③
長い道のりを汗をかきながらゆっくり歩いてきた。
しかし、外の暑さが嘘のように雨ノ宮は夏でも涼しく感じる。
「あら?九十九。会いに来てくれたの?」
微笑む桜月はとても嬉しそうだった。
「近くに来たから寄ったんだ。」
「これから何か危ないことしようとしてる?」
怪異との接触を言っているのだろうか。
「どうして?」
「浮かない顔してるから。何か力になれるかもしれないから話してみて!」
相談というよりその話を聞きたくてうずうずしている子供のようだ。
「わかったけど、あまりいい話じゃないよ?」
隠し神の話をすると桜月は思ってた以上に険しい表情をしていた。
「九十九。隠し神の捜し物見つけてあげて。そしたら彼女は戻れるはず。きっと人間にとられちゃった。自分じゃ見つけられないんだと思う。」
桜月は悲しそうに眉を下げた。
「自分じゃ見つけられないってなんで?」
「強い憎悪のせいで自分が何を探してるかわかってないと思うの。それにね。公園の小さな社が隠し神に力を貸してるから怪異になってる。」
桜月は着物の裾から何かを取り出す。
「これお守りだから左腕に付けておいて。もしこの鈴がなったらあなたに危険が近づいてるって教えてくれるよ。」
「鈴?」
音無鈴というものらしい。
普通の鈴とは違って何もないときは音がならないが悪いものが近づいてきたり危険なことが起こる時など鈴の音がなるお守り。
「これでいいの?」
何の変哲もないただの小さな鈴が2つ付いている。
手首を動かしても音は鳴らない。
「うん。音がならないことが一番だけど怪異が相手ならあったほうがいいから。気をつけてね。また何かあったらここにおいで少しぐらいは手助けできるかもしれないから。」
どうして僕にここまでしてくれるんだろう。
「ふふっ。その顔はどうしてって顔かな。ここに来てくれる人はいないからお話できるのが嬉しいの。そのお礼だと思って。」
そんなにわかりやす顔してたか?
桜月は上品に着物の裾で口元を隠しながら笑っている。
「お守りありがとう。じゃあまたくるね。」
桜月と話していると時間の流れが早く感じる。
もう夕日が落ちて夜になりかけてる。
「えぇ。また待ってる。」
お互いに手を振り帰路へ。
明日からまた忙しくなる。
でも、こういうのもあのメンツなら悪くないかもしれない。
この時はまだ命に関わる危険な出来事になるなんて誰も予想してなかった。