ちょっと…成長するの早くないかい?
「いや〜なんだか少し大きくなったような気がするな。しっかし…ルゼルの体が大きくなったような気がするのは気のせいだろうか…」
つい数日前に生まれたばかりなのに、この成長速度…身長がそこまで高くない俺からするとものすごく羨ましい限りだ。
とはいえ嬉しい気持ちもあり、これが子供が成長していくのを見守る親の気持ちというのだろうか…と考えつつ1日を過ごした。
会社を無事に辞めることができた俺の次の目標は、この杖の片割れを探すことだ。
杖の片割れの名前は叡智の石版といい、見るからに貴重そうな一品だ。どこにあるのか検討もつかないし、手当たり次第に探していくのは効率が悪すぎる。
だが探さなければ、あの杖の真価を発揮することはできない。現状でも強いが、呪いを解除することができたほうが強い。
「なぁルゼル〜この杖にはペアがいるんだって。もう一つのペアの名前は叡智の石版って言うんだけどさ、どこにあると思う?」
ルゼルに聞いてもわからないことくらいはわかってる。でもこれから一緒にダンジョンに潜る中として、ルゼルには話しておきたかった。
それに万が一、人間の会話を理解することができているのなら、ものすごく嬉しい。普通のペットの場合には人間から話しかけても、それを理解しているのか判別するすべがない。
だから人間の会話を理解しているのならとても嬉しかったのだが…流石に無理なようだ。
「まぁ無理だよね。悪かったねこんなこと聞いちゃって。」
俺は立てかけられている杖を眺めた後、顔を洗って眠気を覚ました。そして今できることとして叡智の石版というアイテムについて情報がないかを調べることにした。
「叡智の石版…やっぱり検索しても情報がないってことは、国が保有しているアイテムか、それとも未発見のアイテムなのかのどっちかだな。まぁ後者の可能性のほうが高いが…」
未発見のアイテムの場合、見つけることができれば完全に自分の所有物となるが…もし仮に誰かが保有しているアイテムである場合には、どうにか譲ってもらうなりしなければいけない。
「誰かが見つけていないことを祈るしかないか…まぁ探していればいつかは見つかるだろうし、積極的に探していくか。」
俺はルゼルのことをなでながら今日をゆっくりすごした。
翌日…俺とルゼルは早速前回と同じダンジョンへと足を踏み入れた。
理由としては、今の俺のレベルではそもそもこれ以上高レベルのダンジョンに潜るという行為が自殺行為になりかねないと判断したからだ。
このダンジョンですら余裕で攻略できない俺が、この先もっときついダンジョンを探索できるのかと問われれば間違いなく首を全力で横に降って「無理」というだろう。
だから今の俺にできる最善をやることが大切なのだ。
「さて…ルゼル。これからどんどん戦って成長していかないといけないわけだけど、まずはこの杖の力を試してみてもいいかな?」
ステータスがどれだけ上がるのかはわからない。なぜならステータスを鑑定できる装置は基本的にお金がかかる。それに需要も大きいせいで、ずっと高騰し続けている。
その上流通数も結構少ないため、入手できる機会は少ない。
入手できる機会が少ないくせに、金額も高いと来たものだからダンジョンに潜り始めた初心者や、中堅者が買えるようなものではないのだ。
とはいえあの杖のスキル…叡智の集積を試してみたい。
限定的にとはいえスキルを獲得できるうえに、なおかつステータスにも補正がかかるという強力なスキルだ。詳細を把握しておけば今後の戦いでも大きく役に立ってくれるだろう。
「今日は配信するつもりはないから、存分に探索しよう。ルゼル。モンスターが来たら教えてくれ。この杖のスキルを使ってみたいから。」
俺がルゼルにそう言うと、なんとなくだけど頷いてくれたような気がする。やっぱり人間の言葉を理解してるんじゃないか?
「…まぁ気にしたら負けってことで。ルゼルが俺に教えてくれるまでは、警戒しつつもゆっくりと過ごすか。」
なかなかモンスターが現れないまま、時間が経った。
想定以上にモンスターと遭遇しないので、なにかこの先で起こってるんじゃないかと推測もしたが、そんな状況になっているのならもっと分かりやすいサインのようなものがあるはずだ。
「う〜ん…じゃあこれが普通の状態ってこと?いやでもここまでモンスターと会わないのもなぁ…」
そう考えていた矢先、ルゼルが俺の履いていたズボンの裾を噛んだ。
「モンスターが来たみたいだな。教えてくれてありがとう。ってかやっぱり人間の言葉理解してるじゃん…!」
ようやくその疑念が確信に変わったところで、俺は杖を構えてこちらにやってくるモンスターのことを待ち構えた。




