二十三話『グレタの望み』
「きゃぁぁあ!」
「襲撃者だ! すぐに皇族の皆様をお守りしろ!」
悲鳴が響く中、二射、三射と続け様に放たれる射出音が耳元を掠め、ドスっと言う音と共に私の頭上から生暖かい雫が降ってきた。
えっ、何っこれ……
私の頬を伝い、混乱した様子で私を見上げるアルノルフ殿下の頬へ赤い、赤い雫が落ちていく。
痛みはないから私の血ではない……
咄嗟に顔を上げようとしたが、すぐに上から押さえ付けられ地面に伏せさせられる。
「まだそのまま伏せていなさい、出来るね?」
すっかり聞き慣れたフランシス父様の声に力を抜きかけて、私の身体が硬直した。
上から降ってきた赤い血の持ち主に気がついてしまったのだ。
「テオドール! 制圧出来たか!」
「申し訳ありません、どうやら毒を仕込んでいたのか、自死しました」
フッと重さが消えたので急ぎ立ち上がると、私はフランシス父様の背中に飛びついた。
「父様、まさか怪我をしてませんか!?」
急ぎ視線を巡らせると、フランシス父様の利き腕である右肩の付け根に刺客が放った物だろう、小ぶりの矢が刺さっている。
「テオドール兄様、父様が怪我をしています!」
半ば混乱しながらも、この場でフランシス父様以外で信頼できるテオドール兄様に助けを求めると、駆け寄ろうとしたテオドール兄様を父様が制した。
「テオドール、警護が配置されている中庭に刺客が紛れ込むには、警護の配置に詳しい内通者がいるはずだ。単独犯とは考えにくい!もしかすると一連の襲撃を何処かで確認している可能性が高い!」
「わかっています」
「わかっているならすぐに動け! 私は皇族の方々を避難させる!」
混乱する中庭にフランシス父様の指示が響く。
その声に促されるように、冷静に動き出した周囲の様子に感心しながら、これは皇族をさっさと屋内に避難させなければフランシス父様の怪我をお医者様に見せられない事を悟った。
ならどうするか、私はまだ地面に座り込んで駆け寄ってきたらしい近衛騎士に囲まれているアルノルフ殿下と距離を詰めると、彼に手を伸ばしてその手を掴み一気に引き上げて立ち上がらせる。
「わっ!?」
しかしどうやら腰が抜けてしまったのか、立ち上がるのに失敗したアルノルフ殿下に巻き込まれる形で再び体勢を崩してしまった。
「誰かアルノルフ殿下を城内へお運びして!」
「承知いたしました!」
返事をした近衛騎士にアルノルフ殿下の身柄を引き渡し、矢が刺さったまま指示を出すフランシス父様背中側からの腰へとタックルを決める……もちろん膝カックン付きで……
「なっ!?」
突然の強襲に耐えきれず地面に倒れ込んだ父様の背中に馬乗りして刺さったままの矢を握り締める。
「これ! 毒が塗ってあります! テオドール兄様抜くの手伝って下さい!」
素人が無闇に抜くのは鏃が体内に残ってしまう可能性もあるため危険なのは分かっている、でもすぐにでも抜いてしまわなければならない時だってあるのだ。
「なんだって!?」
私の発言にざわめく周囲をガン無視して、患部に徐々に広がる黒い霞を睨みつける。
「グレタ、落ち着きなさい私は大丈夫だから」
「でも!」
青白い顔でチアノーゼ気味に見える唇をして困った子を見るように見ないでほしい。
絶対に毒回ってるじゃない!
「はぁ……仕方ないね……テオドール抜いてくれるか?」
フランシス父様はそう言うと自らの袖口に噛み付き目を閉じる。
まだ刺さったばかりで傷口は締まっていないけれど、それでも痛みを抑える薬草のない中で引き抜くのはひどく痛むだろう。
「行きます!」




