⑪
静かな雨の中ハクと一緒に歩く。
いつも通る道とは思えないぐらい雰囲気が暗い。
雨が降っているからなのか。
それとも隠し神の噂の真相に近づくにつれてあちら側へ引き込まれているせいなのか。
僕の数歩先に歩いていたハクが唸り声を上げ、威嚇をしている。
「ハク?」
ハクの視線の先には大きな黒いモヤが浮いていた。
何か嫌な予感がする。
ハクを連れて逃げようとしたとき、僕よりも早くハクは動きだし黒いモヤに飛びついた。
「ハク危ない!!」
しかし、心配は杞憂に終わった。
ハクは黒いモヤを食いつくし何事もなかったようにこちらへ戻ってくる。
「さっきより身体が大きくなったか?」
黒いモヤを食べたからなのかさっきより身体が大きくなり顔も凛々しい。
「キュゥっ!」
嬉しそうに僕の足に身体を擦り付ける。
守ってくれるってこういうことなのか?
また、桜牙に聞いてみるか。
ハクの頭を撫でてから行き先へ足を進める。
こんな雨でも彼女はあの場所にいるだろうか。
いなかったらそれでいい。
隠し神と対峙する前に会わないといけないような気がする。
行く先のことばかりを考えていて時間もこの道も忘れていた。
雨が少しずつ強くなってきた。
「ハク急ごう。」
ハクに声をかけた時だった。
禍々しい気配に全身に鳥肌が立つ。
なんの気配だ。これ。
今までに感じたことのない重圧感に息が苦しくなる。
気配を辿るように視線を移す。
忘れていた。
この道は。
『………』
_________桔梗公園。
雨の中に佇む姿は禍々しい外見と似つかず儚く、どこか哀愁が漂っていた。
公園の真ん中に姿を表した隠し神と目が合う。
『帰りたい。帰りたい。助けて。痛い。痛い。憎い。憎い。殺したい。消えろ。消えろ。死ね。苦しい。会いたい。もどして。悔しい。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。』
彼女の強い思いが入り込んでくる。
頭が割れそうだ。
あまりの思いの強さに頭を抱える。
ハクの鳴き声と鈴の音が遠く感じる。
身体は隠し神に吸い寄せられるように公園の中へ向かっている。
『おいで。おいで。おいで。おいで。おいで。おいで。』
ねっとりとした気持ち悪い声が永遠に頭に響く。
気が狂いそうだ。
ハクも僕に影響されているのか姿が透けている。
『あなた、とても、おいしそう。』
「はぁ…はぁ…。うるさい…。黙れ…。」
耳を塞いでも頭に響くため意味がない。
゛もし、廃れ神に襲われたら強く、強く念じなさい。お前の霊力は強いから邪気から守ってくれるだろう。゛
ふと、昔婆ちゃんから言われた言葉を思い出す。
ズボンのポケットに入っている懐剣を握りしめ強く念じる。
どうか、鎮まれ。
懐剣が突然光り始め眩しさのあまり目を閉じる。
『ふふふっ。いい子ね。』
『ぎゃぁぁぁァァァァァ!!』
透き通った鈴の音が響き渡る。
すると、隠し神の絶叫と優しい女性の声が聞こえた。
目を開けるとそこは。
「なんでここに??」
雨ノ宮の鳥居の前にいた。
どうなってるんだ。
さっきまで桔梗公園にいたはずなのに。
そういえばハクはどこに行ったんだろう。
「ハク!」
名前を呼んでも姿は見えない。
反応すらない。
消えてしまったんだろうか。




