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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
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対峙

参道は山肌を廻り込む形で整備されていた。

故に日本の寺社の社迄一直線の階段で構成された道ではなく、よく整備された幅の広い登山道といった風情であった。

これは、社の位置する標高が高く、急峻であるが故に、このような形になったと思われるが、結果として守り易く攻めにくい構造となっており、また、守護者を効果的な位置で配置しやすいという軍事的な副産物も伴っている様に思えた。

参道の坂道が途切れ、平坦となった場所に到着した時、甲高い声が響き渡った。


「よくここまで来たな!…いや、来れたなあ!」


ムタロウ達の眼前に二人の竜人族が腕を組んで傲然と立っていた。

二人は、頭に赤いターバンを巻き、上半身は裸、下半身に赤と白のギンガムチェック地のスカートを履いていた。

片方は女性らしく、わずかに膨らんだ乳房と500円大の乳輪が女性を主張している。

ムタロウは趣味が悪いなと生理的嫌悪感を持った。


「うわ、お前さん達なんちゅう恰好をしているのじゃ…。」


ラフェールが二人を見てずけずけと言う。


「なッ…」


「特に片方は女じゃろう?若い女が乳を出すもんじゃない!しかも、殆ど板なのに、乳輪がやたらデカいなど、男がひくぞ…悪い事は言わん、隠しておいた方がいい。」


初対面の人によくもまあ失礼な物言いをするとムタロウは思ったが、一方でラフェールの言い分も理解できる為、ムタロウはどういった表情を作れば良いか迷い顔を歪めていた。

そんなムタロウを訝しむ表情ででクゥーリィーは見ている。


「(性病に罹る位だから、ムタロウは女に弱いに違いない…あんな露出している女を見て油断して不意打ちを喰らわないか、私が注意しないと。)」


クゥーリィーがそう見ている事を、当の本人は知る由もなかった。

世の中、知らない事があった方が幸せなのだというささやかな事例と言える。



「乳を出すのは、我が主の意向である。そして、私の乳輪が大きかろうが小さかろうが、お前らにとやかく言われる筋の話ではないッ!」


女の竜人は顔を真っ赤にしてラフェールに反論した。

顔を真っ赤にしたのは、怒りなのか羞恥なのかムタロウには分からなかったが、主の意向を否定された事よりも乳輪が大きい事を指摘された事に反応したようであった。


「まあまあまあ。インノ、落ち着きなさいよ。」


インノという女の竜人の隣にいた男の竜人が茶化すように声を掛ける。


「そんな安っぽい挑発に乗っちゃだめだよ。インノ。大事な事があるでしょう。」


「ああ…ごめん。そうだった。乳輪の話なんかより、ビュルルの件について責任取って貰わないとね。」


「なんじゃ、やはり乳輪の大きさについて気にしていたのか。ならば猶更、服を着た方がいいぞ。」


「てめえ!」


インノは再び顔を真っ赤にして槍を構えるや否や、ラフェールに向けて稲妻の如く突進し、矛先をラフェールの喉元に突きつけていた。


「インノ!安い挑発に乗るなと言ってるでしょう!」


「でも、この婆ァは明らかに悪意を持って挑発してきたよ。売られた喧嘩は買わないと舐められっぱなしじゃないか!」


そう言ってインノは男の竜人に顔を向けて睨みつけていた。


「ウチのラフェールが失礼をした事は謝る。しかし、今、そいつに突きつけている槍を更に前に突き出すのであれば、それなりの対応をするが良いのか?竜人よ?」


ムタロウは警告を発した。

刀身は鞘から既に抜かれている。

表情こそ変わりは無いが、ムタロウの周囲の空気感が明らかにささくれ立っていた。


「ふ、ふん…!そっちの婆ァが挑発をしたもんだから脅しただけだよ。」


インノがムタロウの発する空気に気圧されたか、一歩後退して槍先を下げた。


「それで…俺達に何の用か?」


ムタロウはささくれ立った空気感そのままにインノに問うた。


「あたしと、こっちのインケは、ムセリヌ様に仕える守護者さ。先刻、お前らが殺ったビュルルも同じく守護者だった。」


「…。」


「お前等は偉大なる竜王ムセリヌ様の財産であるビュルルを殺した…これは、ムセリヌ様に仕える同胞としてあたしたちは看過できぬ!」


「なッ…なんて身勝手な言い草ですか!あのクマンコは突然私たちを襲ってきて私は、危うく命を落としかけたのですよ!自分の命を守る為に戦闘となり、結果として敗れて命を落としたのならば、仕方ないじゃないですか!」


クゥーリィーが珍しく感情的になっていた。

無理も無かろうと、クゥーリィーを見ながらそう思っていた。


「ええい、黙れ!禁足地であるムセリヌ様の居住地に無断に侵入した時点で既に重罪を犯しているのに、更にこの地を守護する者を殺す時点で、極刑に値する事が何故分からん!」


「あなたの言う事は一方的で、かつ、身勝手この上ありません!」


「クゥーリィー…、この者達と口論をしても無駄じゃよ。彼奴らは人の言葉を喋るだけの獣人なのじゃから、ワシらの理屈などどうせ理解出来ぬ。じゃから、竜の奴隷の身分である事すら理解出来ずに、その身にいる事に悦びを感じているのじゃからな。」


「クゥーリィー…まあ、ラフェールの言う通りだと思う。こいつらに道理を話しても無駄だ。こいつらはただ、俺達を殺りたいだけだ…なあ、そうだろう?蜥蜴ども?」

「蜥蜴どもよ…俺はお前等とくだらない議論をしているこの時間が非常に無駄であると思っている。くだらない挑発はやめて、さっさと掛かってこい…時間が惜しい。」


「(なんだ…こいつの周りの空気は‥・空間が歪んで見える…なんだ…まるで時空が止まっている様な…なんだ…これは?)」


インケは、ムタロウの周りに時間の歪みを見ていた。

インケは、ムタロウがただの剣士ではない事を悟り、如何にして生き残るか思考を巡らせていた。


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