7話 勇者パーティ候補生の夏合宿
季節は夏になった。そうこちらの世界にも夏はあった。
そしてヒロこと田中弘がいた日本のように夏は暑い。
俺はいつの間にか、こちらの世界に転生召喚され、勇者パーティへと入った。
正確には勇者パーティの卵である候補生のパーティだ。
いま、王国の戦闘指南役であるエルフの大魔導士セピア先生に、
勇者シナモン、武闘家トパーズ、時空魔法使いリリー、魔法銃士アンバーとともに、
俺は勇者パーティとなるべく特訓中だ。
皆との連携プレーを学び、俺のスキルがチートだと分かり、
途中からセピア先生とスカーレット姫と3人で別メニューをこなしていた。
そして、気づけば夏となったわけだ。
今日もセピア先生とスカーレット姫と一緒に、
俺のチートスキル、エアナイフ改め、"確定消滅"について
強みや弱点を研究したり、効果的な使い方を学ぶのであろうと思っていた。
しかし、いつもの学びの場に来てみると、そこには、途中から別メニューとなって
会えなくなっていた皆の姿があるではないか!
「シナモン!トパーズ!リリー!アンバー!久しぶり!!!」
「キミか、ヒロ!」
「おまえ、久しぶりだな!」
「ヒロ様!」
「アンタ、生きてたのね」
めちゃくちゃ再会が嬉しい。
「1、2か月ぶりだよな。皆なんか強そうだ。」
「お前に負けてられねーからな!」
盛り上がっていたところに、もうひとつの声が混ざる。
「あの、はじめまして、ふふっ」
スカーレットだ。
俺はすっかりこの一か月で慣れてしまい、セピア先生やスカーレットといるときだけは、
スカーレットと呼ぶ仲になっていた。
「お姫様!?」
「ああ、みんな、スカーレットだ。」
「アンタ、お姫様を呼び捨てして大丈夫なの・・」
「大丈夫よ、皆さんもスカーレットと呼んで。」
スカーレットはご機嫌だ。友達が欲しかったのだろう。
立場もあり、いままでなかなか、同世代とも触れ合うことができなかったようだ。
「じゃあ、スカーレット様とお呼びします。」
リリーが言う。
「リリーは、誰に対しても敬語で様付けだから、それが彼女の標準だから気にしないで。」
シナモンがフォローする。
「よ、よろしくお願いします。」
アンバーはちょっと遠慮がちだ。ちょっと人見知りなんだよな。
「スカーレットはなんかスキルあるのか?」
トパーズが聞いた。こいつは人見知りとは対角を成す存在だ。
いきなり、呼び捨てとはさすがだ。
その時だった。
「はーい、盛りあがっているところ悪いんだけど、一旦静かに~。」
ニコニコしながらセピア先生がやってきた。
「みんなー夏合宿をはじめるよー!いやー楽しみだねぇ。」
「海に行くから水着も準備していくんだよ~」
ん??魔王軍と冷戦中といえ、そんな遊んでていいのだろうか!?
いや、水着・・・俺の中で幸せな妄想が・・前世ではなかった青春だな。
みんな楽しそうだ。
「これから命を預けあう仲間だからね、親睦会とかもやってこなかったし。」
「良い思い出があった方が人間、がんばれるもんだよ。」
エルフに人間を語られてもと一瞬、余計なツッコミが俺の中によぎったが、
確かにそれは一理あると思った。
「あとね、皆がどんな思いで魔王軍と戦うのか、そういう思いも共有して欲しいしね~」
「日頃はなかなか言えない思いとかね~」
「きっと良い機会になると思うんだよ。」
セピア先生は淡々と話を続けた。
俺は疑問に思っていることがひとつあった。
スカーレットだ。
あくまで一時的に俺の訓練に付き合ってくれていたスカーレットが
合宿に一緒に行くのだろうか。先生の支援として?それとも勇者パーティに加わる!?
でも姫だぞ??
いろんな思いが俺の中で交錯していたのだ。
そんな俺の疑問を察してか、セピア先生が口を開いた。
「スカーレットのことなんだけど・・」
「先生!私に言わせて!」
スカーレットがセピア先生が話すのを遮り、代わりに話を始めた。
「私ね、一生、魔王軍との戦いは終わることなく続くと思っていた。」
「だけど、ヒロに出会って、未来が変わるんじゃないかって思った。」
「私の力も、その未来を変えるために使いたいの!」
「姫だとか、そんなことは忘れて聞いて欲しい。私も連れて行ってくれないかな!」
「自分のことは自分で守れるから。私、シールドとバリアがセピア先生より上手なの。」
一同がざわめいた。
セピア先生よりシールドとバリアを作るのが上手いのは俺も見たので分かっている。
「私が生まれた王国の景色、文化、街の人々、すべてが好きなの、それを守りたいの!」
ずっとニコニコしていたスカーレットだったが、最後のその瞬間は、真剣な眼差しだった。
シナモンがスカーレットに目を合わせた。
「僕もなんだ。ヒロを見て、本当に魔王討伐がやれるんじゃないかって感じた。」
「僕は前世でも勇者だったが、魔王討伐を果たせない勇者パーティだった。」
え?シナモンは前世も勇者だったの!?
俺みたいに地球から来た人間もいれば、ここと似たような別の異世界から
召喚されたケースもあるのか。
「仲間も失った。」
シナモン、今はいつもと違う表情だ。
前世でいろいろあったんだな・・
「君のような仲間を守れるバリア・シールド能力の持ち主は歓迎だ。」
少し笑顔でシナモンがそういうと、スカーレットの表情が明るくなった。
「何より、僕もキミの王国を守りたい。スカーレット、よろしく。」
シナモンがスカーレットの手を取り、みんなを呼んだ。
みんなで手を重ねて、これから魔王討伐に向けて一丸となることを誓ったのだった。
「みんな、よろしく!」
一同で声が揃った。
「あれ~合宿いらなかったかな~」
ニコニコしながらセピア先生が言う。
「いえ、せっかくなんでいきましょう!」
俺がキリっとした表情で言う。
水着は大事だ。そう思ったことは内緒にしておこう。
こうして、俺たちは夏合宿に向かうのだった。