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十話『ご令嬢戦線』


 おかしい、何かがおかしい……『グラシアル英雄伝』に王太子なんて存在しなかったよ。


 まぁ私のグラシアル英雄伝の知識はほぼ本編開始後のストーリーなのでもしかしてその前に何らかの理由で亡くなっているのかな?


 挨拶を済ませて案内された席に着き、用意された紅茶が入った白磁のカップを覗き込む。


 ぐるぐるとなぜ?どうして?と疑問ばかりが頭の中で回っている。


 本当に何なんだろう、こうも次々と想像すらしていない事実が湧いてこられても対処しきれないんですけど。


 テオドール様は私をこの席に案内したあと、何かあったら呼べと言って同年代の未婚のご令息達のところへ行ってしまった。


「グレタ様は、最近まで他所で育てられたそうですね?」


 不意に話を振られて我に返る。


 同じ席に居るのはリンドブルク公爵家と同じ公爵位のご令嬢と、その一つ下にあたる侯爵家のご令嬢達だ。


 にこやかな表情をしているけれど、その質問で一気に場の空気が凍りついた。


 どうにか話を反らせないかと視線を彷徨わせる者、ご令嬢同士の争いの予感に不謹慎にも楽しむつもりで傍観する者と反応は色々だ。


 しかしその全てが私がどのように返事をするのか、聞き耳を立てている。


 先程まで別の話題で盛り上がっていた人たちまで、声を潜めているんだから。

 

 でもまぁ……それはそうだよね、リンドブルク公爵令嬢がこれまで十年あまり行方不明になっていたのは周知の事実なんだから。


 それをわざわざ王妃殿下のお茶会で言及してきたってことは完全に私が奴隷出身だと分かっていてやっているのだろう。


 うーん、アルノルフ王子とエステル王女の婚約者候補探しも兼ねているってフランシス父様が言っておられたからこれも一種の牽制かな。


 普段自分から挨拶をなさらないアルノルフ殿下が、突然現れた本物かどうかも怪しい公爵令嬢に挨拶なんてしたらそりゃぁ騒ぎにもなるわーな。


 だってアルノルフ殿下の妃の座、次期王妃を狙っている高位貴族のご令嬢からしたら面白くないものね。


 私は自分の死亡フラグ回避でいっぱいいっぱいだってぇの!


「えぇ、私はずっと孤児だと思っておりましたが、お父様が迎えに来てくれましたの……お恥ずかしながら皆様のように気品溢れる素晴らしい立ち居振る舞いはできませんが、皆様をお手本に淑女となれるよう精進いたしますね」


 ニコォと微笑みそう告げると、心做しか背筋が伸びたようでございましてよ皆様。


「王妃殿下にもご挨拶させていただき、よく皆様から学ぶようにと助言いただきましたから」


 私が視線を向けた先には、今も貴族と談笑しながら私に向けて視線を合わせて微笑む王妃殿下がいらっしゃる。


 うひぃ、ほら見てるから!


 ざわりとしたあと、人々の視線が遠慮がちに王妃殿下へと向かう。

 

「王妃殿下は皆様の日頃の行いをよくよく見ていらっしゃるのでしょう」


 あら? 更に姿勢が良くなりましたよ?


 私に質問を振ってきた令嬢などは幾分顔色が悪くなったようですけど、ならはじめから言わなければ良かったのに。


 サクサクに焼き上がったクッキーを口へ運んで温くなってしまった紅茶をグイッと飲み干す。


「私お花摘みに行ってまいりますね……ごめんあそばせ」


 先程までの勢いは一体どこへ消え去ったのか……

 

 すっかりお通夜状態になってしまったテーブルから立ち上がる。


 この空気をどうするかは話を振ってきた彼女たちにおまかせしよう。


 あー、私にご令嬢は向いてない!   


 


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