう?」
智鶴はしばらく悩んだ。でも、最終的には小さく首を縦に振った。
少年はにっこりと笑い、
「俺、佐介ってんだ。よろしくね」
手を差し伸べてきた。
「妾は、智鶴と申す。こちらこそ、よろしく頼むぞ」
自由になれる、外の世界が見れる。それだけで、智鶴は幸せな気分になれた。
でも、智鶴は知らなかった。逃げた所で、何かが変わる訳ではない事を。