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『九十九…。』

優しい声が呼んでいる。

聞いたことがあるのに思い出せない。

『九十九。起きて。』

真剣な声色だが、身体が動かない。

「澪月っ!!!!!!」

大きな声にびっくりして目を覚ます。

「大丈夫か!?!?」

「良かったぁ…。」

焦っている理来と涙目の紬。

何が起こったんだ?

氷川家にいってそれで____。

「お前。何を見たんだ。」

桜牙に言われて身体を起こそうとするが紬と理来に身体を抑えつけられる。

「馬鹿かよ!?階段から落ちたんだそ!?じっとしてろよ!!」

「清お爺さんから氷川家に行ったっていうから追いかけたら澪月が階段下に倒れてたんだよ?玄関の外からでも大きな音聞こえたんだからね!」

本気で二人を心配させたようだ。

「一緒に理来がいたから桜牙さんの家まで運んできたんだよ!」

そんなやり取りを見ながら桜牙は優しく僕のおでこに触れる。

「ふむ。お前、被害者の追体験したのか。」

桜牙に言われてあの家で体験したことが蘇る。

「うっ…。」

思い出すだけで吐きそうだ。

生々しい音と光景。血の匂い。

「おい、顔色悪いぞ!?大丈夫か!」

「大丈夫だろう。光景を思い出しただけだ。」

そう言いつつ桜牙はおでこから手を引く。

「2階の愁生の部屋が殺害現場か。子供だけは公園から逃げたんだな…。」

金色の目を細めながら窓の外へ視線を移す桜牙の姿を見て理来たちも目を伏せた。

「澪月が持ってた香織さんの日記を読んだの。毎日が壮絶だったみたい。緑川家からの嫌がらせのことも書いてあったよ。それに、私達が集めた情報はね公園での出来事。桜牙さんには先に話したんだけど…。」

紬は言いにくそうに口を閉じる。

公園の事件のことは知りたい。

愁生くんと約束したから受け止めないといけない。

このぐらいの身体の痛みなら話を聞くことはできるだろう。

「寝たままで悪いけど公園で何があったか知りたい。」

「わかった。」

紬は暗い顔のまま話し始めた。

桔梗公園では香織さんと愁生くんが遊んでいる最中に男5人組が襲いかかった。

香織さんはすぐ男達に気づいて必死に抵抗した。

なんとか愁生くんだけは公園から逃したけど、タイミングが悪く清お爺さんはその日お店にいなかった。

助けを求める先もなく家に戻ったんだね。

愁生くんはきっと澪月が追体験した通り、男達に殺された。

香織さんは、男達に身も心も穢されて最後に社の前に埋められた。

全てを諦めた香織さんが最後に残した思い。

未練に社が力を与えて怪異になってる。

この事件の唯一の目撃者美都さんが泣きながら話してくれたよ。

今でも香織さんの悲鳴が叫びが忘れられないって。

緑川家が怖くて何もできなくてごめんなさいって何度も謝ってた。

この事件をもみ消したのは緑川家の人たちなのは間違いないよ。

これ以上あの家に怯えて香織さん達のことをなかったことになんてできない。

辛そうに顔を歪める紬。

同じ女性ということもあり感情移入をしているようだ。

「隠し神が香織さんなら探してるのは愁生くんか。」

「そうだと思う。けどその愁生くんは殺されているなんてどうすりゃいいんだ??」

理来は頭を抱える。

「理来。緑川家に行ってこい。あそこの跡継ぎの状態とあの家の様子を見てくるといい。」

「桜牙さん!無茶すぎるって!!ただでさえ誰も入れないのに!!」

「さぁ。それはどうかな。隠し神の呪いは少なくとも進行してるはずだ。町でそれなりに頼られてる理来が今来訪したら拒むはずがない。」

「なんでそんなこと言い切れるんだ??」

桜牙は口元を裾で隠し目を細める。

「あいつらでは呪いが解けないからだ。このままにしてたら跡継ぎは苦しんで死ぬぞ。俺としてはあの家がどうなろうと知ったことではないがお前達は違うんだろう?今、理来が行けばこの事件の事を話してくれるやつがいるかもな。」

例えば、実行犯とか_________。

桜牙の冷たい声色に空気が凍るのを感じた。

少なからずこいつもこの事件に対して思うところがあるみたいだ。

「紬と澪月はあの家には近寄るなよ。お前達は影響を受けやすいからな。」

「理来の付き添いできなくてごめんね。」

申し訳なさそうに紬は理来に言う。

「大丈夫!任せとけって!桜牙さんの言うことは信用できるしな!」

「そろそろ雨が降ってくる。さぁ、今日は解散だ。念の為、紬は理来に送ってもらえ。澪月は動けんだろうから今日は泊まっていくといい。」

「俺がばーやに伝えとくから安心しろよ!」

「助かるよ。ありがとう理来。」

寝たまま二人の背中を桜牙と見送る。

「本当に賑やかな奴らだな。身体はどうだ?少しは動けそうか?」

身体をゆっくりと起こすと節々が軋むように痛む。

「まだ身体中痛みはあるけど起きれる。」

「あの高さから落ちて無傷なお前の身体が一番怖いけどな。」

桜牙は茶を入れながら言う。

緑茶の香りが今まで張り巡らせていた神経を解してくれるようだ。

「階段から落ちる前に何があった?」

「誰かに押された気がする。」

「押された?ふむ…。」

何やら考え込むように顎に手を添える。

「理来が連れてきたとき、澪月の身体は何かに守られてるようだった。それが何の力か、俺にもわからん。」

桜牙に言われて不意に手首にある音無鈴が目に入る。

まさかこれが守ってくれたのか?

いや、桜月が言ってたのは危機を知らせてくれる鈴ということ。

「お前は奴らに好かれやすくて困ったものだな。だが味方として守ってくれるならこれ以上にない加護になる。」

「そうだな。香織さんと愁生くんを助けるまではその力を頼るしかなさそうだ。」

婆ちゃんを頼れない以上御札とか加護を付与してもらえることはできない。

この力が妖の類だとしても今は利用させてもらおう。

「茶を飲んだらまた休め。俺は隣の部屋にいるから何かあったら呼べ。」

桜牙は隣の部屋へ消えていった。

明日は理来の話を待つしかないな。

実行犯がいるとするならば愁生くんの最後の場所が分かるはずだ。

お茶を温かいうちに飲み、ゆっくりと横になる。

今日は色々ありすぎて疲れてしまった。

眠気が急激に襲ってくる。

微睡みの中で静かに雨音が聞こえた。

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