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英雄の愛娘に転生しましたが、お父様の死亡フラグが折れてくれない!?  作者: 紅葉ももな


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二十話『息子』フランシス視点



 戦場からの帰り道、戦勝で浮足立った兵士達の引率を他の将軍にお願いし、私はすぐにブリュッセル伯爵家へ早馬を出した。


 面会依頼の内容はテオドールの怪我に対する容態確認と、出征前に交わしたテオドールとの約束を守るために保護者であるブリュッセル伯爵に許可を取ろうと考えたのだ。

 

 真っ直ぐにブリュッセル伯爵家へ向かうと、早馬は無事に辿り着いていたようだ。


 だけどどうやら予定よりも早く辿り着いてしまったようで、私の来訪に慌てた様子で出迎えの執事が出てきた。


「リンドブルク公爵閣下、戦勝お祝い申し上げます。 早馬を頂きありがとうございます、大変申し訳ございません。 旦那様は数日所要で出掛けておられまして……」


「いやこちらこそすまない、テオドールの怪我が気になって伯爵の予定を確認もせずに屋敷へ来てしまったのだ」


「そうでございましたか……」


 テオドールの名前を聞くなり、不自然に視線を泳がせた執事の様子にざわりと嫌な予感が背中を這い上がる。


「テオドールを呼んできてくれ、いや、案内してもらおうか……」


 殺気を抑えることが出来ずに、執事に案内を求めると青褪めながら頷いた。


「こっ、こちらでございます」

 

 躊躇いながら案内されたのは本邸の裏側に続く扉だ。


 私の機嫌が悪くなるのを感じたのだろう、焦りながら執事が口を開いた。


「ただいまのお時間ですと、テオドール様は兄君達と裏庭で鍛錬をされていらっしゃる頃かと思われます」 


 遠くからわぁわぁと子どもが騒ぐ声が聞こえてくる。


 生垣を抜けた先は広く整地されているようで、複数の子ども達が集まっているようだった。


「いつまで寝てるつもりだ? さっさと起き上がれよ愚図が」


「ちょっとばかりフランシス様に気に入られたからっていい気になってんじゃねぇよ!」


 自分の名前が聞こえて、目を凝らせば地面に伏せる子どもを囲んで暴力を振るっているようだった。

 

「何をしている!」


「フランシス様!? なぜこちらに……」


 私が現れた事に驚いたのか、数歩後ずさった子ども達を無視して、地面に伏せた傷だらけの子どもを抱き上げた。


「ふ……フランシス……さま?」


「あぁ、テオドールすまない、こんな事ならば君を生家へ返すべきではなかった」


 戸惑った様子で立ち竦む子らを残し、そのまま来た道を戻り始める。


「おっ、お待ち下さいリンドブルク公爵閣下、テオドール様をどちらへ」


 焦りながら追いかけてくる執事を無視して、屋敷の前に待機させていた馬へテオドールを乗せると、その後ろへ跨がる。


「虐待されているとわかっている者を、そのまま置いていくわけには行かない、テオドールは私が軍で預かる」

 

 それだけ告げると、テオドールを連れて先の駐屯地へと戻った。


「すまない! 急患だ」


「やっと戦が終わったばかりだってのに、更に急患だぁ!? ってリンドブルク将軍じゃないですか……子供!?」


「あぁ、診てくれるか?」


「すぐに診ます、そちらの寝所へ寝かせてください」


 負傷者ばかりの救護所には、地面に直接布を敷き、その上に簡易寝所を設けてある。


 ベッドでは前線が変化した場合撤退に時間がかかるからだ。


「わかった……把握していたよりも、負傷兵が少ないな……」


 寝かせたテオドールを、素早く診察し始めた従軍医のジョバンニに問いかける。


「あいつらなら、ここを飛び出して行きましたよ。 終戦したのに寝てらんねーと宣って、まだ安静だと言っているのも聞かずにな」


「大丈夫なのか?」


「えぇ、元々血の気が多い奴らばかりですし、無理に抑えつけて暴れられるより娼館へ放逐してやった方が平和です。 それに私の判断で本当に安静が必要な重症者は、既に街の治療院へ送還済みですから問題ありませんよ」


 服を脱がせるジョバンニを手伝えば、その白い肌に残る無数の打撲痕や創傷が痛々しい。


 その全てがテオドールの服で隠れる範囲にあるのだ。


「戦前にリンドブルク将軍がこの子を連れてきた時も思いましたが、子供をこんなになるまで痛めつけるなど酷いことをするものだ……」


 汚れた傷を水で洗い流し、膿みかけた傷には度数を高めた酒を掛けて毒を消す。


 薬草を潰した薬を患部に塗布し、保護布が巻かれていく姿を診ながら、私は何も出来ない両手に力を入れた。


 ジョバンニにテオドールの世話を頼むと、私はすぐさま本部へと合流した。


 ブリュッセル伯爵家へ多額の援助を渡して、テオドールを引き取ることにした私は、従者としてテオドールを遇することになった。


 元々、ブリュッセル伯爵が正妻以外の女性との間に授かった私生児だった事もあり、厄介払いが出来ると正妻が喜んだことも大きい。


 働き者で真面目で、虐待されてきたせいか周囲の状況を把握して適切に対応するテオドールは、あっという間に他の兵士達に馴染んで行った。


 着々と私の小さな副官としてテオドールは成長した。息子として望むほどに……。

 



 


 

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