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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
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討伐後③

ノーブクロのギルド長がウィドウによって市中磔となり、ノーブクロの双龍を利用して薬の流通に制限を掛け私腹を肥やしていた事を暴露され、激高した市民に惨殺された日から1週間、王都ナメコンドでは、矯正委員会による定例の最高幹部会が開かれていた。


会は委員長のウーマ・ヨーコを含めた8人の最高幹部全員が出席していた。

最高幹部会は表向き、種族に捉われない多文化・多人種共生を進めるために各幹部がどのような方策を進めているか、若しくは進めるかといった実績と方針を開陳し、幹部間で議論を戦わせることで、国民をより良い方向に導くと謳っていたが、大部分の一般国民にとっては多文化・多人種共生などに興味は無く、一部の国民を除けば矯正委員会が強力な権限と予算を有しつつある事に気づいていなかった。


彼らは豚種・ヌル族・魔族といった少数民族を従え、夫々の種族の特色に応じて多文化・多人種共生の名のもと役割を与えていた。

彼らが特に重宝したのが豚種で、豚種は知能が低いものの繁殖能力が高く、かつ、知能が低いが故に、理屈を抜きにした暴力とう力による支配が有効で、力関係が明白である限りは管理が容易であるという種族的特性から、矯正委員会の求める多人種共生にはうってつけの存在であった。

彼らは豚種を辺境の街に送り込み、その旺盛な繁殖力と知能が低いが故の粗暴な振舞いによって街を乗っ取ることを繰り返していた。

ムタロウがいたブクロの街もその一つだった。


「これより最高幹部会を始めます。」


委員長のウーマが最高幹部会の開催を宣言した。


「当委員会に於いてかけがえのない同志である、キュア・ビーティーがノーブクロで非業の死を迎えてから1年と3か月が経ちますが、彼女の死を悼む段階から、未来を目指す段階にきていると考えています。」


ウーマは言を続けず、幹部たちを見回した。

幹部たちは、無言で頷いた。

幹部の反応を見て、ウーマは満足げな表情を浮かべ、言葉を続けた。


「私たちは、委員会が掲げる多文化・多人種共生を旗印に、まずナメコンドの地方のこの崇高な思想を浸透させるべく、豚種の方々を移住させ地域の方との共生を図る様、活動を行い、それなりの成果を上げてきました。」


「今回、我々のこの活動を次の段階に進めるために東部の中規模都市であるノーブクロに豚種さんたちの移住計画を推進すべく、デニー・ゴールドボゥルさんを中心に計画を実行して貰っていたのですが…その後の進捗について、報告がございません。」


ウーマはぎろりとデニーを睨んだ。


「デニーさん。計画の進捗報告をお願いします。」


「は、はいッ」


ウーマから指名されたデニーは、尻に針を刺された激痛で飛び上がったかの如く、跳ねる様に立ち上がり、青ざめた様子で、書類をがさがさと捲り始めた。


「そんなに慌てなくていいのですよ。いつもの歌いながらゆらゆらと踊っている時の気楽な気持ちで報告すればいいのです。」


ウーマから向かって右側に着席しているレンポゥ・ニイがデニーの挙動を皮肉った。

デニーは、ウーマの皮肉に怒りを覚えつつも、表情にはおくびにも出さずに報告を開始した。


「えー…ノーブクロに於ける豚種共生計画ですが、誠に遺憾ながら、計画は失敗に終わっています。」


デニーの計画の不首尾報告に、幹部たちはざわついた。


「続けなさい。」


「皆様ご存じの通り、ノーブクロは南カマグラ山脈の麓に位置する街であり、北側には死霊街が広がり、山脈には灰龍を始めとする魔獣が多く生息しているため、冒険者が集まる街であります。」


「それで?」


「冒険者が集まり、魔獣討伐が繰り返されるという事はすなわち、魔獣との戦闘によって負傷する冒険者も多く出るため、この街は負傷した冒険者を治療する医師が同規模の街に比較して非常に多いという特徴があります。」


