表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

部下のはなし

掲載日:2026/05/18

40歳。

男性。

転職入社から早1年。

うちの部下は成長するどころか退化してしまっている。


面接の段階からわかっていた。

真面目そうだけど、不器用そうでもあるなってことは。

面接に同席していた当時の社長が「人間性がよければそれでいいじゃん」的なノリで採用したもんだから仕事が出来なくて当然。


部下がミーアキャットの如くキョロキョロとする挙動不審っぷりにも慣れ、仕事ができないことにも諦めが出てきていた矢先、唯一の取り柄だった人間性の面も「おや?」と思う事が増えてきた。


部下はウソをつくとき、いつもはあわない目がばっちりとあう。

それに気付いた私はその曇りなき眼に恐怖を感じる日々を過ごすこととなった…。


これまで仕事がらみでウソをつく人間に会ったことがない。

それって当たり前じゃないし「こいつ、なんだよ!」っていう奴はいたとしても仕事は仕事としてこれまで過ごせていたことが幸せだったなんて気づきもしなかった。


部下が入社して数か月が経った頃。

セミナーに行くために公共交通機関を利用する際、

「清算で領収書が必要だから絶対に貰ってくるように」と伝えると「はい」との返事。

通常ならこれで済むのだが、なんせポンコツ。

私は何度も領収書を貰うようにと念には念を押した。


セミナー後の交通費清算。

清算書を持ってきた部下の手に領収書はなかった。

「領収書は?」との問いに、

「あー、一緒に行った○○さんが持ってます」と真っ直ぐに見つめてきた。

おや? とは思ったもののその言葉を信じ「じゃあ、確認しないといけないので一旦持ってきてください」と言うとミーアキャット化した部下の姿に「こりゃ、忘れてやがる」と思った。


その後、2時間ほど経っても領収書を出してこない部下。

狭い会社内で迷ったか? 

いや、事務所はワンフロアで全部が見渡せる…。

「あの、領収書は?」

そう聞くと「すでに経理に渡しました」とばっちりと目をあわせて言ってくる部下。


後日、改めて「そういえば、領収書ってどうなったんですか?」と聞くと、

「貰うの、忘れてました」

と、ウソをついていたことすら覚えていない模様。

もう信用なんてできやしない。


ウソをついては駄目だ。

なぜなら信用を失うから。

そんなことを40歳の成人男性に言う日が来るとは思ってもいなかった。

しかもことある毎に何度も何度も。


今年の3月。

再びセミナーに行った部下。

領収書のことを幾度となく伝えたが結果「もらえませんでした」との事。

聞けばICカードを使ったんだと。

じゃあ、私とのやり取りはいったい何だったんだ!

ICカードを使うなら領収書をもらえない事は最初からわかってるだろ。


しかも受講したセミナーは「ヒューマンエラー。ポカミスを防ぐには」と言う内容。

2日で1万円のセミナー料まで払って、この結果。


いや、

アクション映画を観た後に「なんか自分、強くなった気がする」みたいな余韻と言うかなんというかあるだろうよ。

セミナーに行った後も「セミナー受講後は、しっかりせねば!」なんてことは思わないのか?


しかも部下がセミナーに行っている間、唯一部下に任せている業務を私がやったところ部下のミスに気付いてしまった。


製造工場で働く私。

部下には散々「製造番号は大事だよ。部品に問題が発覚した時は製造番号ですべての履歴を追跡するからね。だから現品を毎回確認して番号を記録して下さいね」と理由も付けて何度も何度も何度も言ってきた。

その製造番号が現品と記録で合わないのだ。


セミナーから帰ってきた部下に、

「この製造番号って何を見て記録していますか?」

心の中でどうか真っすぐに私を見ていませんようにと願いつつ聞いたところ、

迷うことなく私を真っすぐ見つめ

「現品です」

と答えた。


あ、終わった・・・

これは、ウソだ!

ってことは、4カ月くらい遡って記録を修正しないといけなくなる。

いや、目が合う=ウソは私の思い込みなのか?

そもそも目があっている気がするだけかもしれない。


再び願いを込めて、

「本当に現品を見て記録していますか?」

と聞くと、

「はい」と答える部下。


あ…、

こいつ。

ソフトタイプのコンタクトレンズを目に入れてやがる…。

そんなどうでもいい新たな気付きができるほどこちらを見つめる部下。

「本当に毎回現品確認していますか?」

「はい、毎回現品を見ています」


・・・・

・・・・

・・・・

じゃあ、今から現品を確認してきてください・・・


戻ってきた部下は、

「全然、違う番号でした」

とミーアキャット化するばかり。

あ、そうですか…

としか言えない私。

「で、結局何を見ていたんですか?」

そう聞くと「昔の成績書の製造番号をそのまま記録していました・・・」

との事。


どうせ、バレるのに何故ウソをつく…

もう、だめだ。

そう思って上司に相談した。


上司、私、ミーアキャット。

3人で小部屋に入り上司がこれまで私が幾度となく言っていた注意事項をミーアキャットに言っている。

それを聞きながら「いや、私も何度も言ったんだけどな・・・」

なんて思っていると上司が「現品を見て製造番号を記録するっていう事は理解しているのかな?」

そう聞いたところ「いえ、忘れていました」と真っ直ぐに上司の目を見つめていた。


この期に及んでウソをつく部下。

忘れていたなら私が聞いた時に頑なに「現品を見て記録をした」と言ったのは何故なんだ。


上司を含めて話をした翌日から部下は原因不明の腹痛が勃発。

有休も使い果たし、欠勤、早退が増えてきた。

血液検査をしてもエコー検査をしても理由がわからないと言う部下。

ってストレスだろ! 

いや、何故お前が…


朝、会社に電話をかけてくるのだが、

最初の頃は声も小さく弱々しかったのに、

最近では「体調不良で休みます!」と何故か自信に満ち溢れた声で言ってくる。

もう、演技すらされない私って完全になめられているな。


「固形物を食べるとお腹を壊してしまって」と言う割に全くゲッソリとしない部下の姿にその体調不良すら信じられない私は人としてダメなのかもしれない。


上司判断で私の課の仕事は無理だとなった部下。

私の課に席を置きながら別の課の業務をすることとなった。


課に1人だけの社員となった私。

部下は「辞める事も検討しています」と上司を見つめて言っていた。

部下が辞めない限り、人員は増やせないらしい…


悲しいかな、

私は部下と違い胃腸が丈夫。

最近、爪がボロボロになっているくらいで他に症状はない。


心のどこかで「どうか部下が退職しますように」なんて願っていたが、歓迎会の幹事を任され出欠確認をしたところ、「参加」とのこと。


こりゃ、退職を検討し続けて定年までいるな、コイツ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