3話 芽生える自信
勇者パーティが結成された後、俺はしばらく呆然としていたが、
再び若さを取り戻し、人生をやり直せることに気づき、
ゲームのような世界で冒険ができるということの喜びに満ち溢れていた。
神様ありがとう。
辛かったとはいえど、前世には多少の未練もある。
しかし、こっちの世界でのワクワクの方が大きく上回る。
他のメンバーは、皆、召喚されたことに何の疑問や抵抗もなさそうだが、
俺と同じように、前世に未練はなかったのだろうか。
そんなことを考えていると、王の従者が言った。
「君たちには1年間しっかり王国側がサポートして教育させてもらう。」
え、そんなサポートを受けられるの!?
俺は驚いた。
今は魔王軍との戦いが拮抗しているらしく、やや冷戦状態となっており、
動きがあまりなく、束の間の平和ということらしい。
しっかり育てて決着を付けるため、こういう戦略を取っているのか。
「さっ、明日からは勇者パーティ育成の授業が始まるぞ!」
「各々、しっかり休むように。」
王の従者は続けてそう言ったあと、それぞれが王宮の近くの宿舎に案内された。
俺は転生の疲れもあってか、ベッドに横たわると、すぐに寝た。
***
翌日、俺たち勇者パーティ候補生は、授業を受けることになった。
先生はセピアと名乗る男性のエルフだ。
皆が知っている魔法は大体使える強者だそうだ。
勇者シナモンと時空魔法使いリリーは、優等生タイプで、真面目に授業を聞いている。
トパーズは早く実技がしたいとそわそわしている。さすが武闘家だな。
アンバーはムスッとしながら?いや、真剣な顔をしているだけかもしれない。
授業を一生懸命に受けている。頑張り屋なのかもな。
俺が思う皆の印象としては好感が持てる感じではある。
逆に皆が俺をどう思っているかの方が気になるな・・・
なんせスキルがエアナイフだったからな・・
そろそろ、戦いの実技訓練が始まりそうだ。
実技の内容は、仮想ゴブリンとの戦いだった。
セピア先生が杖を一振りすると、床に魔法陣が出来て、そこに仮想ゴブリンが現れる。
仮想ゴブリンは、本物のゴブリン同様だが、俺たちを殺さないように
命令がインプットされているらしい。
セピア先生は何でもできるんだな・・
「では、はじめてみようか~」
先生が言い放つ。
ちょっと言い方に威厳がない。軽い感じだ。
ゴブリンか・・・ゲームの世界では戦ったことあるが、俺は前世では人を殴ったこともない。
様子を見ていると、シナモンが剣を一閃。
ゴブリンはあっという間に倒れた。
すごすぎるぞ、シナモン。
魔法陣から仮想ゴブリンが今度は3体現れた。
「今度は俺の番だな。身体超硬化!」
トパーズがゴブリンにパンチを放つ。
ゴブリンの頭部が吹っ飛ぶ。すごい威力だ。
その間に、残り2匹のゴブリンがリリーに向かって走っていく。
「スロウ!」
リリーが時空魔法を使う。
ゴブリン2匹の動きが鈍化した。
そこにアンバーが魔法銃だ。
「ファイア弾!」
ゴブリン2匹を燃やし尽くした。
魔法陣からゴブリンが今度は5匹出てきた。
俺も活躍しなくては・・
エアナイフだからゴブリンに近づかなくてはならない。
ちょっと怖いな。
いや、これはもうゲームだと思おう。
思い切って、おれは1匹のゴブリンに走り、手をかざした。
しかし、俺の衝撃波はゴブリンに小バカにされるように、
簡単に避けられてしまった。かっこ悪い・・
その後、しばらく授業が続き、休み時間となった。
「ヒロ様、お疲れ様です!」
そう声をかけてくれたのはリリーだった。
「あ、うん、まぁ、あんまり疲れるほど活躍もしてないけどね・・」
苦笑いしつつ、俺が答える。
「私、ヒロ様にお願いがあるんです!」
「私やアンバーを助けてほしいのです。」
俺を頼りにしている!?意外だな。
「私、時空間魔法使いだけど、いまスロウしか使えなくて・・」
「だから、ゴブリンごときでも仕留めることができないんです。」
「アンバーも、魔法銃で攻撃魔法は使えるんですけど、あれ使いこなすのは難しいらしいので・・」
「便利な分、魔法の詠唱時間があるからタイミングを見たり、魔力量も結構食うので連発もできないらしいんですよね。」
そうだったのか。
リリーは今日の授業で仲間の強み・弱みをしっかり分析していたんだな。
すごい子だ。
「そこで、ヒロ様のナイフの衝撃派みたいなやつって、詠唱なしですぐに出せてたと思うんですよね。」
「あ・・・たしかに。」
自分のスキルの強みに今さら気づいた。
「空振りはしてたけど、たしかに連発もできるし、魔力消費もないね・・・気づかなかった。」
「きっと、そのスキル、すごいスキルですよ。」
そういって、リリーは笑った。なんてステキな笑顔なんだ。
「ありがとう、リリーとアンバーを守ってみせるよ!」
俺は、リリーとパーティになれたことを神様に感謝した。
自分に自信をもたらしてくれて、前向きにしてくれる存在だ。
こうして、初回の授業は終わったのだ。