1(転生してモンスターに襲われる美少女を助ける)
俺はトラックに轢かれて異世界転生した。
ラノベでよくみる謎の空間で女神的存在からスキルを貰えるらしい。
「この異世界は習作だから、余り物のスキルや外れスキルが実は……みたいな捻ったものは無いわよ。『チートスキル:パンチ』はいこれね。S級モンスターだろうが魔王だろうがパンチで解決できるわよ。じゃあがんばんなさい」
『ワンパンで全てを解決する作品は既にあるんだが』
「そういう事じゃないわよ。作品として成立していればそれでよくて考えるのが面倒だからパンチなの。私はアンタが得るスキルが頭突きでも別に困らないわよ。」
どうやらそういう事ではないらしい。
そして俺の得るチートスキルは頭突きになってしまった。
草原で目を覚ます。
どうやら文無しで転生してしまったらしい。金を稼ぐ為にモンスターを探す。
ゴブリンがいる。パンチ。ゴブリンはふらふらと倒れて魔石になった。
ゴブリンがいる。頭突き。ゴブリンはグシャアアとひしゃげて魔石になった。
ゴブリン程度なら何とでもなるらしい。
チートスキル:頭突きの使い勝手を色々と試していると、
遠くでキャアという悲鳴が聞こえた。
女の子がドラゴンに襲われている。いきなりドラゴンて。
間に入って頭突きをするも、ドラゴンの鱗を数枚剥がす程度の威力しかない。鱗にガリガリしたせいで俺の毛根が悲鳴をあげている。
『S級モンスターでも魔王でもワンパンじゃないのかよ!』
いや、ワンヘッドバットか? ワン頭突き、略してワンズ? うーんと唸っていると後ろの女の子が近寄ってきて、
「そのモンスターはこの草原のヌシ、レッドドラゴンです。
3800年生きたといわれあらゆる物理攻撃をはじくとされています。
唯一の弱点の逆鱗を狙えば討伐できるそうですが……」
といった。
『3800年生きてるのに討伐記録があるんですか?』
すかさずツッコミを入れてしまう。
俺という奴はいつもこうだ。大体の流れに乗ればいいのに。
皆が望む方向に進めばいいのに。
ちょっとした事が気になってしまって、いつも話の腰骨を折ってしまう。
細かい事なんて気にせず、レッドドラゴンの逆鱗を見つけてそこに頭突きをかませば
俺はきっと今日の内にS級冒険者になったんだろう。てか逆鱗に頭突きってどうやってするんだよ。
クソ、まただ。疑問に思ってしまったならば、その世界線はもはや成立しない。
3800年生きていて未だ討伐されていないレッドドラゴンの弱点を述べる少女が敵なのか味方なのかもはやわからないし、どこにあるかもわからないレッドドラゴンの逆鱗にF難度の反転宙返り頭突きを入れるルートもパアだ。
頭突きでレッドドラゴンを倒すのが先か、俺の毛が尽きるのが先か。
おれはあたまをかかえた。
「その頭を抱える仕草……ワレに求愛するつもりか!?」
レッドドラゴンが喋る。なんかこれ求愛のポーズだったらしい。
『そうです! 伝説の3800年生きたレッドドラゴン様に求愛しにきました!』
この流れに乗れ、そんな圧をどこからか感じ俺はレッドドラゴンに話を合わせる事にした。
『できればレッドドラゴン様が完全美少女の人間の姿になれば言う事なしです!!!!
容姿は暗い赤系の長髪で瞳の色はレッド、ゴシックロリータをベースにおいた
フリル増しのミニスカート姿でお願いします。羽は背中から出てる感じなので
背中が空いたドレスで、黒のハイソックス+ブーツでお願いします。
勿論ドラゴンの尻尾はつけて下さい!』
転生前にもよく働いた金で依頼をだしたなあと思いながら俺は全力で懇願した。
レッドドラゴンはあたまをかかえた。