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詰みセーブ状態の悪役令嬢に転生してしまったんですが?  作者: 岩尾卓


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第3話

 ループ三回目。

 人生三回目の断罪である。

 普通の人間なら一生に一度経験するかどうかも怪しいイベントが、俺は既に三回目だ。

 慣れたくない。


「――イレイナ・フォン・ローゼン! 貴様との婚約をここに破棄する!」


 アルフレッドが高らかに宣言する。

 周囲から歓声。

 エミリアが悲しそうな顔。

 貴族たちの冷たい視線。

 そして後方には銀髪の騎士。

 レオン。

 ここまでは前回と全く同じだった。


「貴様はエミリアに対して数々の嫌がらせを――」


 断罪演説が始まる。

 俺は黙って聞いた。

 今回は土下座しない。

 前回失敗したからだ。

 失敗した作戦を繰り返すほど俺は愚かではない。

 社会人生活で学んだ。

 同じ会議を何度やっても結果は変わらない。

 変えるならやり方だ。


「まず第一に、学園内での誹謗中傷!」


 アルフレッドが紙を読み上げる。

 俺は記憶を探った。

 イレイナの記憶。

 侯爵令嬢として生きてきた記憶。

 確かにエミリアに嫌味を言ったことはある。

 王太子に近付くな。

 身の程を知れ。

 その程度は。

 性格が良いとは言えない。

 しかし。


「第二に私物の破壊!」


 覚えがない。


「第三に階段から突き落とそうとした罪!」


 それもない。

 むしろイレイナはそんな真似をする度胸がない。

 プライドは高い。

 嫌味も言う。

 だが直接危害を加えるような人間ではなかった。

 少なくとも記憶の中では。


「何か反論はあるか?」


 来た。

 俺はすぐに口を開いた。


「あります」


 会場がざわつく。

 アルフレッドが眉をひそめた。


「ほう?」


「階段から突き落とそうとした件ですが」


 俺は周囲を見渡した。


「証人はいらっしゃるのでしょうか?」


 一瞬、静かになる。

 おっ。

 少し効いたか?


「もちろんいる!」


 アルフレッドが即答した。

 効いてなかった。


「エミリア本人だ!」


 いや本人かよ。


「私、怖かったんです……」


 エミリアが涙ぐむ。

 会場から同情の声が上がった。

 駄目だ。

 完全にアウェーだ。


「他には?」


 俺は諦めずに聞く。


「証拠もある!」


 紙束を掲げる。

 また紙だ。

 その紙を見せろ。

 せめて内容を確認させろ。

 そう思ったが無理そうだった。

 この断罪イベント、裁判として欠陥だらけである。

 というか裁判ですらない。

 ただの公開処刑だ。

 俺は確信した。

 まともに戦っても勝てない。

 ルールが向こう有利すぎる。


「反論は以上か?」


 アルフレッドが勝ち誇る。

 俺は少し考えた。


 そして。


「ちなみにですが」


「何だ」


「この場から帰ってもいいでしょうか」


 会場が静まり返った。

 アルフレッドの顔が引きつる。


「は?」


「いや、婚約破棄なら受け入れますので」


 俺はにこやかに言った。


「侯爵家に帰ります」


「帰れると思うのか?」


「駄目ですか」


「当たり前だ!」


 ですよね。

 知ってた。

 知ってたけど聞いてみたかった。

 もしかしたら意外と帰れたりしないかなと。

 しなかった。


「レオン」


 アルフレッドが呼ぶ。

 俺の心臓が縮み上がった。

 来た。

 死神だ。


「はっ」


 レオンが前へ出る。

 やっぱりイケメンだな、ふざけやがって。

 いや違う。

 見惚れてる場合じゃない。

 こいつは俺を殺す男だ。


「罪人イレイナを処刑せよ」


「御意」


 レオンが歩き始める。

 俺はごくりと唾を飲んだ。

 前回より少しだけ冷静だった。

 だから気付いた。

 レオンは別に俺を憎んでいない。

 怒ってもいない。

 悲しんでもいない。

 ただ命令を実行しているだけだ。

 仕事なのだ。

 会社員で言うならメールを送るのと同じ。

 俺の首を刎ねるのが。

 嫌すぎる例えだな。


「レオン殿」


 思わず呼びかける。

 レオンの足が止まった。

 おや。

 前回は止まらなかった気がする。


「何でしょう」


 初めて返事が返ってきた。

 声は低く落ち着いている。


「もし私が無罪だったら?」


 何となく聞いてみた。

 レオンは数秒だけ考えた。


「それを判断する立場にありません」


 そしてそう答えた。

 なるほど。

 実に真面目だ。

 真面目すぎる。


「ですが」


 レオンが続ける。


「あなたが無罪ならば、残念に思います」


 俺は目を瞬いた。

 予想外の言葉だった。

 その直後。

 銀色の刃が閃いた。


◇◇◇


「――イレイナ・フォン・ローゼン!」


 戻った。

 また戻った。

 四回目だ。

 俺は深く息を吐く。

 今までで一番収穫があった気がする。

 少なくとも。

 レオンは俺を嫌っていない。

 それが分かった。

 そして。

 この断罪劇はまともな裁判ではない。

 反論も証拠確認も意味がない。

 つまり。


「正攻法は駄目か……」


 俺は呟いた。

 アルフレッドの演説が始まる。

 エミリアが悲しそうな顔をする。

 貴族たちがざわめく。

 全て同じだ。

 だが。

 俺の中でひとつの考えが生まれていた。

 話し合いが駄目。

 反論も駄目。

 謝罪も駄目。

 なら。

 別の方法を考えるしかない。

 俺はゆっくりと後方を見た。

 そこには相変わらず銀髪の騎士が立っている。

 レオン。

 何度も俺を殺した男。

 そして今のところ、唯一まともに会話が成立した相手。


「……次はお前を攻略するか」


 そんな呟きは歓声にかき消され、誰にも聞かれることはなかった。


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