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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
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命の選択

頭に浮かんだ事を書こうとすると想像以上にエネルギーを使いますね。

プロってホント凄いなと痛感します。

 ムタロウは先刻豚が出てきた扉を開け、先に穀物庫内の奥へと進んだ。

穀物庫の部屋と部屋を繋ぐ廊下は換気が不十分で豚種の体臭や体液の青臭い臭いで充満していた。

ムタロウはその強烈な臭いにえづきながらも歩を進めていた。


「すごい臭いじゃのう…、まぁ嫌いな臭いではないがのぅ。」


いつの間にかラフェールがムタロウの右横でクンクンと鼻を鳴らしながら歩いている。


「手前ェ、何処に隠れていたんだ?」


ムタロウは半ば呆れながら問うた。


「隠れていたんじゃよ。もし、お前さんがやられたら即座に逃げないとな。捕まって豚共に犯されたらいくら気持ちよくても身が持たんからのぅ。」


豚でも犯す相手は選ぶだろうよと思いながらムタロウは質問を続けた。


「なぁ、コンジローの娘はどこにいるんだ?ここに囚われているんだろう?」

「まぁ、もう少し歩くと右手に物置部屋へと続く階段があるらしいから、その部屋じゃろう。」

「2階には物置部屋しかないのか?」

「そうらしいのぅ。」」


ラフェールは穀物庫の構造にはさして興味がなかったのか、話題を変えた。


「先程の戦いはかなり危なかったのぅ。あの豚が偶然攻撃を外したので、何とか勝てたものの。」


「ふん…」


ムタロウはラフェールの言葉を無視して階段を上っていた。


「(偶然な訳ないだろ)」


そう、偶然ではなかった。

ムタロウは豚の剣の軌道を()()()文字通り紙一重で避けたのである。

ムタロウは自身の持つ()()で豚の必殺の一撃を回避したのである。


ムタロウは転移者だった。

この世界で転移者や転生者は然程珍しい存在ではなかった。

また、転移者はそれぞれ固有の能力を有している場合が多かった。

ムタロウも例外ではなかった。

ムタロウの能力は未来視であった。

5秒先の未来を見る事が出来るという能力であった。

殊、戦闘に際しては5秒先の未来を見えるこの能力は非常に有益な能力であったが、厄介な事に任意での発動は出来ず、()()()()()()()()5()()()()()()()()()()代物であった。

ムタロウは自身の能力を|未来視(命の選択)と呼んでいた。


能力が発動した時は、決まって直ちに命を守る判断の選択を迫られた。

先刻の戦闘でも豚が大剣を振り上げた時、未来視(命の選択)が発動されていたが、視た未来に現実が追い付いてくる5秒間でムタロウが取れる行動は大剣の軌道から僅かに身体の位置をズラす事しかなかった。

未来が見えていても5秒後に死が迫り来ると認識しつつ、冷静な判断と的確な行動は口で言うよりもはるかに困難である。

ムタロウはその困難な芸当をやってのけ、この世界で生き延びてきた。

死の未来を見る度に運命に抗い、生き延びてきた。

体格も普通、剣の技術も飛び抜けている訳ではないムタロウは己の精神力の強さと的確な判断力で生き延びてきた。


階段を上りきり物置部屋へ続く扉を開けると、首輪に繋がれ虚な目をした少女が視界に入ってきた。


「あそこに繋がれている人がそうじゃないかのぅ。」


「そうみたいだな。赤毛の女、歳は14歳。顔は…腫れ上がっていてよく分からないな。」


「そうじゃのぅ…顔がこんな様子だとあそこの方もえらい事になっているだろうのぅ。」


お前が気にするのはそこなのかと、ムタロウはラフェールの言葉に腹を立てた。


「おい、お前さっき慰安専門と言ってたよな?治療は出来るってことだろ?」


「頭が悪い癖に余計な事には思考がまわるのぅ。」


ラフェールはぶつぶつ言いながらクゥーリィーの下に近寄り、皺だらけの手をクゥーリィーの顔に乗せ、回復魔導の詠唱を始めた。

ラフェーラの皺だらけの手とクゥーリィーの間に水色の柔らかい光がゆらゆら輝いている。

水色の光が揺れる度に豚共に殴り蹴られた事による腫れと多数の痣や擦過傷で原型を留めていなかったクゥーリィーの顔の腫れは引き、痣や擦過傷も消えていった。


「ほれ、言われた通り治したぞ。」


「全身隈無くやれ。」


ムタロウは手を抜くなと言わんばかりにラフェールに指示をする。

ムタロウはラフェールがぶつくさ言いながら言われた通りにする様子を見て満足げな表情をしていた。


「ほれ、言われた通り全身隈無く治癒魔導を施したぞ!」


疲労感を滲ませながらラフェールは憮然とした表情で作業完了の報告をムタロウにした。


「漸く役に立ったな。」

とムタロウ。言葉に歪んだ悦びの欠片が見え隠れする。


「ふん」

とラフェール。敢えて無関心を装うと芝居がかった言い方であった。


「あの…」


「なんじゃ」


「あの…助けてくださって、ありがとうございます。一時は死を覚悟しましたが、これで死んだら惨め過ぎると思い、死にたくない死にたくないとずっと考えていました。本当にありがとうございます。」


本心であろう。

監禁、暴力、輪姦の末に殺されるのは人間の持つ尊厳に対する冒涜である。


「いや、助けに来るのが遅れてしまい、辛い思いをさせた。」


ムタロウは14歳の少女がここまで酷い目に遭いながらも、精神に異常をきたさず、気丈に振る舞っていることに驚嘆していた。


クゥーリィーは特徴的な燃えるように鮮やかな赤毛を持ち、形の良い吊り目、彫刻の様にに筋の通った鼻、そして瑞瑞しいぷるんとした唇と中々の器量良しであった。

胸や尻はまだ年相応であり成長途中であるが、それでも彼女の持つ華やかな空気は、辺境の田舎町であるブクロでは太陽の様に眩しい存在であろう事が容易に想像できた。

それが、仇となり今回の災難につながったのだが。


「これで14歳となると数年後は…」


ムタロウが目の前の少女の成人を迎えた時の姿を想像していると、何者かが股間を絶妙な力加減で揉んでいることに気付き、後方に飛び跳ねた。

言うまでもなく「揉んだ主」はラフェールであった。


「ひひ、また良からぬことを考えておるのぅ。硬くなる速さが新記録じゃぞ…ひひひひひ」

目を爛々とさせながらラフェールがニタニタしている。


「てッ…!手前ェ!」


ムタロウは図星を突かれ、羞恥心から耳と顔を真っ赤にしながら剣を鞘から抜き、斬りつけた。


「図星じゃな!あともう少し揉めたら先汁が出ていたかのぅ!!ひひひ」

ラフェールはひょいとムタロウの剣を回避しながら嬉しそう飛び跳ねていた。


クゥーリィーは股間を揉まれ不覚にも反応してしまったみっともない大人と猿の様子を見て


「(馬鹿な大人がいるものだ…)」


と思ったのだが、命の恩人に対して何と罰当たりな事を…とぶんぶんとかぶりを振っていた。




命を助けられた者、命を助けた者と、夫々が夫々の立場で安堵し、弛緩した空気を撒き散らしている最中、その様子をじっと見ている者がいた。


「転移者ですか…面白いですぅ。」


クゥーリィーに薬を盛ったベリーショートの中年女だった。

女は新しい玩具を見出した子供の様に目を輝かせ、3人を見続けているのであった。

読んでくださってありがとうございます。

感想とか、ぜひよろしくお願いしします。

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