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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
8/82

後始末と出発前


「わたしも連れて行ってもらえないでしょうか。」


クゥーリィーの申し出をムタロウは無言で聞いていた。


◇◇◇


クゥーリィーを保護した日から3日経っていた。

コンジローは執事を通じて報酬の支払いと娘を助けたことに対する礼を伝えるだけであった。


「(ま、こんなもんだろ)」


ムタロウはコンジローが自分達と直接的な接点を持っている事を世間に気取られるのを嫌っている事が分かっていたので、コンジローの対応は想定内であり、彼にとっては報酬さえ貰えればよかった。

それよりも彼が気にしていたのはクゥーリィーの今後であった。


コンジローはシュラク亭を介さずに直接ムタロウ達に自分の娘の救出依頼を出した。

自分の娘が豚の慰み者になったという体裁の悪さを公にしたくなというのもあるが、シュラク亭を通じて公に救出依頼を出す事で依頼内容を知った矯正委員会が本件に介入する事を懸念しての措置であった。


矯正委員会は種族間の差別をなくす為の機関という名目であるが、実のところ一部の獣人族の利権構築を推進する機関であった。

ナメコンド王ナメルスの言葉を盾に獣人族の悪事を徹底的に擁護し、批判する者がいれば、社会的・経済的、時には肉体的な圧力を掛け敵対者を徹底的に潰していた。

獣人族の全てが矯正委員会にシンパシーを感じている訳ではなく、寧ろ彼らの大半は同委員会に対して、嫌悪感を持っていた。


豚種を除いては…。


豚種は矯正委員会の権力を徹底的に悪用した。

犯罪を犯し、逮捕・拘束されても矯正委員会に泣きつけば不当逮捕・差別の名目で無罪放免になった。

そして、すぐさま逮捕・拘束した本人はもとより一族郎党に対して徹底的な報復を行っていた。


自身の立場・評判を最重要として考えると評されているコンジローだ。

自分の娘が豚に攫われても何もしない薄情な親と囁かれるのは嫌だが、一方で矯正委員会によって自分の地位・立場・財産が奪われるのもまた困る事から、折衷案としてムタロウにクゥーリィー救出を直接依頼したのであった。

そして、クゥーリィー救出の過程で豚の何匹かを処分したものの、クゥーリィーの救出は失敗というのが彼の描いた理想的な結末であった。

つまりは、コンジローと矯正委員会、両方のメンツを立たせる事であった。

しかし、実際の処、豚は全員殺され、クゥーリィーは救出されるという彼の考える得る中で最悪の結果で終わった。


となると生き残ったクゥーリィーの立場は非常に厳しくなる。

恐らく、クゥーリィーは矯正委員会によって拘束され、衆人環視のもと被害報告と称して豚にやられた事を証言させられ、結論として豚の性欲を煽る格好をして町を歩いたから悪いといった理不尽極まりない裁定を受けるであろう。

・クゥーリィーの目立つ赤毛が悪い。

・クゥーリィーの美貌を引き立てる服を着ているのが悪い。

・クゥーリィーの他人を引き付ける空気感が悪い。

滅茶苦茶な理屈ではあるが、過去にそれがまかり通っているのである。

ムタロウは、豚種の背後にいる矯正委員会に対する感情がこみ上げ、ぎりっと奥歯を嚙み締めていた。


◇◇


「俺はかまわんが、お前はいいのか? ここに居れば精神的に辛いだろうが命の危険はないぞ。」


ムタロウはクゥーリィーに問うた。


「それは理解しています。しかし…この町に居続ければ私の心の死が訪れるのは間違いないでしょう。ならば、この町を出て私の身に起きた理不尽と戦いながで生きていった方がましです。」


クゥーリィーは目に涙を溜めながら気丈に答えた。

実際、クゥーリィーの言う通りであった。

クゥーリィーには一切、落ち度はない。

それなのに、かかる仕打ちをクゥーリィーが受ける事自体、あまりにも理不尽な話であった。


「俺に付いて来るとしてお前は何が出来る?旅に出るにあたって足手まといは勘弁だぞ。」


ムタロウは淡々とクゥーリィーに問いかける。


「私は…武術も魔導の心得もありませんので、お二人の戦闘の助けは出来ません。」


クゥーリィーはぽつりと言ったあと、しばらく黙り込んでいた。


「なので…身の回りの世話をします…必要とあれば、ムタロウさんの慰みにも…」


クゥーリィーは俯きながら、途切れ途切れに声を発していた。

俯いた先の地面にぼたっ、ぼたっ…と水滴が落ちている。


「メシを作ってくれればいい。」


ムタロウは、なんとも言えぬ顔でクゥーリィーから背を向けながら返答した。

クゥーリィーははっとした表情でムタロウを見た。


「そうじゃ。ムタロウの性処理はワシがやるから不要じゃ。ムタロウは子供に興味はないのじゃ。年上の女しか欲情しないのじゃ。」


ラフェールがいつの間にか二人の間に立っていた。


「そういうことだ。おれは子供には興味はない。ただ…婆ァにも興味はない。」


ムタロウはクゥーリィーに対して少しばかり柔らかな物言いをし、一方でラフェールには嫌悪感たっぷりに言い放った。


「ふん、言いたい事は山ほどあるが、今日は我慢してやる。それより、クゥーリィー。」


ラフェールがクゥーリィーを向いていつになく真剣な表情で語りかける。


「はい。」


「お前さんの思いが本気ならば今日中に準備を整え、明日の5時に町の南門に来るのじゃ。」


「は・・・・はい!」


クゥーリィーはぼろぼろと涙をこぼしながら笑顔を見せ、答えた。


「遅れるなよ。待つのは好きじゃない。」


ムタロウはぶっきらぼうに言い放ち、その場から離れていった。

ラフェールはそんなムタロウの顔を見て、口を歪めて笑いを堪えているのだった。













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