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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
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討伐後

女剣士こと、ウィドウ・フルチルドは二匹の名有り灰竜の討伐を通じてムタロウに対して好感を持っていた。

女性である事だけで、相手の実力も測らず見下す態度を取る事もなく、ミスを素直に認める事が出来、そして、負傷し、かつ、意識を失った自分を担いでノーブクロまで連れて帰ったにも関わらず、それに対して一切恩着せがましい態度を取らなかった点がウィドウにとって非常に好ましく思えたのだった。

任務に当たっての事前情報と実際目の当たりにした調査対象の様相が違い過ぎて、ウィドウはムタロウに対してどのように接したら良いか戸惑っていた。


「そ、そういえば・・・あまり浮かない顔をしていましたね。」


一瞬の逡巡のち、ウィドウはムタロウを調査対象ではなく、共に戦った仲間として接する事とした。


「ああ、今回の討伐な・・・報奨金が出なかった。やられたよ」


ムタロウはウィドウから目を逸らし、参ったなあという表情をしていた。


「何が「やられた」なんですか?」


「ああ、ギルドからは二匹の灰竜を討伐した証拠が無いと言われてな。死骸の一部でもあればよかったのだが、あいつ等は転生者だったから。」


「ああ・・・そういうことですか」


ウィドウがムタロウの言葉に納得した背景は、この世界における転生者の死であった。

転生者は死ぬと塵となって跡形もなく消えてしまうのだった。

ムタロウ達が討伐した灰竜・・・アリーとトワタリーは灰竜に転生した異世界人であり、仮にムタロウがコンジロムの力を使わずとも、灰竜の死骸は消滅し、よって、彼らを討伐した確かな証拠はなかったのだ。


「やられましたね。」


「ああ、やられた。」


ムタロウはギルドとのやり取りを思い出し、忌々しげに髪の毛を搔きむしっていた。


「しかし・・・」

「ん?」


「彼らが討伐対象を転生者であると知った上で報奨金は出ないとケチな考えを起こしたとして、対象が生死不明扱いでは、ノーブクロ周辺は危険地帯であるという扱いは変わらないから、街にとっては損になりませんか?」


「そこだ。名有りの灰竜がいるかもしれないとなれば、商人たちは立ち寄りたいとは思わないし、来たとしても輸送に伴う護衛費用が嵩み、仕入れ値が高くなる。つまりは物価が高くなるのだから、街にとって良い事は無い。」


