俺は会社を辞めるぞぉぉぉ!
「あ〜あこりゃひどい…なんで辞めようって考えて、退職の意志を伝える翌日に雨が降るんだ。こっちの気持ちを考えてくれ。気分が沈むだろうが…」
グチグチと言いつつも、一応仕事着に着替えて出社するつもりで準備をしている。もっとも仕事着なんてほとんど私服と変わらないんだけどな。
とはいえ今日仕事をしたら後はすべて有給休暇を取得して、会社を去るつもりだ。同期や後輩の子たちには申し訳ない気持ちがあるが上司があれだもんな…無理だわ!
「さてと…ルゼル。ちょ〜っとだけ外に出かけてくるから、家で待っててくれるか?あっテレビでも見る?大人しくしてるなら見ててもいいよ?」
俺がルゼルにそう聞いても、ルゼルはうんともすんとも言わない。まぁテレビなんて知らないんだし当然か。
「…わからないよな。よし。じゃあテレビはつけておくから、テレビでも見てて待っててくれ。後、一応ご飯とかも用意しておいたから、食べてもいいからね。それじゃあいってきます。」
俺はそう言い、仕事場へと向かった。
仕事場についてそうそう、俺は上司の席へと向かった。上司は俺が近づいてきていることに気づくと、面倒くさそうな顔をしながらこっちに顔を向けた。
「おはようございます。」
「あぁおはよう。それで?朝一番で君と話をしたくはないのだが、なにか話でもあるのかい?」
「はは…機嫌が悪そうですね。また後でにしますか?」
「別に構わんよ。それで?一体朝から何のようだ。」
「退職しようかな〜と思いまして。なのでこれを。」
俺はしっか〜りとネットやら、規則やらを調べてちゃんと作ってきた退職願を提出することにした。
「ふん。退職させるとでも?」
「退職させないというのは法律違反に当たりますよ?ここがどれだけ人が足りないとしてもね。」
「だとしてもこの時期はないだろう!どうしてもっと他の時期にしてくれないんだ!この時期は、繁忙期と言っても過言ではない。なのに抜けられたら、他の従業員の迷惑になるだろう!」
「そんなの知りませんよ。私にだって都合があるんです。これからは他のことをして生きていきますので。」
「いいや許さん。絶対に許さんぞ。この時期だけはだめだ。この時期を過ぎたら受諾するから、もう少しだけ待て。」
「すみませんが、もう決めていることなのでよろしくお願いします。あっそれと退職するまでは残っている有給をすべて使います。なのでここにはもう殆ど来ないつもりですのでよろしくお願いしますね!」
「ちょっ…」
上司が俺のことを追いかけようとしているが、俺の後輩が質問をしに来たようで、そちらの対応に追われていた。俺は上司が後輩の対応をしているうちに、隙を見てその場を立ち去った。
「せんぱ〜い!ちょっと聞いてますか?お〜い!」
「聞こえてるってば。そんなに近くで叫ばなくたって聞こえてるわ。」
「あっそれなら良かった〜それよりも先輩。ここ辞めるって本当ですか?」
「ん?ああそうだよ。これからはダンジョンの中に入って、色々とやるつもりだ。まぁ俺のことなんか心配せずともお前はここでやっていけるさ。」
「いやまぁそれはそうなんですけど…先輩大丈夫なんです?心配するなと言われても、流石に心配しますよ。」
「まぁ気にすんな。それよりもお前はもう働き始めないと。」
「あ〜つらいです。先輩私も辞めていいですか?」
「まぁいいんじゃない?俺は知らないけど。」
「辛辣だな〜まぁ元気そうで良かったです。またどこかであいましょ!」
嵐のようにやってきて、嵐のように去っていった彼女の名前は奏芽綾香。俺の後輩であり、優秀な子だ。有名大学出身で、頭は当然回る。そのくせに顔も良ければスタイルもいいという才色兼備のすごい子だ。
同期の奴らも皆彼女にメロメロだったけど、終始相手にされていなかったのが面白かった。
当然俺も、直属の上司という役職がもらえてないなければあんなふうに信頼してはもらえなかっただろう。
「いや〜とはいえこれでほぼ活動に専念できる状態になったわけだ。退職するということで退職金はもらえるはずだし、色々と制度を使ってそこからもお金を貰えば、一月二月くらいは働かずに準備期間にしてもよさそうだ。」
とはいえそこまで準備するものはない。強いて言うならルゼルの食事代を稼がなければいけないくらいだ。
ルゼルはおそらく育ち盛りということもあって、これからもっと食事量が増えると思う。その時に問題になってくるのが、ルゼルの主食は肉系だということだ。
まぁ狼だし、想像はしていたけどやっぱり肉は高い。それも安い肉じゃなくて多少は値が張っても良いものを食べさせてあげたいと心のなかでは思っているわけで…
ちゃんとした食事を食べさせてあげるのも、親の努め。バイトを始める余裕はないし、短期のものでもしてみるか。
そういえば…ダンジョンの中であったあの人達は今何をしているんだろう?




