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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
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赤竜の鱗

「は? 鱗が欲しいだと?」


ムセリヌは、ムタロウの発言の意図が掴めず緋色の見開き、にゅっと顔を突き出した。

そんなムセリヌの様子を、いちいち行動が大袈裟な人だとクゥーリィーは胸に煙の様なもやったした思いを抱いていた。

先刻の戦闘で敗北した悔しさで、散々悪態をついていたムセリヌだったが、その被害を最も受けたのがクゥーリィーだった。

小便女と皆の前で罵倒された屈辱もあった。(それを言ったのはラフェールだったが)

いくら神とは言え、ムセリヌに対して悪感情を持つなというのも無理からぬ話であった。


「そうだ。お前の鱗が欲しくてここまで来た。」


「うーん、わからんなあ。」


ムセリヌは右手で頭をわしゃわしゃと掻きながら、納得がいかない表情をしていた。

頭を掻く右手が動く度に緋色の髪の毛先から火蟲が飛び散り、一瞬ぼうと光ったのち、静かに消えていく。

その火蟲の様子が神々しく、あんなんでも神なのだなとクゥーリィーはまた意地悪く思った。


ムセリヌはそのまま腕を組み、顔を地面に向け、うーんと思案していたが、突如ばっと顔を上げて声を発した。


「なんで?」


突然、居場所に押しかけてきて、戦闘となり、しかもこの世界で間違いなく強者である自分に勝った者が突き付けた要求は、鱗が欲しいときた。

リスクに対して割に合わなすぎるとムセリヌは思ったのだ。


「俺の身体に罹ってる呪いを解く上で、お前の鱗が必要なのだ。」


「あたしの鱗が?」


「そうだ。」


「お前に罹っているいる呪いっていうがなあ…。私の目は呪いが放つ波動を視る事が出来るが、お前の身体にはそういった波動は全く出てないぞ。」


ムセリヌの返答を聞いて、ラフェールが「ぷっ」と噴き出した。

クゥーリィーは気の毒そうな表情でムタロウを見ていた。


「それは…必要だからだ。そこまで聞かずともいいじゃないか。」


「なんでだ? お前は私の質問に答えたくなさそうだが、なんでなんだ?」


ムタロウは、ムセリヌの無邪気かつ、ストレートな質問に答えあぐねていた。


「ラフェール、助けてあげたらどうですか?ムタロウが可哀想ですよ。」


クゥーリィーはムセリヌの無邪気さに対応できないムタロウが流石に可哀想に思え、ラフェールに助けを求めた。

クゥーリィーの要請にラフェールはめんどくさいなという表情を見せながらも、やれやれといった具合に立ち上がり、二人の会話に口を挟んだ。


「ムセリヌよ、お前が矢継ぎ早にしている問いかけはのう、ムタロウにはは答えにくいものなのじゃよ。」


「(また思わせぶりな言い方をして)」とクゥーリィーは内心憤慨していた。


「そ、そうなのか!? 何でだ? わたしも長くこの世に存在してるが、古今東西、わたしの鱗で解呪出来るなんて呪いの話は初耳だ! 一体どんな呪いなのだ? 知りたい!何という呪いなんだ!?」


ムセリヌは緋色の目をかっと見開き、ラフェールのもとに駆け寄っていた。

その動きは、おおよそ永く存在していた神の挙動とは程遠いとクゥーリィーは思った。


「それは…ええっと…、それは…ニョウドウという呪いなのじゃ!身体の内部から侵食していき、身体の内部から耐え難い痒みを引き起こす恐ろしい呪いなのじゃ。」


「ななななな…」


ムセリヌは心底驚いた表情を作りながら後ずさった。

そこまで驚く内容なのかとクゥーリィーはまた意地悪く思った。


「なんだ…その恐ろしい呪いは!体の内部からくる強烈な痒みとなると、両手で掻けないじゃないか!」


ムセリヌは両手を背中にまわし、ぼりぼりを背中を掻く仕草をしていた。


「そうじゃ。だから、この呪いに罹った者はその耐え難い痒みを治める為に、呪われた部分を押し潰して痒みを抑えようとするのじゃ」


「自分で自分の身体を押し潰す…だと? なんという…恐ろしい呪いなんだ…。」


「わしは、局部の痒みに苦しむムタロウを偶然見かけ、あまりにも気の毒だったので、ムタロウの局部に活性魔導を施したのだ、あくまでも一時的な効果しか期待できないが…。」


