第1話
第一章 ログインの朝
目を覚ますと、空が近かった。
青というより、ガラス越しの光のような色。
風は澄んでいて、まるで世界のほこりが全部消えたみたいだった。
俺はゆっくりと起き上がる。
視界の端には、いつものゲームで見慣れた町の門。
現実では何百時間も操作していた“主人公”の世界が、
今、俺の目の前にあった。
「……夢じゃ、ないよな。」
手を伸ばすと、指先が確かに風をつかんだ。
装備も、ステータスも、力もある。
俺はこの世界で一番強い存在になっていた。
富も名声も、力も。
現実の俺がずっと欲しかったものが、ここには全部ある。
けれど——
「また、誰かが……死んだのか。」
足元の土に、ひとりの兵士が崩れていた。
昨日まで談笑していた男だ。
俺の隣で、笑って、酒を飲んでいた。
原因は分かっている。
俺が“心を許した”からだ。
この身体にかけられた呪い。
誰かと深く繋がった瞬間、その相手の命が消える。
だから俺は、誰とも笑わなくなった。
誰とも戦わなくなった。
理想の世界にいるのに、まるで空洞みたいに空っぽだった。
——その夜。
俺は夢を見た。
教室の窓際、イヤホンをつけたまま、どこか退屈そうに空を見ている少年。
それは、かつての“俺”だった。
(……なんだよ。そっちの方が、自由そうじゃねえか。)
呟いた瞬間、胸の奥が軋む。
理想を手に入れたのに、なぜか羨ましい。
何も持たなかった“あの自分”を。




