防具を持たずにいざ突入!
「っと…忘れるところだった。約束したのに忘れるところだったじゃないか。」
掲示板で配信するという約束をしたのに、忘れてしまうところだった。
俺はさっそくパスワードを設定し、限定公開を始めた。
そしてその事を掲示板でも予告しておいた。
するとどうだろうか…なんと25人も集まった。
「これで配信できてる?」
コメント欄
・できとるで
・おっさんやんけ‼
・やだ…意外とイケてるじゃん。私の好みどストライクだわ。
・大丈夫や。コメント欄は…まぁあんまり気にせんといたほうがええで。
「いやいやそういうわけにはいかないよ。これは普段はネット上でしか会えない俺達の交流の場にする予定なんだから。基本的にはどんな人でも受け入れるよ。まぁ…本当にヤバい人はお断りだけど。」
・おまえ…いいやつじゃないか…
・視聴者の事をばかにするような配信者に比べれば、お前は良いやつだよ。
・掲示板にいるような人達がまともだとでも?俺は女の子をみたら結構興奮する口だぞ?
・大丈夫や。それくらいだったらまだまだ大丈夫や。
「女の子を見て興奮するのは勝手だけど、警察沙汰に発展しないようにね?はぁ…それよりも聞いてほしいんだ。あのこの名前はルゼルっていう風に決めたんだけど…どうにも鉄系の匂いが無理みたいなんだ。」
・…どゆこと?
・えっじゃあ剣やら防具やら無理ってこと?
・いや剣は持ってるみたいだけど…
「どうにもレンタルの防具だからなのか、あまり気に入らないみたい。剣については…なんでかわからん。俺にも理由はわからんわ…」
俺が話に夢中になっていると、モンスターが早速やってきた。
防具がない都合上、今までの経験を活かして戦わなければいけない。
「さて…早速モンスターがやってきたわけだが、この剣のサビにしてくれるわ‼」
・無理定期
・お前じゃ無理だお
・諦めろ…貴様にモンスターは倒せない‼
・頑張れおっさん‼汗を撒き散らしながらでも戦うんだ‼
「お前ら…ひどすぎだろ。」
俺はそんな風に言いながらも、実際のところその指摘が正しいことを自覚していた。
なにせレンタルの装備だ。まともに扱えるか怪しいんだ。それにダンジョンからは長らく離れていた。関係する職についたはいいものの、まともに体を動かしていなかったんだし…正直厳しいところがあると思う。
とはいえ俺が戦わなければいけない。
「さて…どう戦おうか。まずはどんなやつが来てるのか確認しないと…っておい‼なにをしてんの‼」
俺が長考している間に、ルゼルが駆け出してしまった。
・唐突にぶっこんでくるなw思わず笑っちゃったじゃねぇか‼
・っていうか大丈夫なの?あの子まだ戦えないんじゃない?
・あ〜これは…悲惨なことになりそうな希ガス。
ルゼルの後を必死に追いかけ始めるが、働き詰めでろくに運動していない体にはただ走ることでさえ辛かった。
そして追いつくと…ルゼルがすでにモンスターをボコボコにしている光景が目に写ってきた。
「うっそ〜ん…俺いらないやん。」
・くっそwwwwww
・おっさんいらなくて草ァ‼
・ルゼルちゃん…強いやんけ‼今日生まれたとか嘘やろ‼
「嘘じゃないわ‼今日生まれたんだよ‼信じてもらわなくても結構だけどさ‼生後1日ですぅ‼」
ルゼルはモンスターの上に馬乗りになってボコボコにしている。
ルゼルが馬乗りになっているモンスターは、ファンタジーの定番『ゴブリン』である。
ゴブリンの体格はルゼルの4倍程度もあるのに…それを上から押さえつけることができる強さとは…
「ねぇ…俺いらなくない?」
・いらね。
・いやいるだろ。撮影して俺達に届けてくれるやつがいないとこの映像をみれん。
・あったしかに。じゃあいるわ。
・というわけなので視界に映らないでもらっていいですか?ルゼルちゃんだけ見ていたいので。
「うぅ…ひどい」
・おっさんの涙に価値はない。
・辛辣で草
・んまぁ…しょうがないんじゃない?実際、おじさん戦えるの?
「俺が?戦えるわけ無いだろ。」
・うわぁ急に落ち着くなし‼
・スン
「はぁ…まぁ配信スタイルについては考えておくよ。」
ちなみにゴブリンというモンスターは、一般的には非常に面倒くさいモンスターということで知られている。
ドロップするものは渋いし、その上臭いし不潔…さらには仲間を何度も呼んでくる。
一応最後の点は初心者向けのレベル上げに使うことができるものの、ゴブリンは集団戦になると急に頭を使いだす。
そうなると初心者はゴブリンを倒すことが難しくなるという、なんとも扱いにくいモンスターだと大抵の人に考えられている。
そうこうしている間に、ルゼルの攻撃でHPを全損したのかゴブリンがピクリとも動かなくなった。
ルゼルは狩りの才能があるようだ。…俺いらないじゃん。
まぁアビリティがあれだしな…俺よりも数倍強いし。
「はぁ…自信なくすわ。生後1日の子に負ける成人男性…カッコ悪。」
・別にカッコ悪いとは思っちゃいないよ。
・そりゃ種別が違うしな。お前が思ってるほど、みんな嫌っちゃいないさ。
・こればっかりは運よ。俺だって強いスキルないし。
「…ありがとな。っし‼辛気臭い雰囲気は終わり‼どんどん奥に行こう‼」
・切り替え早っw
・まぁ頑張れ
・俺等も心の隅の何処かから応援してるよ。