別れ
「智鶴、お前が気に病むことない」
不意に佐介がそう叫ぶ。智鶴は驚いた顔をしながら佐介の方を見る。
「これは俺が勝手にやったことだ。お前が抵抗した訳でもないが、自分でやりたいと思ったから智鶴を。
お前を自由にしたんだ」
「さす…」
「大丈夫。きっと幸福の神はお前に微笑みかけてくれるよ」
そう言ってにっこり笑う佐介。蒼白の智鶴。呆れた声を出して、綾女は言った。
「終わったかな? くだらない戯言は。終わったんなら、速くお縄についてくれ。
さっさと城に連れて行きたいんだけど。かったるいし」
「ん。終わった。連れてきたきゃ、勝手にしな。でも、智鶴に変な事すんなよ?」
「そんなのあたしの知った事じゃないよ。あの亡者が決めることだろ?」
「ま、待つのじゃ!」
「ん? なぁに? まだ何かあるのお姫様ぁ」
面倒臭そうな声で綾女が効いてくる。
「だ、誰が勝手に妾の元から離れて良いなどと申した。
佐介、主は妾のたった一人の…大切な友達なのだぞ!? そ、それなのに…」
何か言いたいのだが、あとに続く言葉が出ない様で、智鶴はそのまま俯いてしまった。
「智鶴…ありがとう。でも、もうお前は一人じゃないよ。大丈夫、俺はいつでも傍にいる」
「な、なにを。申しておるのじゃ? 許さぬぞ! 妾を…。独りにするでな」
「はいはぁーい。おしまーい」
飽きたようにパンパンとやる気のない感じに手を二、三叩いた。
「そーいう友情見せつけられた所で、あたしは動きませんよー。
さ、もうお終いだ。帰ってもらいますよ。智鶴姫」
そう言って、智鶴を抱え込み、佐介に縄をかける。
「おい、貴様。待つのじゃ! 妾が帰れば、あやつは…、父上は佐介を殺すのだろ?」
「んー? そうなんじゃないですかぁ?」
「そんなこと、させぬ。妾は…、守られるだけで人生終わりとうない!! 一度は、妾自身が…」
智鶴は綾女の腰にぶら下がっている刀を引っこ抜いた。佐介が最初に持っていたのと同じ位の短剣だ。
それを自分の首に当たる寸前で止め、こう叫んだ。
「妾自身が誰かを守る事をする!! この命に代えても。妾が生きてもきっと奴の操り人形じゃ。
そんなの、生きておる意味などないっ!!! それなら、少しでも未来に希望のある者に…。
この命、賭けてみた方がよっぽど幸せじゃっ!
だから……。だから、妾は此処で死ぬのじゃぁぁぁぁぁああぁぁぁああぁあ」
「!」
「や…。やめろ、智鶴」
「やめろーーーーーーーーー!!!」