「その状況・・・いったい誰が得するんでしょうね。」


「・・・。」


二人の会話はそこで止まった。

灰竜は確かに討伐された。

しかし、討伐された事を伏せ、取引の為に街に来る商人の数を減らせば、その商人は独占まではいかずとも、需要と供給のバランスから高値取引が出来る。


「もし・・・ギルドの連中が、灰竜が討伐された情報を一部の商人にのみ提供し、利益の独占を図る事が出来たならば、売上の一部を情報提供者に還元しても安いものだよな?」


「理屈ではそうなりますね。但し・・・」


「証拠がない。」


「ですね。」


「となると、先ずギルド職員の素性と収入、生活ぶりでも見るか。」


「私は出入りする商人に聞いてみますね。そういうの得意ですから。」


「もし、先刻の仮定が正しかったら・・・。」


「この街は以前、竜門会って組織の親分が、街中で市民たちからの辱めを受けながら処刑されたのですよね?」



「そう・・らしいな。」


「じゃあ、そうすればいいんですよ。」


ウィドウは嬉しそうな顔をムタロウに見せた。


◇◇


中央カマグラ山脈と南北のカマグラ山脈が交わる険峻な谷をクゥーリィーは疾走っていた。

崩落しそうなごつごつした大小の岩が転がっている谷を、鹿の様にひらりひらりと跳ねては走り、走っては跳ねていた。

ムタロウと旅をしていた頃とは別人といってよい、見事な身体の使い方であった。

クゥーリィーは疾走りながら、上下左右に視線を移し、沢に無造作に転がっている大岩を見つけると、大岩目掛け跳び、着地と同時に大岩の裏側に身を隠した。

刹那、クゥーリィーが身を隠した大岩は、ぱあぁんと乾いた音を立てると共に四散しその衝撃でクゥーリィーの身体が吹き飛ばされ、地面に激突していた。

クゥーリィーは背中を強く打った痛みに呻き声を漏らしながらも、右手から5本の火線を飛ばした。

クゥーリィーが放った火線は前方の木立の中を直進し、数秒後、衝撃音と熱波を周囲に撒き散らしていた。


「やった?」


「やってないよ。」


耳元で囁く声が聞こえた時、クゥーリィーの身体は、くの字を作りながら今度は左に吹き飛ばされていた。

吹き飛ばされた衝撃でクゥーリィーは意識を失い、受け身を取る事もなく地面に叩きつけられていた。


「まったく・・・やりすぎじゃよ。」


木立の奥からしわがれた老婆の声が聞こえてきた。

声の主は、ラフェールであった。

ラフェールは、クゥーリィーをうつ伏せにし、背中に手を当て、治癒魔導を施し始めた。


「そのやり過ぎっていう言葉がそもそも間違っているんだよ。」


クゥーリィーが放った火線の方向から声が聞こえ、やがて赤い髪の少女が姿を現した。

少女は泥で薄汚れ茶色掛かった簡素な服を身にまとっていた。

谷を走りまわっているにも関わらず、靴は履いておらず裸足だった。

少女のなりをしていたが、身にまとう空気は常人のそれではなく、人外の者と直感するだけの何かを持っていた。


「お前らが過保護だったんだ。いくら魔導の才能が突出しても、この程度の体術でここまで生きてこれたのが奇跡だわ。」


「まあ、それはワシとムタロウがおったからなあ。」


心なしかそう言うラフェールは誇らしげであった。


「そのムタロウとお前が、この小便娘のケアまで出来ない様な強敵と会ったらどうする?自分ひとりで身を守れないようでは、折角の才能も宝の持ち腐れだぞ。」


「ほぉ、赤竜ムセリヌに勝ったワシらをそんな状況させる敵がそんなにいるかえ?」


ラフェールが悪そうな顔をムセリヌに向けた。」


「つまらぬ挑発をしても無駄だ!確かに我はあの男に負けはしたが、あの敗北に再現性は無い!それは・・お前も分かっているだろうが。」


「・・・。」


「老いて弱っていたといえ、白竜が豚共の集団に殺られたんだぞ!お前らの脅威になる敵は世の中ごまんといるわ!驕るな!」


「・・・。」


「現にあいつはコンジロムを使いおった。それだけの強敵が現れたという事だ。その時、ラフェール、お前は良いとしてもそこの小便娘が足手まといになってどうする?」


「ああ、分かったよ・・・お前さんの言う事に一理ある。わしもクゥーリィーを過保護にし過ぎたのもかもしれんの。」


珍しく、ラフェールがしゅんとした様な素振りを見せた。

そんなラフェールの態度を見て、ムセリヌは満足そうな表情を見せていた。


「ムタロウが・・・コンジロムを使うという事はそれだけ危なかったという事ですか?」


ラフェールの治療魔導を受け、意識を戻したクゥーリィーがムセリヌに質問した。


「何だ・・・もう起きたのか?」


「ラフェールの治癒魔導は強力だから・・・打ち身程度ならば。それより・・・」


ムセリヌに殴られた左脇腹をさすりながら、クゥーリィーは「そんな事より」と言いたげな表情でムセリヌを見ていた。


「ふん・・。さっきも言った通り、コンジロムを使った事は確かだ。そして、コンジロムを使う処まで追い込まれたという事は、対戦相手は強敵だったのだろうよ。」


「確かに、ムタロウの能力を以てすれば、大抵の敵は問題なくやれるからのう。」


「あの男の視る能力だけでも、戦闘に於いてはかなり有利だからな。」


ムセリヌは先のムタロウとの戦いを思い出し、鼻の穴に剣を入れて起された事、戦闘に負けた事を思い出し、思い出し苛立ちによる感情の波に溺れかけていた。

ムセリヌの髪から火蟲が漏れだしていた。


「ムタロウは大丈夫だったのですか?」


クゥーリィーは、そんなムセリヌに怯むことなく、問いを続けた。


「ああ、コンジロムを十分に使いこなしているとは言い難いが、敵を消し炭にする程度には使えた様だ。」


「それならば・・よかった。」


クゥーリィーが安堵の表情を浮かべている様を見ていたラフェールは、一瞬目尻を緩めたのち、直ぐにいつもの人を小ばかにしたような表情になり、クゥーリィーの尻をぺちと叩いた。


「わっ・・!」


「これ、人の心配している場合か!毎回お前さんの後を追って治療する身にもなってみろ!お前さんの体術が向上しないといつまで経ってもここを出れないじゃ!わしはそろそろムタロウの所に行きたいんじゃ!」


「・・・ご、ごめんなさい。」


ラフェールに痛い所を指摘され、クゥーリィーは身体を小さくさせ、涙ぐんでいた。


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