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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
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会食

仕事が忙しくて、全く書けませんでした。


ムタロウ達を照らす日差しは橙色に変わり、程なく闇夜がムタロウ達を包んだ。

山の夜の漆黒は街のそれとは全く別物であり、1メートル先に何があるか視認する事すら

困難であった。


「これでは何も見えなくて話もロクに出来ないな。」


ムセリヌはそう言うと、右人差し指をくいと曲げると、どこからか火蟲が発光しながらムセリヌの右人差し指の先に集まりだし、やがて拳大程度の塊となった。

火蟲の放つ光でムタロウ達がぼうと闇夜に浮かびあがった。


「ふふ。闇夜に浮かぶラフェールの顔は恐怖そのものだな。」


ムセリヌはラフェールの顔を見ながら、目の毒だと言わんばかりに、ラフェールから視線を逸らした。


「で、今の世界の状況を教えてやろうと言ってたが、何を教えてくれるのだ?」


ムタロウもムセリヌの感想に同意していたが、ここでラフェールが気分を害して何か言い出すと面倒だと思い、話を切った。


「ああ、そうだな。まあ、飯と酒でも飲みながら話をしようか。」


ムセリヌはそう言うと、どたどたと社の奥へと走って行った。


「何か…機嫌よさそうですね。」


クゥーリィーはムタロウの耳元に顔を寄せ、囁いた。


「恐らく…まともに会話出来る人と話すが久しぶりなのだろう。ああいう立場の者だ。対等の立場で会話出来る存在は久しく居なかったのではないか。」


「そうか…そう考えると、神と周りから敬われる方というのは気の毒ですね。」


「人間なんてのは勝手な者でのぅ…圧倒的な力を有した存在に相対すると、途端に神の如く扱うものなんじゃよ。それで…何をやってくれると期待ばかりする。そういった連中の相手をするのが嫌になって、人との接触を避けたり、敵対的な態度を取るのじゃ。」


ラフェールが天井を見ながらポツリと呟いていた。

その表情には諦めの成分が混じっていると、クゥーリィーは思った。


「クゥーリィー…お前さんも既にそういう存在になりつつあるのじゃよ。お前さんはまだ世間で言えば無名の存在であるが、いずれこの大陸に名を轟かせる炎魔導師となるじゃろうが、その時までにお前さんは、如何に心安く出来る仲間を見つけるか…それがお前さんの今後の人生を楽しく過ごすカギとなるんじゃぞ。」


「待たせたな!食いものと酒を持ってきたぞ!」


ムセリヌがどたどたと走って戻ってきた。

ムセリヌの背後には、火蟲で形成された直径1メートルはあろう丸い大皿がぶーんと浮いていて、その火蟲の大皿の上にはじゅうじゅうと音を立てて焼けている獣の腕らしきものが4本載っていた。


「これはさっきお前らが仕留めたクマンコの腕と足だ!美味いぞ!食べると魔導耐性があがるぞ!あ、あとこっちの酒だけどな!」


ムセリヌがそう言いながら彼女の背後を振り返ると、やはり高さ1メートルはある火蟲で形成された甕がぶーん音を立てて浮いていた。

火蟲の甕の中に入っている酒らしき液体は火蟲の発する熱で沸騰しており、ごぼごぼ泡を立てていた。

ムタロウはそれを見て、アルコールが飛んでただのお湯になるのではないかと考えていた。

尤も、クラミジアに感染しているムタロウにとって酒は禁忌中の禁忌であり、甕の中の液体が酒であろうが、お湯であろうが関係なかったが。


「さあ!喰え!飲め!そして話を聞こう!」


ムセリヌは、クマンコの腕を荒々しく右手で取って齧りつき、左手に持った火蟲酒がはいったグラスをがぶがぶと水代わりに飲みながら、ムタロウ達に料理を手に取るよう促した。


