ふりかえり
久しぶりに、短期間での更新が出来ました。
クマンコを退けたムタロウ達は、再び赤竜の下に向かうべく歩を進めていた。
「(先刻のクマンコは守護者であったのだろう。)」
ムタロウは歩きながら、先刻のクマンコとの戦闘を振り返っていた。
確かにクマンコは脅威ではあるが、クゥーリィーの火魔導が一切効かない程に魔導耐性が高いという話は聞いたことがない。
何者かが、クマンコに魔導耐性の施術を行ったのだろう。
一体誰がクマンコに魔導耐性を施したのか?
考える迄もなかった。
この砦の主である赤竜が施したのは火を見るより明らかであった。
ムタロウは、クマンコに魔導耐性を付与した赤竜の意図を考えていた。
クマンコとの戦闘においては、魔導を用いて距離をとった攻撃が基本である。
近接戦闘はクマンコの力とその巨体に似合わぬ俊敏性。
そして、凶悪な爪による負傷…四肢欠損リスクが高いため、前衛は魔導師の防御に回るのが一般的であった。
魔導師になって経験の浅いクゥーリィーはそんな戦術は知識として有していなかったが、今回、クマンコの奇襲によりムタロウとクゥーリィーの間に分断が生じ、意図せず魔導師であるクゥーリィーの魔導攻撃が開始されたのだが、対峙したクマンコは魔導攻撃に対する恐れをもっていなかった。
クゥーリィーの必殺の火線を恐れる事なく簡単に払っていた。
これが何を意味するのか?
あのクマンコは、赤竜目指して参道を通る人間を常習的に襲っていたのだろう。
襲った者の中には、今回のクゥーリィーの様に魔導師もいた筈である。
幾度の戦闘を経て、魔導は効かないという成功体験を重ね、参道の絶対的な守護者となったと想像される。
只でさえ強力な魔獣であるクマンコに魔導耐性を付与し守備力を上げて参道に放つという事実を鑑みると赤竜は彼の領域内に人が立ち入る事を嫌っていると想像出来る。
となると、参道の守護者はクマンコで終わりとはならず、第二・第三の守護者が現れる事も考えないといけない。
更に、仮に守護者を退け赤竜に会う事が出来ても、ムタロウの願いを一蹴し、戦闘に入る懸念もある。
「(性病を治すために、命を懸けるとは…)」
我ながら馬鹿な事をしているとムタロウは思った。
しかし、この耐え難い痒みを根絶できるという希望は命を掛ける価値があるとムタロウは思うのであった。
それだけムタロウにとってクラミジアによる尿道の痒みは耐え難い苦痛であったのだ。
◇◇
「(私の魔導が効かない相手が出た時、私はどのように動くのが正しいのだろうか)」
クゥーリィーは、先刻のクマンコとの戦闘に於ける自分の行動を思い返していた。
必殺を期して放った火線四連撃が全く通用しなかった事実を突きつけられ、クゥーリィーは自分の拠り所が崩壊していく感覚に襲われていた。
ムタロウやラフェールはあのクマンコの様に魔導耐性が高い敵ではよくある事と言ってくれていたが、素直に彼らの言葉を受け入れる気持ちにはならなかった。
「(本当に魔導耐性が高いから私の火線が通用しなかったのだろうか?)」
クゥーリィーがそう考えたのは、彼女の繰り出した火線は弾かれたが、クマンコの動きを拘束する為に放った火糸は一時的とはいえ、狙い通りクマンコを拘束出来たことからだった。
一般的に魔導耐性が強いというのは、魔導の素である蟲がまとっている特性(火・雷・水)を無効化する能力が強い事である…と、魔導学校で学んでいた。
となると、火線に較べると遥かに温度が落ちる火糸であっても、火蟲の纏う火の結合によって作られた糸が消滅し、クマンコの拘束には至らないのではないか。
もし、そうであるならば、あのクマンコは魔導耐性が強いというより、火に対する耐久性が高いだけなのではないか。
「(もし、私の推論が正しければ、今回の様な敵に遭遇した場合、火属性以外の魔導で攻撃をするか、もしくは火糸で敵の動きを拘束してムタロウに止めを刺して貰うか…かな。)」
クゥーリィーは火魔導以外の習得の必要性を考え始めていた。
「(あれ?)」
ふと、クゥーリィーの脳裏にもやっとした疑念が生じた。
「(そういえば、あの時、ムタロウはどうやってクマンコの攻撃を止めたのだろう?)」
◇◇
ラフェールは、前を歩くムタロウの尻を眺めながら考え事をしていた。
クマンコとクゥーリィーが対峙していた時、彼らとムタロウの距離は8メートル程離れていた。
クゥーリィーに対する止めの一撃を止めに入れる距離感ではかなった。
クゥーリィーは殺されたと、ラフェールは諦めていた。
しかしながら、クマンコの攻撃はムタロウに止められ、ムタロウの剣による突きでクマンコの脳は貫かれ、攪拌され、斃された。
この間の過程をラフェールは見ていなかった。
あの時、ラフェールの傍らにいたムタロウが、気付いたらクマンコとクゥーリィーの間に割って入っていた。
ラフェールはムタロウの動きを認識できなかった。
ムタロウの動きが神速だったというものではなかった。
ムタロウは何かしらの能力を使った…そう考える他なかった。
ムタロウは自分の持つ能力を決して口にはしなかったが、長年行動を共にしているラフェールは、彼の持つ能力が何であるか、おおよそ目星はついていた。
ムタロウの戦い方は常にギリギリであった。
余程の実力差がない限りは、常に命の危機と紙一重であった。
恐らく、命の危機が生じた時に発動する先読みの能力の様なものなのだろうとラフェールは考えていた。
しかし、その能力はあくまでもムタロウ本人にのみ適用されるもので、他人の戦闘での先読みは出来ないと事も、これまでの経験でうっすらと認識していた。
「(先読みでは無い能力となると、わしのあの認識の空白は…)」
ラフェールは頭の中に「未来創」という単語が浮かんだ。
文字通り、未来を創る能力である。
ムタロウは、クゥーリィーの危機に直面し、ムタロウがクゥーリィーを助ける未来を創造したのではないか?
クゥーリィーを助ける未来のみ創ったが為に、移動の過程がすっぽり抜けていたのではないか?
そう考えて、ラフェールは首をぶんぶん振って一人否定していた。
「(ばかばかしい。そんな神の領域の力を使える奴が性病に悩むとかないだろうが。)」




