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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
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戦いのあと

1話から読み返してました。

インノとインケという難敵を退けたムタロウ達は、赤竜のいる社を目指し、参道を進んでいた。

インノ達との戦闘は、結果だけ見れば一方的な結果であったが、インノとインケの火魔導具を用いた連携攻撃は脅威であり、並みの冒険者では太刀打ち出来る代物ではなかった。

そのことは、ラフェールもクゥーリィーも認識しており、そして、彼らとの戦闘に勝利できたのは、ムタロウの不可解な動きが大きな要因である事もまた、二人の共通した認識であった。


ラフェールは先頭を歩くムタロウの背を見ながら、赤竜の砦に来てからのムタロウの戦闘能力の異変に驚愕していた。

以前から先読みの優れた男であったが、ビュルルやインノ達との戦闘は先読みの域を超えていた。

もはや先読みというより、「先を作る」といった方がしっくりきていた。


「(あの時・・・火魔装を纏った竜人…インノだっけか。きゃつにムタロウが殴られた時、ムタロウは意識を飛ばしていた。完全に無防備で槍を持った竜人に殺られるのを待つだけだった…)」


ラフェールの思いの通り、ムタロウはあの時、インケの魔導槍コンジロムによって葬られている筈であった。

しかし、竜人達を含めその場にいた全員が次にムタロウを見たのは、コンジロムの放つ火粉の檻やコンジロムの攻撃範囲から十分に離れた安全距離に立つムタロウであった。

その間の記憶がない。


「(これは…わしの推測が正しいとなると・・・)」


ラフェールはムタロウの背中を見てぶるっと身体を震わせた。


「大丈夫?ラフェール?」


クゥーリィーがラフェールの様子がおかしな事に気付き、心配そうに声を掛けてきた。

クゥーリィーはクゥーリィーで先刻のムタロウの戦闘に驚愕と疑念が湧いていたが、それ以上にラフェールの様子が気になっていた。

クゥーリィーの目から見ても、ラフェールは明らかに動揺していた。

恐らくはムタロウが原因であろうと推察は出来たが、それにしてもその様子は尋常ではなかった。


「ほほほっ・・・大丈夫じゃよ!ちょっと小便を漏らしてしまって震えただけじゃ」


「ちょっと・・・そのままだとおしっこ乾いて臭いがこびりつくよ。その辺の沢で洗った方がいいんじゃない?」


そんな訳ないだろうと思いながら、クゥーリィーはラフェールの下手な嘘に乗ってあげる事とした。

嘘をついて誤魔化す位なのだから、話したくないのだろう。

誰だって話したくないものの一つや二つはある。

そう言い聞かせて、クゥーリィーは話をやめた。


◇◇


30分ほど歩き続けていると、参道の幅は徐々に広がり始め、山の外周を廻り込むように整備されていた参道の足場はいつの間にか石畳への変化し、更に石畳の道を歩くと突如山頂まで続く頂戴な階段に突き当たっていた。

山頂まで300mほど続く急な石階段であった。


「どうやら、この階段を上り切った所に赤竜がいるようだな!あとひと踏ん張りだ!」


まだ歩くのかと、ラフェールとクゥーリィーはげんなりしていたが、二人のそんな気持ちなど気にもせず、ムタロウは意気軒高に階段を上り始めていた。


「これムタロウ!休みなしでこの階段を上れというのか!少しは老人を労われ!」


いい加減にしろと言わんばかりにラフェールが抗議の声をあげた。


「ラフェールの言う通りですよ。少し休みましょうムタロウ!」


クゥーリィーもラフェールの意見に同調して休憩を取る事を主張した為、ムタロウは不本意そうな顔をしながら二人の意見を尊重して休憩を取る事にした。


「そう言えば腹も減ったな。飯でも食ってから上るか。」


「最初からそうすればいいんじゃ!本当に気の利かない奴じゃ・・・・」


「む・・・確かにそうだったな。漸く赤竜に逢えるかと思うと、気が急ってしまって・・・配慮が足りず申し訳なかった。」


珍しくムタロウが素直にラフェールに謝っていた。

周りが見えなくなっている事を指摘されて気恥ずかしかったのだろう。


「ふん・・・この償いはひとしゃぶりじゃな。」


「いや、それは断る。」


ああ、いつものやりとりだなと二人を見て思った。

若い娘の前でする内容の会話ではなく、街中でも平気で繰り広げるこのやり取りを心底辞めて欲しいとクゥーリィーは思っていたが、命のやり取りをし続けている中、精神が削れる局面でこのようなやり取りが出来る二人に強い信頼関係を見た。


「(私も、二人からの信頼をもっと受けたいな・・・)」


クゥーリィーは二人を見ながらそう思うのであった。


「さあ、一休みしたし、最後の階段登りをやるぞ!目指すは赤竜だ!」


これまでにない溌溂とした声をムタロウが出した。

10年以上悩まされた呪いを解除するキーピースが目の前にあるのならば、そんな声を出してしまうのも止む無しか・・・とクゥーリィーは思った。


三人は、赤竜の社に向けて階段を上り始めた。


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