「クマンコの草炒めだ!「こうそう」ってやつをまぶして焼くらしいのだが、こうそうが良く分からないから、その辺の草を毟って焼いてみた!美味いぞ!」


その辺の草をまぶして焼いただけの肉が美味い訳ないだろうと思いながらムタロウは、焼けたクマンコの腕を手に取り、口に入れた。


「!!!」


クマンコの肉は予想通り不味かった。

肉質はひたすら固く、嚙みちぎって飲み込むまでの咀嚼に多大な時間を要し顎が疲れた。

味は草が焼けた青臭さが肉に染みついており、不快な臭いが呼吸をするたびに鼻を抜けた。


「ごふぉっ、ごふぉっ…」


同様の感想を持ったのだろう、クゥーリィーが眉間に皺を寄せてむせていた。

神に近い存在であろうと、所詮は蜥蜴が超進化しただけのものだ。

味覚が人間のそれと合う訳はない。

食べれるもものがあるだけで感謝だと、自らに言い聞かせ、クマンコの腕を黙って食べ続けていた。


「さてと、お前らに再度聞くが…お前らの目的は本当に私の鱗だけなのか?お前らそれぞれの能力を考えれば、私の鱗が欲しいだけというのは、やはり信じられん。」


ムセリヌは納得がいかぬと言わんばかりの表情であった。


「そもそも、そこに居る化け物一匹いるだけで相当な脅威なのに、小便娘の火魔導、そして、お前…ムタロウと言ったな、お前の能力は人間が持っていいものではないぞ。」


ムセリヌは左手に持った火蟲酒をぐいとあおり、ムタロウを睨みつけた。


「お前は近頃話題になっている竜殺しに関係しているのではあるまいな?」


酔ったせいか、竜殺しを口にしたせいか不明だが、ムセリヌの感情が昂りちりちりと髪の毛が発光していた。


「なんだ、その竜殺しというのは?」


「近頃、赤目の豚種がコンドリアン大陸で出没して悪さを働いているという話だ。フキシオ…白竜も奴らにやられたと聞くが、お前は知らないのか?」



ムセリヌの髪は感情の昂ぶりと共に、髪の毛の一本一本が炎になっていた。

最早、発光と言った生易しい物ではなく、燃え上がっているといって良い状態だった。


「赤目の豚ならば、オーシマルで見たが、俺はあいつ等とは関係ない…そもそも、俺は豚種が嫌いだし、それに与する人間も嫌いだ。全員この世から抹殺したい。」


ムタロウの周囲の空気も感情の昂ぶりと共にゆらゆらと歪んでいた。

忌み嫌う豚種の仲間と疑われ、ムタロウはムタロウで怒りの炎を燃やしていたのであった。

二人の間に緊張の糸がぴんと張る。


「ムセリヌ、ムタロウはさっきも言った通り、ちんこの病気を治療したいだけなんじゃ。」


「なッ…!」


間の抜けたしわがれた声が割り込んできた。

ムセリヌは「は?」という表情を見せ、ムタロウは、あからさまに動揺していた。

割り込んできたのはラフェールであった。


「さっき、ムタロウは解呪の為と言ってたではないか!」


「だから、その呪いってのがちんこの病気なんじゃよ。」


「病気というのが恥ずかしくて呪いと言い換えているのじゃ。少しは察しろ!このばかたれが!」


「察するとか察しないとかそういう話か!?未来を創る能力者が、ちんこの病気を治すために私の処に来たと?ちんこの病気の為に、砦の竜人が何人も殺され、ビュルルやインノ、インケが殺されたと?」


ムセリヌは呆れた表情でムタロウを見た。

ムセリヌの髪の毛はいつの間にか、元の緋色の髪に戻っていた。


「なんて馬鹿げた話だ。能力の無駄使いじゃないか。」


ムセリヌはぼそっと声を発した。

クゥーリィーはムセリヌの発言を聞いて、その通りだと思い、ムタロウを見やった。

ムタロウはばつが悪いのか、首を垂れて草臭いクマンコの肉を齧っていた。


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