発覚
突然、佐介の動きが止まった。
「どうしたのじゃ? 何か、問題か」
「智鶴、戻ってくれ」
「何故じゃ!?」
「早く!!」
言われるがままに智鶴は小屋に向かって全力で走った。
すぐにその心配の叫びは無意味になったが。
「あ…。あ゛ァ……!」
智鶴の目の前に突如、女が立った。
何か、殺気に似た奇妙な感覚に智鶴は立ち止まってしまった。
「お前……!!!!」
「久しぶりね、佐介」
楽しそうに笑う女。佐介はそれを睨みつけていた。
「綾女か……!」
「き、貴様何をしに……」
「貴方様のお父様から、奪還を命じられましたぁ」
やる気の無い声で綾女は答えた。
「綾女さぁ、仕事やる気無いっしょ?」
「だって、誘拐犯を殺すな、なんてつまんない仕事、やる気起きるハズないっての」
「相変わらずの殺人衝動だな」
「あんたは随分変わったわね。忠誠心を決して曲げることが無いことで有名だった佐介がそこまでお姫様にご執心な理由、気になるなっ♪」
「さぁ? 何でかなぁ?」
「佐介!」
「いいか、智鶴。何が起きても、俺なんかの為に綾女に挑もうなんて狂った考えすんな!」
無言でゆっくり首を縦に振る智鶴。
顔には大量の汗。冷や汗だ。理由は、綾女と佐介から出される殺気のようだ。
「あんたはまず自分の心配したらどう?」
「お姫様心配して何が悪いの?」
「別にぃ」
少し間をおいて、呟くように綾女は言った。
「……たださ、可哀そうとは思ったなぁ」
「何をさ」
「んー? どうせ、こんなにもお姫様を愛でて愛してもそれが全部パーになるなんてさぁ」
「そ、それは…どういう意味じゃ……?」
ふたりの殺気に押しつぶされそうになり、掠れた声を出しながら、智鶴は綾女に聞いた。
「お姫様は鈍いね」
「どうしてそう思う!」
「気付いてない訳ないっしょ? あんたの父親があんたのことどう思ってるか」
「そ、そりゃ…」
言葉を濁らせる智鶴。追い打ちをかける様に綾女は続ける
「娘が誰かに持って行かれた。
誰だ、ワタシの愛する娘を持って行ったのは。
このままではワタシの財産が失われてしまう。
後日娘を持って行った犯人が捕まった。
こんなこと、何度もされちゃ敵わん。
そうだ、娘の目の前で犯人を殺そう。
そうすれば、恐怖心から娘は二度とワタシの元から逃げる心配はないだろう。
と、考えると思うけどさ。あたしはね」
感情のない淡々とした口調で文字の羅列を読み上げる綾女に智鶴はさらに恐怖心を抱いた。
でも、智鶴は綾女の言う言葉が間違ってるとは思えなかった。
理由は、父親は所詮自分の事を金蔓としか思っていないと言うのは事実だと思ってるからだ。
(幸せに浸り過ぎた…妾のせいで、佐介は……)
握った手が震えていたのは恐怖心からか、強い意志の表れからなのかは分からなかった。