5話 史上初のチートスキルが発覚
気づけば、授業が始まってから一か月ほど経っていた。
俺たちはゴブリンとキノコオバケの混合チームを相手に戦いの日々を繰り広げていた。
もちろん、セピア先生が用意した仮想ゴブリンと仮想キノコオバケなので彼らに俺たちへの殺意はない。
とはいえど、殺意がないだけで、本気で戦闘を仕掛けてくることには違いがない。
トドメを刺さないだけだ。
このため、実践と同様の戦いがある程度はできているつもりだ。
全員がお互いのスキルを理解し始め、連携の精度が上がっていた。
「さて、ではそろそろ新しい課題を出しましょうかねぇ~」
セピア先生はいつも楽しそうだ。
「待ってました!」
トパーズもいつも楽しそうだ。トパーズは強くなることに余念がない。
「はい、次のモンスターは初めての中レベルモンスターです!はい、拍手!」
おお、ついにレベルアップか。いままでのモンスターは低レベルモンスターらしい。
外の世界に冒険に出ていくには最低、中レベルから高レベルのモンスターには対応できないと
生存率が一気に下がるらしい。
ゆくゆくは、魔王軍の幹部とも戦うことになるので、本当はボスレベルのモンスター、
ドラゴンを相手にできるぐらいでなくてはならない。
まぁ、まだ授業中の身だから、先の話である。
セピア先生が続ける。
「中レベルモンスターは・・・超硬化スライムです~」
先生によると、超硬化スライムというのは、名の通り、めちゃくちゃ硬い、つまり、
防御力オバケである。ダメージがほとんど入らないらしい。
しかも、こちらから攻撃をしかけないと、その硬い体を利用して、銃弾のように、
飛んでくるらしい。当たったら瀕死は免れないだろう。すごい危ないやつだ。
「今回のサポートは俺だな」
トパーズが言った。
最近は、シナモンだけでなく、攻略方法について皆で話すのが通例だ。
パーティメンバーの人となりが、お互いに分かり始め、コミュニケーションが活発になってきたのだ。
「そうね、アンタの身体超硬化なら超硬化スライムの突進も防げるよね。アタシは賛成だけど。」
アンバーだ。最近は皆に慣れたのかよく話すようになった。
「超硬化スライムの突進はスロウで私が鈍化して、トパーズ様の援護をします。」
「おう、頼むぞ、リリー」
トパーズが言う。
「じゃあ囮役は今回も僕が努めよう。」
さすがシナモンだ。
「そして、アンバーはヒロの攻撃力アップの支援魔法を頼む。」
「ヒロのエアナイフで、あの硬いスライムが裂けるか試そう。」
「やってみる。」
全員が構えたところで、セピア先生が魔法陣を出し、
仮想超硬化スライムを出現させた。
皆が想定した動きで連携をとる。
いきなり、スライムは突っ込んできたが、
トパーズがしっかり受け止める。
「くっ、かなりの衝撃だぜ。」
シナモンが囮になり、超硬化スライムをトパーズから遠ざける。
アンバーが俺に攻撃力アップの支援魔法をかけた。
リリーが超硬化スライムにスロウをかける。
俺も動きが慣れてきたところもあり、超硬化スライムめがけて、
エアーナイフを繰り出すことができた。
すると、超硬化スライムはとても簡単に砕け散ったのだった。
「あれ、肩透かしだったね?」
俺は言った。
というか、すごい硬いんじゃなかったっけ?
しかし、この状況に言葉を失っていたのは、セピア先生だった。
後日、セピア先生から聞いて分かった話だが、先生の想定だと、
あの超硬化スライムは、俺たちには"倒せない"という算段だったらしい。
シナモンが言う通り、どうすれば自分たちの力で、より高い攻撃力を出せるか、
それを考えさせるのが、今回の課題だったようだ。
これから中・高レベルのモンスターと戦うためには、
今までの雑魚と違って、しっかり敵の体力を削っていく必要があるからだ。
先生によるとこの世界のモンスターや魔王軍のランクはざっくり以下の通りだ。
Aランク:魔王軍最高司令レベル
Bランク:魔王軍幹部レベル
Cランク:ドラゴンレベル ※一部のドラゴンはA,Bランクにも存在する
Dランク:中・高レベルのモンスター
Eランク:低レベルのモンスター
Fランク:モンスターと戦えない訓練兵士のランク
ちなみに、俺たちはFランクから始まり、Eランクを卒業し、Dランクの練習に入ったところだった。
超硬化スライムは防御力だけで考えると、なんとBランクに相当する。
先生はDランクの敵を倒すために、俺たちの攻撃力を引き出すための起爆剤となるような課題として、
2階級上のBランクの防御力を持つ超硬化スライムを相手にさせ、俺たちの力を引き出させようと
していたのだ。
しかし、俺のエアナイフがBランクの防御力を持つ超硬化スライムを一瞬で砕いたのだ。
これは、破壊力だけで考えれば、魔王軍の幹部を粉砕するレベルの力である。
セピア先生も考えられないという表情だった。
そしてこう言った。
「前代未聞だよ。私は数千年この世界にいるが初めてみた。今も本当に起きたことなのか分からない。」
「そのスライムは、私も粉砕できるが、相当な魔力を使うのだよ。」
いつも楽しそうな、柔らかい雰囲気を持つ先生だったが、今日は真面目な顔をしている。
俺はなんだかきまずくなって、話を流そうとした。
「ほら、しょせん、スライムですし・・・」
全員が、いやいやいやという否定の目線を俺に送ってきているが、
なるべく気づかないようにする俺だった。
俺は嬉しいような、なんか困ったような、複雑な気持ちになったが、
自分のスキルの可能性に少しワクワクしていた。