ラフェールの話を聞き、今度はクゥーリィーもそうだったのかと、内心驚いていた。

ラフェールがムタロウの局部に活性魔導を施している姿を想像して、少々気分が悪くなり、直ぐに頭の中の妄想をかき消していた。


「以来、ムタロウはわし無しでは生きていけないのじゃよ。解呪をしない限りは。」


実にわざとらしくラフェールは目をつぶりながらしんみりと答えた。

ほんっっっっとおおにわざとらしい!とクゥーリィーは再びラフェールに対して憤慨していた。


「そ…そうだったのか。ムタロウ…お前は強力な戦士だが、そんなお前も苦しんでいたんだなあ。」


ムセリヌは心底ムタロウに同情した表情を見せながら、言葉を続けた。


「わたしの鱗で、お前の「にょうどう」の呪いが解けるならば、好きなだけ持っていくがいい。早く「にょうどう」が治るといいな!「にょうどう」が治ったらまたわたしと戦おう!ムタロウ!」


「あ、ああ…そうだな。」


ムタロウは消え入りそうな声で返事をした。

先の戦闘では、これ以上無く大きく見えたムタロウの背中が、今はもう小さく、消え入りそうになっている様子を見てクゥーリィーは心底ムタロウに同情をしていた。


◇◇


「で、鱗は何処にあるのですか? 見た処、ムセリヌさまの身体に鱗の様なものは見えませんが…」


いたたまれなくなったクゥーリィーは鱗の話を提示する事で話題を変えようと試みた。


「ん?…ああ、それはな。」


ムセリヌは、くるりと背中を向け、竜の石像へすたすたと歩いて行った。


「これだよ」


ムセリヌはそう言うと、無造作に竜の石像の首の部分に手を掛け、石像の鱗を表現した部分をぶちぶちとむしり始めていた。まるでその辺の雑掌を引っこ抜くような様な粗雑な扱いだった。


「これ。鱗。これを持っていけば良い。ただ、これ、そうだなあ…3年位は高熱を発しているんで、持ち歩く際には断熱する容器に入れた方が良いぞ」


そう言うとムセリヌはさらに両手でぶちぶちと竜の石像の鱗をむしり始めていた。


「ま、これをどうやって解呪に使うか皆目見当がつかんが、これくらいあればいいんだろう?」


ムセリヌは鱗を20枚程剥ぎ取り、ほれほれとムタロウ達に見せていた。

剥ぎ取られた鱗は、赤みを帯び、やがて、表面から火蟲がちりちりと滲み出始めていた。

すると、ただの鱗を模していた石は、じわじわと熱を発し始めていた。


先刻まで、バツの悪さから空気になっていたムタロウであったが、目当ての品を目の当たりにして、嬉しそうな表情を浮かべていた。


「ありがとう…ムセリヌ。」


ムタロウはムセリヌに頭を下げ、感謝の言葉を口にした。

クゥーリィーはムタロウが人に感謝を伝える事が出来る人だったのかと、少なからず驚いていた。(ひどい話だが)


「ふふん…、まあ、わたしの応対にも礼を失した所があったしな。」


ムセリヌは、ムタロウが頭を下げて感謝の意を伝えた事に対しまんざらでもない様子だった。


「今回の件で、お前を慕う竜人族や、お前のペット・部下などを死なせてしまった。本当に申し訳ない。」


「ん?…ああ! そんなの気にするな。あいつらが勝手にわたしに近寄って来ただけの話で、わたしは何も気にしていないぞ。まあ、今後竜人達が運んでくる食い物が減るのは、ちょっと困るが……。まあ、大した話じゃない。」


ムセリヌの言葉を聞いてクゥーリィーは神というのはやはり人とは異なる感覚を持ち合わせているものだと妙に感心していた。

兎に角、彼女の慕う竜人や部下を殺傷した事を全く気にも留めていない事に今は良かったと思うのであった。


「それより、今日はここに泊まるよな? お前達のここまでの旅の話を聞かせろ!わたしもこの世界の動向について知ってることを教えてやるから!」


ムセリヌはムタロウの丁寧な応対に対して好意を持ったのだなとクゥーリィーは思った。

ここまでの旅は本当にロクなものではなかったが、赤竜のいう世界の動向には俄然興味がったので、是非話を聞きたいと思った。


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