「それで?」


「つまり、通常の方法で豚種を送り込んだ場合、豚種の振る舞いに対し反発した冒険者や市民が豚種の排除に走る可能が高い為、ノーブクロ周辺に強力な名有り魔獣を配置し、討伐に当たった冒険を屠る事で、ノーブクロの市民の脅威を醸成する事にしました。」


「ノーブクロの二匹の灰龍って、貴方が用意したんだ?」


レンポゥが小ばかにした様な口調で横やりを入れる。

デニーはレンポゥを見ず、ひと呼吸おいてから報告を続けた。


「正確には、ウーマ委員長のお力で転生させた者です。この転生者を使って冒険者を屠り、冒険者ではもうお手上げという断面で、私の赤目衆で討伐し、豚種がノーブクロの盾として、華々しくお披露目する予定でした。」


「続けなさい。」


「はい。然し乍ら、この目論見は二人の冒険者によって阻止されました。二匹の灰龍…転生者は斃され、そして、転生者が斃されたことを隠ぺいしてノーブクロに来る商人の数を制限して私腹を肥やしていたギルド長は、街の中心で裸にひん剥かれた上で市民に惨殺されています。

このため、我が赤目衆の投入は叶わず、今に至っている次第でございます。」


「ノーブクロの街の中心で全裸にされた上で磔される、挙句の果てには市民に惨殺とは…場所、手口といい、キュア・ビーティーさんと同じ殺され方をしていますね。」


ウーマは天井を見ながら誰に語り掛ける訳もなく自問していた。


「転生者を倒した冒険者の名前は判明していますか?」


「はい。冒険者はウィドゥ・フルチルドとの事。」


「ウィドゥ・フルチルド…聞き覚えのあるお名前ですね。」


「はい。聞き覚えがあるとおっしゃるのも、その通りかと。」


「とは?」


「ウィドウ・フルチルドは国内治安対策室室長代理のウィドウ・フルチルドだからです。転生者を斃してから、ギルド長の悪事を暴露し、市民を煽動する手筈はとても鮮やかだったという報告も部下より受けています。」


「国内治安対策室が、なぜあんな辺境の街に居たのか…ましてや、なぜ冒険者風情の真似をしているのか…気になりますね。」


「それと…」


「まだ何か?報告は纏めて完結にしてください。」


ウーマは苛立ち、語気を強めた。


「大変失礼しました。実は、転生者を斃した冒険者はもう一人いまして…ムタロウ・チカフジであるとの報告も併せて受けています。」


デニーの最後の報告は、ウーマ以下、矯正委員会最高幹部達に激震をもたらしていた。


◇◇


「これを見ろ。」


ムニューチンはガラスケースに入った茶色の液体をムタロウに差し出した。

それは、ムニューチンが放線菌という黴の一種でムーを発酵させる過程で副生した液体物質だった。


「まだ完成形ではないが、不純物を除去したのち、精製・乾燥したらお前の望んだものになる。」


それは、ムタロウがこの世界に転移して以来ずっと悩まされてきた呪いを解く薬の原料だった。

ムタロウは、ガラスケースを暫く凝視していたが、目が乾いたのか何度も瞬きをし、天井を見上げながら息を吐き、右手で頭を搔いた。


「…ありがとう。ムニューチン」


ムタロウはムニューチンに礼を言うと、二歩、三歩あとずさっていた。


「なに、治癒魔導では治療できない感染症由来の傷病に抗生物質は必要だったし、お前が危険を冒して赤龍の鱗を入手してくれたお陰でもあるのだから、お互い様だ。」


ムニューチンはムタロウから視線を外し、少しばかり早口で答えた。


「薬の完成を楽しみにしている。よろしく頼む。」


「ああ、任せろ。」


ムタロウにとって、ムニューチンが見せた茶色の液体は如何なる金銀財宝よりも価値あるものだった。




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